緑のたぬきと菜の花

 いやあ。私が外食を好まない理由の半分くらいを占めている事件が世間を賑わせましたね。だから嫌なんですよ、外食。ちなみに残り半分のうち三割が店員さんで一割が厨房内、最後の一割が口に合うかどうかです。


 そばが食べたかったのに……!


 私は蕎麦が好きなんです。とくにつけ蕎麦。ざるとかもりとかせいろとかなんですけど、これ蕎麦屋で食べるのが一番です。でも出掛けに例の事件のニュースを見ちゃって無理です。スーバーにそば粉も売っていますが手打ちはとても面倒なうえに店より美味しいのは無理。不本意ですが仕方ない。


 わたくしは何者をも裏切らないお緑のたぬきで我慢ですわ!


 ああ腹立たしい! 腹立たしいですわ!! 行きつけというほどでもないけれどたまに利用していたお蕎麦屋さんがあったのに! 大丈夫だと分かっていてもわたくしの記憶が風化するまで地味に信用できなくて食事を楽しめませんもの! くやちい!


 まあ真に悔しい思いをしていらっしゃるのは外食産業さま側でしょうし客として行ったれよと思わないでもないけれど、それはそれとしてわたくしは無理! そういう意味ではインスタントだって信用しきれませんけれど外食よりだいぶマシ! 


 というわけで、東洋水産さまのお緑のたぬきのビニールをペリペリ!


 ん? なんですの? インスタントのどこがお料理か? でしたら、お緑のたぬきの容器を手にとって側面を眺めてくださいまし。このように書いてありますわ。


 調理法――。

 

 ええ! 生産者さまがおっしゃっているのですから間違いありません! お緑のたぬきは調理! お緑のたぬきはお料理でしてよ! でもお緑のたぬきだけですと栄養不足かつお緑のたぬきというお名前に反し緑が足りないのでお菜の花! お菜の花はてけとーに分断して軽く洗っとけばおっけーですの。


 したらば取りいだしますのはこちら、HARIOはりおさまのV60ドリップケトル・ヴォーノですわ! ヘアラインシルバーなボディがお美しいステンレスケトルですの。わたくしの記憶がたしかなら、UCCさまの懸賞で頂いた品でしてよ。モコモコした柔らかい曲線に緩急自在の注ぎ口、そして可愛い特殊性――、


 お湯が沸くと蓋がリンリン鳴りますの! 鈴みたいな音色で!

 

 ……まぁお水を入れ過ぎると鳴りませんし、その場合は沸騰したお湯が注ぎ口から噴出いたしますので、慣れないうちは注ぎ口の前方にお鍋をセットしとくといいですわ。わたくしはその鍋にお菜の花を設置しておきます。ちなみにこのケトル、蓋の足が長いので九〇度に傾けても大丈夫なグッドデザインでもありますのよ。


 ケトルを火にかけましたらお緑のたぬきを開封、スープの袋を爪弾きましてよ。スープの粉末を下に集めますのね。容器に入れるときは袋の両端をもってガサゴソやるのがオススメですわ。爪弾きすぎるて底で固まってたら指でグリグリですの。


 ……む? ケトルさまがリンリンと……鳴ってる? ん? 噴いてる! お湯を噴いちゃってますわ!? でも大丈夫! 菜の花にほどよく熱湯がかかりました! ふふふ! わたくしともなればミスも計算のうちですのよ! 


 ケトルの火を止めたらお菜の花の鍋にちょろっと注いで塩ぱっぱ。残りのお湯をお緑のたぬきの容器に投入。これでほぼ調理終了ですけれど、お菜の花は鍋から引き上げておきましょう。グズグズになっちゃいますし。


 では残りの二分で小話!


 スーパーへ向かう道すがらすれ違いました近所の幼女さまが、お母さまとお昼について話しておられましたの。お母さまが「お昼ごはん何がいい?」とお尋ねになられますと、幼女さまはこう答えましたわ。


『私サイゼリ屋さんがいい!!』


 サイゼリ! 知らない食べ物! とわたくし思わず振り向いてしまったという話をしてたらお気持ち伸び気味ですわ!? 蓋をペりって菜の花を軽く絞りオォォン!! 


 できましたわー! お緑をマシたたぬきでしてよー!


 うん。なんか信じられないくらい安心する……お緑のたぬき味ですわ。ああ、お蕎麦が食べたかった……! お蕎麦が食べたかったですわ! わたくしお緑のたぬきはお蕎麦として食べていないのでお緑のたぬきとしか認識できませんの……!

 

 ちなみにお緑のたぬきで一番好きなのはおつゆの方でお蕎麦部に関してはマジなんなんですのコレ感ありますわ。麺はお赤いケツネがええですわね。一度だけ気まぐれにつゆを入れ替えたらどっちも微妙に。悲しいですわ。


 ああ、憎い! 憎い! すでに下限に接しているわたくしの外食への信用をさらに貶めるようなことをした輩が!


 彼の者の首を――は、さすがに……でも……くぅ! くやちい!



※ワンポイント外食

 外食のなかでも最も苦手なのは屋台ですわ! わたくしお祭りなんかに行って同伴者に◯◯食べようと誘われたらいいねと答えて買い与えつつわたくし自身は一口たりとも口をつけませんの! 夢とか楽しみを壊したくないし否定する気はまったく無いけれどわたくしは嫌! 潔癖ではありませんの! 潔癖ではありませんのよー!!

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