第5話 バーベキュー会場へ
「皆さーん!そろそろ晩御飯のお時間です!湖の前の広場にバーベキューの準備出来てますから、そちらへどうぞ!コテージを出て道を左手にずーっと行って下さいね」
トランプで盛り上がっていた老人達が、Tの呼び掛けでどやどやとコテージから移動する。
「チクショウ、あそこでフォーカードなんて聞いてねぇや……アシュ、晩飯の前にもうひと勝負やるぞ」
「いいけど、トランプばっかで飽きないかい?ビリヤードとかもあるんだろ」
「あらいいわね!ビリヤード久しぶりにやりたいわ」
「じゃあペアでやろう、ティアさん!どうか私奴と組んで下さいませんか」
「ビリヤードですか……構いませんけども」
先頭を歩くTのあとをガヤガヤと歩く四人に遅れて、マイクが合流した。
「おう、遅いじゃねぇか」
「トランプを片付けてたんだよ。何故かジョーカーだけ何処にもなくて、探したら部屋の隅っこに飛ばされてた」
「けっ!つまんねぇイタズラする奴がいたもんだな……ところでマイク、晩飯の後だけどよ――」
彼等は陽気に広場へと向かっていった。
「……きぃいいい!ツマンナイですって!?聞いた?メリー、私の全力の念動力をツマンナイですって!」
「御愁傷様ねサリー。タイミングは完璧だったのにね
「そうよ!配られたカードから一枚ピン!と飛ばしたのに、皆んな自分の手札見るのに必死で誰も気付きやしない」
「アイツらには細かいイタズラは効果無いわね。よっぽど大きいことをしないと……」
相談しながら二人の幽霊達も跡を着いていく。いまT一行が向かっている湖の広場は、コテージと管理棟の真ん中に位置していた。施設は山の中腹に位置する湖を取り囲む様に、三日月の形になっている。山道から入り口の駐車場を経てまず、老人達が先程まで屯していた一番大きなコテージがあり、そこから湖を時計回りに六分の一ほど行くと広場、更に六分の一ほど歩くと管理棟がある、並びの構造である。更にその奥に行こうとしても道は続いておらず、鬱蒼とした木々が立ち込めているのだった。
これだけ聞くとかなり小さな施設に思えるかもしれないが、中央の広場は湖の方に開けており、簡単な水上コテージと釣り用の橋が伸びていた。手で漕ぐタイプの小舟も数隻並んでおり、レジャー施設としてはまずまず遊べる充実具合である。先に老人達が案内されたコテージが大人向けとするならば、広場を中心とした施設の数々は若者向けと言えるだろう。イベントではこの広場で夜にバーベキューをし酒を飲んで、ティーンの様に騒ごうというのが掲げられた項目の一つであった。
「メリー!サリー!探したよ何処にいたんだよぉ」
「あら、どうしたのポリー」
「どうしたもこうしたもないよ!若い三人いただろ?アイツら介護スタッフなんかじゃない、悪党だ!」
施設の方々を探したというポリーは、広場に向かって移動する一行の中から漸く二人を見つけ出すと急いでS達の悪巧みを伝えた。彼等が本当は何者で、これからバーベキューの会場で何をしようとしているのか……聞き終わったメリーとサリーは口を揃えて叫んだ。
「「なによそれ!最ッ高じゃない!!!」」
報告を終えたポリーはポカンとした表情を浮かべ、愉快そうな二人に尋ねた。
「ねぇ、二人とも本当に状況を分かってる?」
「えぇ。とっても楽しそうな状況よね、サリー!」
「えぇ。メリー、まさにパーティーって感じよね!」
「やっぱり分かってない!もしアイツらが、企み通りにお爺さん達を脅かしたら……どうなるか分からない?」
「ちょっと待って、私達が怖がらせられなかったジジババをアイツらが脅かすですって?そんな事になったら……」
「アタシたちのお化けとしての名が廃るじゃない!!!」
「ちっがーーーう!それもそうかも知れないけど、このコテージに殺人鬼が出たなんて噂になったら、ますますお客さんが来なくなるだろ!それでこの施設が潰れちゃったらボクらはどうなる?ボクは廃墟で彷徨う幽霊なんかにはなりたくないよ!」
「なるほど……確かにアタシたちも怖がらせる人間が居なきゃ張り合いがないわね」
「この施設が潰れたら、変な呪縛が無くなってどこでも自由に行けるって可能性は無い?」
サリーのひと言に、二人は一瞬言葉を止めた。
「もしそうだとしたらとっても素敵だけど……」
「けど、確証が無いよ。家無しの地縛霊なんて、それこそ名が廃るだろ?」
「まぁそっか、ごめんごめん変なこと言って!なんだっけ?その三人組を止めればいいのね?」
「うん。あの人達は若いから、さっき不発だったイタズラも上手くいくと思うんだ」
「よーし、このサリーちゃんに任せなさい!」
「やるのはほとんどアタシだけどね」
「メリーは霊力回復した?」
「まぁそこそこ。そろそろ夜も深くなるから大丈夫でしょ」
「じゃあ、悪党共を懲らしめるわよ!せーの……」
「え、またアレやるの?」
「当然でしょ。チームで動くんだから掛け声は必須じゃない」
「ポリー、こういう事を恥ずかしがってやらないマセガキは、ただのガキよ」
「もう、分かったってばぁ」
「コホン。では改めて……悪党共を懲らしめるわよ、せーの!」
「「「べろべろばぁー!」」」
三人の幽霊は掛け声と共に、それぞれの仕事に取り掛かった。
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