生姜焼き宇宙 《Pork-shogayaki-verse》

 昨日ひさびさに料理をしたら、ああやっぱり外食よりは嫌いではないなとなり申した。これは完全にわたくしの感覚の問題なのでしょうが、まず外食ってどこで食べても外食なんですよね。うっかりいにしえの構文を使ってしまいました。


 そんなときは、生姜焼きを食べよう。


 どこの誰を満足させようというのではなく、自分が楽しむのとも異なる料理、それが私にとっての生姜焼きです。お料理界の曖昧集合ファジィセット、それこそが生姜焼きなのです。家庭料理ではしちめんどくさいうえに不愉快でしかない定義づけのすべてを飲み込み、たったひとつに集約せしめるモノ――、


 それこそが、生姜焼きザ・ワンですわ!!


 ザ・ワン――もとい、生姜焼きには無数のレシピがございましてよ。特に高度なものですと宇宙開闢かいびゃくに関わります超ひも生姜焼きや、観測可能な全ての多元生姜焼きを集約するテグマークのレベルツー生姜焼きなど、ひとつひとつ数え上げると無限時間かかってしまいますの。


 ……ええ。分かってましてよ。無限は論理と計算であつかうもの。わたくしや多くの読者のみなさまにも認識しうる生姜焼きは無数でも、規則的集合にふくめれば有限の時間で数えられるはず――ご存知の通り、わたくしたちの生姜焼きは主原料とされる肉・玉ねぎ・生姜のあつかいによって、大きく二十七の集合に分かれますわ。


 まずは肉。定番のロース系、豚バラ、豚コマごちゃまぜで三種。

 次に玉ねぎ。くし切り系、横切り系、すり下ろし。

 最後に生姜。刻み、スライス、すり下ろし。


 三かける三かける三で二十七ですわね。さらに細かく分類すると豚肉は各部位ならびにブレンド、猪肉を使うなど。玉ねぎならば横切りと櫛切りの混ぜ、下準備で肉と和えるなど。生姜もミックスしたり丸で調味液につけておき……などなど。それはもうデアゴスティーニさまが『月間生姜焼き』を創刊しかねないほどありましてよ。


 でも、恐れないでくださいまし! 

 生姜焼きザ・ワンはどうつくっても生姜焼きザ・ワンになりますの!

 お料理が苦手、嫌いという方にこそ、お勧めしますわ!

 だって、生姜焼きザ・ワンはどなたさまの心にもおわしますもの!!


 お肉が嫌いならお豆腐やおはんぺん。お玉ねぎが嫌いならお長ねぎやおもやしおセロリ。お生姜がお嫌なら山椒の実にしたり、なんなら入れなくたって構いませんの! 


 ええ、ええ……いずれもまた生姜焼きザ・ワンですわ。

 祈りましょう、生姜焼きザ・ワンさまのために。

 称えましょう、生姜焼きザ・ワンさまを。

 さぁともに。両手を挙げて……、


 ポーク、ジンジャー! ポーク、ジンジャー! 


 ポーク! ジンジャー!!


 というわけでサクっと作りますわよ。今日は豚バラ、玉ねぎのくし切り、生姜は半分おろし半分みじんですわ。豚バラは常温に戻すあいだ玉ねぎを乗せておきます。酵素パワーでお肉やわやわになりますのね。調味料はお醤油に味醂すこし、お酒、お砂糖も少々。今日の油は菜種を十円玉くらいですわ。


 生姜焼きザ・ワンさま、わたくし、参ります!  

 

 まずはみじん生姜を投入。ぬりぬりするようにフライパンに広げ、ちょっと香りがでたら玉ねぎともども豚肉イン! こっからが大事でしてよ! ステンレスパンなら特に、お肉を触らないことですの! まぁ触ったとて生姜焼きザ・ワンさまはお許しくださいますけれど。では、お調味料を手に持って――秘技!


 いつ入れてもええねんウルフルズ!!


 ……ところでこれいつごろのお歌なんですの? ……え!? え、えっと、これは生姜焼きザ・ワンさまの御力おちからに全力で乗っかった投入法でしてよ! あとは汁気が飛んだり飛ばなかったりどっちでもええので適当なタイミングで引き上げますわ。お口直しにキャベツの千切りなんかがあってもなくてもええですわね。

 

 ……やはり生姜焼きザ・ワンは凄いですわー! お強いですわー! 


 わたくしシクった汁っぽいかもーなんて思いましたけれど、ちゃんと生姜焼きザ・ワンになってますもの。つくりかたさえ合っていれば完全に炭化していたとしてもそれは生姜焼きザ・ワンですし。あとはもうご飯パンパンたらふくまんまスタイルにしてよし、糖質制限してよし、お好きなようにお召し上がりあそばせ!

 

 さぁ、明日からみなさまも心に生姜焼きザ・ワンさまを!

 ポーク、ジンジャー!! ですわー!



※ワンポイント・ザ・ワン

 ザ・ワンは話者の思う『あれ』を意味しますわ! 英語では珍しいハイコンテクストな表現ですわね! つまりポークジンジャーは生姜焼きザ・ワンですけれど、生姜焼きザ・ワンはポークジンジャーと限りませんの! お気をつけあそばせ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る