モモ肉を、上手に、焼きたかった。
コメントというのはありがたくも恐ろしいものですね。実はエッセイはしばらくお休みしようと思っていたんですが、いただいたコメントに含まれていた、たったひとつの単語が、私の封印していた記憶を呼び起こしたんです。そして、
念のためですが、コメントの内容がどうこうという話ではありません。コメントに含まれていた、家庭科の授業というフレーズが、厳重に封印していた記憶を解き放ってしまったのです。ああ、思い出せる、思い出せる……あの、家庭科の、ババア!
わたくしが肉とは何かを教えて差し上げましてよ!!
……などと、のっけから思い出し憤怒でスタートしてしまいましたけれど、さすがに事情を説明しないとまったく
あれは、わたくしが小学生の頃ですわ……。家庭科の授業はなぜか実習室で行われていて、わたくしが窓の外の蝶々をぽけーっと目で追っかけていたら、先生がわたくしを指名しましたの。いまでもはっきり思い出せますわ。
ほら授業に集中! お肉の主要な栄養素はなに!?
あの金切り声……わたくし立ち上がって「脂質ですの?」と答えましたわ。途端に先生は鬼の首にウェスタンラリアットを決めたような顔をして、教室に響くよう、おっしゃいましたの。
あら~、お安いお肉しか食べさせてもらってないんですね~。
教室は爆笑に包まれ、まだ気の弱かったわたくしは縮こまってしまいました。あの日を境に、わたくしは、必ず、かの
まぁ先生ったら! 無理して赤身肉なんて食べなくても、じゅうぶん、お若く見えましてよ! 歯を痛めてしまっては大変でしょうし、ご自愛くださいまし……と!
……だって! だって腹立たしすぎませんこと!? ふつうサシだらけで脂っこいお肉が高級品とされていなくって!? わたくし子供のころから歯ごたえのある赤身肉を好んでいましたら恥ずかしいからやめろとか言われてましたのよ!?
あのバ――家庭科教師! そんなにタンパク質が好きならガチガチのすね肉ステーキにでも齧りついて前歯ごとポックリいって――――不毛!! 不毛にすぎますわこんな思い出し憤怒! わたくしは、わたくしはっ!
この外国産の! 激安ローストビーフ用モモ肉を焼いて食ってやりましてよ!!
クゥ! 前フリ長すぎですのでガンガン調理を始めますわ! まず分厚すぎる塊を二センチくらいの厚さにカット! それからスジ……赤すぎるのでスジどこじゃありませんわね……まぁ焼き締まったとて、わたくしの高潔な
では愛用のステンレスフライパンに少量の油を引いて加熱ですわ。
ステーキを焼くとき最も大事なことは温度管理ですの。冷温調理なら時間をかけた方がいいでしょうし、今日のわたくしのように固っちー肉を食いてーときは百八十度以上の予熱が必須ですわ。合図としては、油がまだらに滲むくらいでしょうか。煙が出たら高すぎなので火を消して調整してくださいまし。予熱の間にお肉さまにお塩をパラリ。これから焼こうという面にだけ振るのがポインツですわ。それから、
お塩は、理性が躊躇いをおぼえるくらい振るのがオススメですわ!
そして塩を振ったら即座にフライパンにイィィン!!
オーッホッホッホ! お肉が! お肉が焼ける匂いがしましてよー!!
ちなみにこの焼き方! 邪道とされていますわぁぁぁ!!
でもいいんですの! わたくし今日は歯と顎で肉を食いたいんですもの! 焼き色がついたら引っくり……返す前に塩パラ、今! 上品なステーキを作りたいならひっくり返していいのは一回だけでしてよ! そして、よく、焼きますわ!
ええ……
ああ、中まで茶色……これこそ赤身ステーキの
わたくし、いま、お肉を食ってましてよぉぉぉ!
※ワンポイントステーキ
柔らかくて肉汁たっぷりのステーキを食べたいときは、お塩を振って三、四十分は待ってから焼くといいですわ! またそのときは焼く前にキッチンペーパーなどで余分な水分を拭き取ってくださいまし! どんなステーキにもそれぞれ良さがございますし、肉好きの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます