第2話 最高の現実
あの異世界転送とやらをさせられてから1か月がたった。とはいったものの基本的な生活は変わらず仕事をしている私だが、今日は休日のためとある雑誌を読んで過ごしていた。
「どうじゃ、この世界は?」
「はっどわったあ!?」
突然頭上から声が聞こえてきたので驚いて顔を上げたらそこには例の神様がいた。思わず自分でもどうかと思うような色気のない声を出してしまう。そんな私の様子なんてどうでもいいかのように神様はもう一回同じことを聞いた。
「どうなんじゃ、この世界の居心地は」
「どうって、そんなの最高にきまっているじゃない!」
そう、この世界は最高だ。なにせ今まではアプリゲームの更新やライブなどでしか彼らを知ることができなかった。しかもゲームなのでどうしても細かい情報は入ってきにくいし、『月の輝きを胸に』は7ユニット23名構成だったため、推しが必ずしもゲーム内イベントにでてくるとは限らなかったのだ。
しかしこの世界の彼ら、Marcuryは活動を始めてからまだ1年半ではあるがそれなりに仕事が入ってきているため、テレビのバラエティ番組や雑誌モデル、少し箱の小さいライブ会場でのライブなどを行っている。つまり、以前より供給が多く、また推しが身近に感じられるのだ!
「この間Marcuryのライブチケットとって見に行ったの。そうしたらステージがものすごい近い神席ですっごいよかったわ! あれは完全に目が合った、私にはわかる」
「ふむ、君はその相楽くんとやらが好きなんじゃろう? もっとお近づきになりたいとは思わんのか?」
「っていうと?」
「つまり恋人になりたくないのか、ということじゃ」
その神様の言葉に一瞬沈黙した後私は大きな口を開けて笑ってしまった。私が相楽くんと恋人? ありえない! 推しは推しで合って恋人ではない。まあここら辺は個人の感覚もあるだろうけれど、少なくとも私にとってはアイドルである相楽祥平が好きなのだ。
「ないない! 私はただのファンであって彼の幸せを願う者。恋心は一切持ってないよ」
「ほう……」
神様は目を細めて私のことをじっと見つめてくる。そんなに見られても私の答えは一切変わらない。アプリゲーム開始から5年間、ずっと追いかけてきたけれど恋人になりたいとは思ったことはない。
「それよりさ、今度またライブに行くの! 髪の毛にMarcuryのイメージカラーである紫色をインナーカラーに入れたし、今まで以上にライブの回数多いからお金もかかる。働きがいもあるわ!」
「なるほどなるほど。まあ楽しんでいるならよいわ。では、また今度は9月に様子を見に来るからの」
自分のひげを触りながら愉快そうに笑って神様は去っていった。なんか含みのある笑い方だった気がするけれど、気にしない。それよりも次のライブでコールするかもしれない曲の予習しておかないと!
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