第2話 サマーキャンプへ

「よぅ!お前さんも厄介払いされちまったのかい」

「はは……そんな感じだね」

「ジョシュ、良さないか。失礼だろう」

「なんだようアシュレイ、本当の事じゃねぇか。みんな息子、娘夫婦に頼まれて来たんだろう?純粋にこのイベントでキャンプ楽しもうなんて思って参加するヤツ居るのかよ」


 バスに乗り込むといつも通りの施設のメンツが顔を揃えていた。お調子者のジョシュは孫娘と離れて少し不機嫌そうである。アシュレイはいつも通りダンディな佇まいで返した。


「私は職員さんに薦められて自分の意思で参加したぞ」

「あたしも、自分で望んで参加しましたわ。一緒ねぇ、アシュレイさん」


 そう言って熱烈な目線を送るのはローズだ。彼女はかつて花形のダンサーで、その後クラブのママをしていたという。彼に気があるのを隠そうともしない大胆な振る舞いは流石といったところか。対して元軍人のアシュレイはモテる事に慣れているのか動じずに黙っていた。この二人のいつもの光景である。


「なんでぇ、仲良しさんはいいよな。精々ご回春あそばせってんだ」

「言って良いことと悪いことがありますよ。いい歳なんだからそれくらいの分別をつけなさいな」

「ティアさん!す、すいません……」


 ジョシュは顔を赤らめながら身を縮こまらせた。彼をぴしゃりと叱ったのはシスターのティアである。シスターと言っても、もう引退していてかつて修道女だっただけであるが、上品な中に厳しさがある高潔な人物で、常にジョシュが乱した空気を律するのは彼女の役目だった。


 マイクは座席を求めてバスの奥へと歩を進める。後ろから二つ目の席が空いていた。一番奥に座っているサマンサに会釈すると、彼女から頷く程度の会釈が返ってくる。

 サマンサは物静かな女性だ。今バスに居る六人はいつもの顔馴染みなのだが、誰も彼女の事を詳しく知らない。いつも一人でタロットを繰っている不思議な女性である。


「さて!皆さんお揃いですね!では代表から挨拶がございます!」


 ガイドの女性の掛け声で男が立ち上がり、挨拶を始めた。二人とも見ない顔だ。施設のスタッフとは別なのか……


「この度は我が老人ホーム“ビューティ・ガベージ”主催、1999年ゾロ目記念の夏休み合宿企画、『取り戻そう青春!おひとりさま老人会サマー・キャンプ』へご参加下さいまして誠に有難うございます!この企画はタイトル通り、配偶者の居られない高齢者の皆様で、気兼ねなく夏休みを満喫して貰おうという趣旨でございます」

「イェーイ!ところで兄ちゃん誰だい?いつものデイサービスじゃ見掛けない顔だが?」

「おぉっと、申し遅れました。お初お目にかかります、ワタクシは代表取締役のSと申します。普段経営のみに関わっておりまして施設にはおりませんで……ドライバーとガイドの二人も私の直属の部下。今回のイベントは当社では初の試みとなりますので、経営陣自らが出向いてフィードバックを行おうとなった次第です。皆様、二泊三日と短い間では御座いますが、どうぞよろしくお願い致します。さて、この後の予定を説明させて頂きます……」


 バスは細い森の中の道を走って行く。確かこの道はブギーマンの噂がある湖畔に続いてなかったっけ?そんな事を考えながら、マイクはボーッとSの説明を聞いていた。

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