第4話 コテージの幽霊達

「ねぇメリー、もう諦めようよ」

「……」

「物を隠しても、ドア動かしても、ラジオ鳴らしても気付かないんだよ」

「ポリー、黙りなさい。メリー、まだいけるわよ。ほら、あっちの管理棟に若い人達が居るじゃない」

「サリーもやめなよぉ。メリーの霊力だって無尽蔵じゃないんだから」

「うー……」

「「メリー?」」

「くぅ!やぁ!!しぃ!!!いぃ!!!!」


 メリーの叫び声と共にコテージの照明が明滅する。トランプで遊ぶ老人達も流石に騒ついた。


「おぉ、なんだ?」

「電球が古いのかしら……」

「いや。今の感じは多分、電力供給が不安定なんだろう。発電機が古いのかもな」


 この様子を眺め、ポリーがサリーとメリーに告げた。


「ねぇ、やっぱり無理だって……」


 メリー、サリー、ポリーはコテージに棲む三人組の幽霊である。リーダーのメリーは三人の中で一番霊力が高く、先程まで老人達を怖がらせようとポルターガイストを仕掛け続けていたのは彼女だ。真ん中のサリーはイタズラを考えるのが得意で参謀の役割、霊力はそれほど高くない。二人を諌めていたポリーが一番幼く、まだ霊力も発現していないので偵察役だった。

 三人はずっとコテージに居たのだが、幽霊である為に老人達から認識される事は無かった。一人だけ、何かしらの存在を感じ取った女性は居たようだが……


「ポリーうるさい!」

「ごめん。けど連続でやり過ぎだって、少し休んだ方が……」

「むー、確かに少し疲れたかも」

「確かにポリーの言う通りかもね。休もう」

「サリーごめん……」

「それにしてもメリー、また霊力上がったんじゃない?電気の明滅だけじゃなくてちょっと窓も震えてたよ!次は割れちゃうかもね」

「ホント?悔しさのお陰かな……」

「うん!次のイタズラはもっとすごいコト出来るかもね」

「はぁ……ボクは管理棟の三人のほう見てくるよ」


 ポリーは壁をすり抜けて離れの管理棟へと飛んで行った。幽霊になって良かったのは空を飛んで移動できる事だ。子供の頃の夢みたように(と言っても小学校低学年のうちに死んだので、ずっと子供の状態ではあるのだが)ふわふわと自由に飛び回れるのは楽しかった。ただコテージの湖を中心とした一定の範囲外からは離れる事が出来ないので、そこは地縛霊として割り切って、箱庭の中での生活を楽しんでいる。


 管理棟に着くと、ちょうどS、K、Tの三人が話し合いをしていたところだった。


「ね!私思いついたんだけど……」

「なにを思いついたんだ?」

「K、あいつらがバスの中でどんな会話してたか覚えてる?」

「どうだっけな、なんか気色悪りぃ話してたような……」

「ホラー映画の話してたんだよ!しかもかなり血みどろのグロいヤツ!」

「うえぇ、マジかよ!あの爺さん達大丈夫か??」

「それで?それがどうしたっていうんだ」

「きっと、私達がホラー映画の殺人鬼を演じて襲ったら、アイツらきっとビビって言う事聞くんじゃないかな?」

「そんな都合良く信じるか?」

「だからさ、先に私達の誰かが襲われるとこを見せたらきっと信じちゃうんじゃないかな?」

「なるほど!確かに一理あるかもな。じゃあガタイの良いKが殺人鬼役をやって、まずはTを襲って見せろ。俺は貴重品としてこの腕時計を差し出すから、受け取ったら引き返せ」

「兄貴は?助かったら爺さん達と過ごさなきゃならないですよ、どうするんです?」

「そこは大丈夫だ。貴重品を渡したから生き延びられた!って強調してから、そのまま気が動転したフリをして急いで逃げ出すよ。あんな老いぼれ共に追い付かれやしないさ」

「あとは合流したら、全員で殺人鬼を演じてアイツらから貴重品奪ったらトンズラだね!最高に楽しそう!」

「アイデアを出してくれたTのお陰だ。偉いぞ」

「えへへ〜!」

「よし、じゃ早速準備に取り掛かるぞ!」

「「アイアイサー!」」

「そ、そんな……大変だ、急いでメリー達に知らせないと!」


 彼らの会話を聞き終えたポリーは頭を抱え、急いでコテージへ飛び帰るのだった。

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