ピラフらしき

 ピラフが食べたい。童心にかえって山盛りにしたピラフに旗を立てて貪りたい。いまでこそ「ツルムラサキと豚肉の炒め物」や「小松菜と豚肉の炒めもの」や「青梗菜と豚肉の炒め物」や「菜の花と豚肉」「アレッタと」「春菊」「なんか」と多種多様なレパートリーを会得していますが、子供の頃にピラフを食べたことがあれば、年に五回くらい禁断症状が現れるはずです。


 今日の私はピラフが食べたいのだ。


 でも、作ろうとすると大変なんですよね。生米をバターで炒めて炊飯器に仕込めだの、炒めたフライパンにコンソメスープを注いで炊けだの言ってきます。

 誰が炊くか。

 だってそうでしょう? バターといえば動物性タンパク質を多分に含んだ旨味と風味の油固あぶらがためなので、残り香が獣なんですよ。トーストにバターを塗って食べたあと、ふと「あら、どなたさまかお吐瀉としゃ物を生産されまして?」となりませんか。私はなります。あれ、おバターの残り香でしてよ。もうお分かりになられまして?


 炊飯器で作るとくっせーし落ちないんですのよ! そのうえ蒸気によって部屋中に拡散されますので油断するとおうちが午前四時の心斎橋しんさいばしを思わせるフローラルの香りで満たされてしまいますわ! 油を断っているのに不思議ですわね。ふふ。


 では、どうするか。換気扇の下ですべて済ませたいのですから、もう白飯しろめしでつくるしかありませんわね。


 ピラフのピラフらしさを決定づけるのは一にも二にもバターコーティングですからちょっと多めのバターをフライパンに落として、炊きたてご飯をインすればよいのです。でも、お待ちになって。たぶんニンニク入れたほうが美味しいですわ。ニンニクなんてなんぼ入れてもええですからね。


 ニンニクは細かく刻むと味までニンニクしくなってしまいますから包丁の腹で叩き潰してバター責めです。ピラフの具材ってなんでしたっけ。人参? 玉ねぎ? そういえば、まだ幻覚と手の震えがでない程度のアル中になる前、ピーマンが大嫌いだったわたくしのために、お母様が細かく刻んで入れてくださいましたわね。お食事中に暴露されてお母様に騙された記憶として今も脳裏にこびりついていますわ。あとはそう、お玉蜀黍とうもろこしかしら。発音難易度たけーですわ。


 さぁ、あとは炒めるだけ。

 チャーハンのコツは油と火力ですわ。チャーハン? ピラフ。ピラフでしたわ。ベーコンがなかったので豚ひき肉で代用です。脂が溶けてお野菜の水分とパチパチパンチですわ。お元気のおよろしいこと。わたくしの手までアチアチで痛てーですからほどほどになさってほしいものですわね。

 

 それからえっと、コンソメ。顆粒のままぶち込むと水分不足でうまいこと混ざらないので水に溶かして鍋肌から入れましょう。ますますチャーハンですわ。フライパンをガシガシ振りながらお玉で……やるとチャーハンすぎるのでフライ返しの使用で抵抗しておきましょう。チャーハンでしたら卵もつかってパラパラに仕上げるところですがピラフなのでベチョリ気味でも美味しくいただけるはず。


 できましたわー!


 ああもうこれはピラフ。完全にピラフですわ。ちなみにコンソメスープに乾燥桜えびをぶち込んでおくと目を閉じている間だけエビピラフになりましてよ。日の丸の旗も心の中で立てておきましょうね。

 

 ああ、お母様……わたくし、いま分かりましてよ。

 あのときのわたくし、大嫌いなはずのおピーマンさまを美味しく食べられてしまったわたくし自身に幻滅していましたのね……。



※ワンポイントメモ

 お吐瀉としゃ物といった場合、厳密には上からだけでなく下から出たものも含まれていますの! 口から出たものだけを指したいのなら、お嘔吐おうと物というのが正確でしてよ!

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