いい肉の日 

 お久しぶりです。しばらくこのエッセイあるいわたくし小説をお休みさせていただいて、小説フィクションを書いていました。というか今も書いてて修羅場ってます。しかし、見えてきたんですね。間に合わないと。なので開き直ってエッセイです。


 いい肉の日ですからね!


 もう遠い昔のことのようですが、っっすい牛肉をステーキにした回でコメントをいただいんです。ステーキを食べたことがなく、硬い肉は(おそらく)物理的にNGで、なんとか柔らかいお肉を食べたいと。私は思いました。


 お可哀かわいそう!!


 わたくしは涙しました。なんてお可哀そうなのかと。これはなんとしても柔らかいお肉の食べ方を見つけなければならぬと、そう思いましたの。けれど、わたくしの買う安っすい牛肉はそうそう店頭に並びませんわ。すぐ売れちゃいますし。そこで、


 図書館に行って参りましたわ!


 ええ。料理とはエンジニアリングですもの。食材が手に入るまでに知識を溜め込むのが肝要ですわ。わたくし、この際お料理の知識をアップデートすべく書物を漁っておりましたの。小説の執筆と並行して。


 ……地獄でしたわ!?


 なんですのこのお料理本の山は! よくわかんないイケメンとかよくわかんないギャルとかよくわかんないおばちゃんとかよくわかんないおじちゃんが大量に大量に大量に、焚書してやりたくなるほど出してましてよ!?


 しかもそのほとんどがレシピ本でいやがりますわぁぁぁ!


 わたくしが欲しいのはレシピなぞではなく肉を軟化する方法でしてよ!? お料理本なぞ除外除外除外! からの! 肉の科学本ですわ! いわゆる冷温調理などを生み出した分子調理が広まるにつれ加速度的に数を増やした料理本、いえ料理学は、諸外国でも従来の手法を覆すコペルニクス的展開を見せていますのね。


 で。さっそくですけれど、前回のわたくしの知識に間違いがございましたの。

 お肉を焼く前にお塩をしてたから四十分ほど待って~というくだりですわ。何をどう勘違いしていたのか、調べてみたら厚さ三センチ以上なら一晩は置くとあって、塩によって出た肉汁ドリップを再吸収させるという論理でしたの。ごめんあそばせ。


 さらにさらに。和牛――いわゆる黒毛・褐毛あかげ・無角・日本短角種に同じ下準備を施すとサシが多い分だけ肉汁の流出量が増えてしまうようですわ。わたくしが元にしたおフランスの料理本ですので、おそらく使っているお肉はリムーザン種やシャロレー種ですのね。したがって、赤身でも元から柔らかい品種になりますわ。


 さて、お肉を柔らかく――しませんわ!


 わたくし考えましたの。安っすいお肉を柔らかく食べるべく、お肉のph値をコントロールして水分量を増やせばとか、ブライン液に漬け込んで保水力をあげてやればとか、パイナップルのブロメラインでタンパク質の分解を狙うとか……でも!


 っっっかいお肉には何をどうあがいても勝てませんわ!?


 だいたい! だいたいですわよ!? 庶民のお手々に実によく馴染むリーズナブルなお牛さまアンガスの肩ロースステーキ肉でも二枚で千円切りますのよ!? サシのたっぷり入った和牛にしたって一人前で三千円からございますのよ!?


 年に一回くらい高っっっかいお肉をらいやがりなさいまし!!


 わたくし脳みそはもうお肉でパンパンですわ! だいたいにして生涯ではじめて食べたステーキがわたくし謹製のガチガチ肉を無理くり柔らかくしたステーキとかお可哀そうすぎますわ! この際ですから誰彼構わず全力でおだて甘えおねだりして人生で二千回くらいは使える一生のお願いをお使いなさいまし!!


 そして、ご自身の手で、高っかいお肉を焼いてやりますのよ……!


 やり方はシンプルですわ。高っいお肉を常温に戻し、ステンレスないし鉄のフライパンをよく温めて、ドリップ拭いたら塩を振ってイン! このときボディスラムの如く叩きつけてはいけませんわ。わたくしはブルーザー・ブロディさまではございませんもの。しっとりと寝かせ、一分かそこらでそっとひっくり返して、また一分ほど。あとはアルミホイルに移して、そっと包んでくださいまし。


 一般に、焼いた時間と同じだけ寝かせるそうですわ!


 と、最後の最後で図書館で学んだ知識を披露して、締めさせていただきますわね。

 よい『いいお肉の日』ライフをお楽しみくださいまし!


 ……もう四時間も残っていませんけれど! ふふふ。



※ワンポイント肉軟化

 それでも安いお肉を柔らかくして食べたいという方は、アメリカのJournal of Muscle FoodsやJournal of food scienceなどが盛んでしてよ! 日本の畜産学会報などにもいくつか文献がありましたし、やわこいお肉は人を狂わせますのね!

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