第29話
朝、ライドが様子を見に来た。
「あー、まだ熱高いですね」
「だいぶ下がった。
動けるから問題ない」
「またそんなこと言って。
今日くらい学園休んだらどうです?」
「すでに七日謹慎食らってるんだよ。
それに、解熱剤もあるし平気だって。
俺の母さんなんて、弟や妹産んですぐ畑仕事してたし。
熱出ても、働くのが普通だったし」
「いや、ウカノさんのお母さんは関係ないですよね?
昨日の今日だし、足の怪我悪化しますよ」
「動くような授業は見学しとけば問題ない」
事実、そのようにするよう、保険医から言われていた。
それに、大愚から送ってもらった薬のおかげか、足の痛みは引いていた。
昨日のように妙な歩き方もしなくていい。
登校すると、またもクラスメイトの視線が突き刺さった。
「ウカノ君、怪我、大丈夫??」
教室に入ると、女子生徒の一人が聞いてきた。
どうやら、昨日のことは学園中の噂になってるらしい。
「うん、平気平気」
ウカノは適当に答えて、自分の席に向かう。
クラスメイト達は、そんなウカノを見てコソコソと言葉を交わす。
さすが、Aランク冒険者だなんだと話している。
席に着く。
隣の席には、アールがいた。
アールは昨日以上に気まずそうにしている。
「おはよ」
初日、一昨日、昨日と欠かさずにいる挨拶をする。
「…………」
変わらず、アールの反応は無視だった。
かと思いきや、
「ほんとに平気なのかよ?」
そんな事を聞いてきた。
「?」
「怪我」
「うん、こうして歩けてるから」
ウカノが正直に答えると、アールは嘲笑した。
「はっ、さすが化け物だな」
「えーと、それほどでも?」
ウカノはさして気にした風もなく、そう返した。
その反応に、アールは忌々しそうに舌打ちをする。
ウカノの何もかもが気に食わない。
昨日のことも、その前の叱咤のことも。
謹慎するに至った喧嘩のことも。
そして、今、ウカノがアールに向けている目も。
その全てが気に食わなかった。
こうして煽れば、普通は気分を害するはずだ。
そうして向こうから喧嘩を吹っかけてくるものだ。
けれど、ウカノはアールのことを全く相手にしていない。
「ちっ」
また舌打ちをして、アールはそれ以上はなにも言ってこなかった。
一方、ウカノはといえば、今日の時間割を確認していた。
(魔法の実技は、中止か。
まぁ、昨日の今日だしな。
あとは、体育か)
体育の授業について、知識として知ってはいるものの、出席するのはこれが初めてだ。
内容からして、見学にしてもらった方がいいだろうと考えた。
体育教師は厳しいと、アエリカから聞いたことがある。
授業が始まる前に、話を通しに行こうと決めた。
(それにしても、化け物、か)
ウカノは不機嫌な顔をしているアールを見た。
そして、思い出す。
実家の兄弟達のことではない。
ウカノが化け物なら、世界にはそれ以上の存在がいるのだ。そう、たとえば、エステル達の長男。
彼らが育て上げた息子であり、最初の卒業生であり、ウカノが1度も勝てたことの無い相手。
ウィン・アキレア・フール・キングプロテア、という長ったらしい名前の少年だ。
なんなら、ウカノが訓練という名目でボコボコにされまくった相手でもある。
(俺が化け物なら、ウィンは神だよなぁ)
なんてことをウカノは思うのだった。
さて、そうそう都合よく行かない。
午前の授業が終わり、昼休みとなった。
体育の授業は、午後からだ。
昼休みが終わってすぐである。
しかし、ウカノは見学とはいえその授業に出ることは叶わなかった。
何故なら、校内放送で職員室にこいと、呼び出されたのだ。
名指しで指名されては知らん顔はできない。
ウカノは弁当をさっさと食べ、解熱剤を飲んでから職員室に向かった。
そこには、冒険者ギルドからの使いが来ていた。
話を聞くと、どうやら昨日ウカノが倒したものと同じモンスターが現れたのだということだった。
なんでも、昨日ウカノが倒したあのモンスター、その分析を学園は複数の研究施設に依頼していた。
冒険者ギルドは研究施設ではなかったが、新種か突然変異のモンスターかもしれないということで、分析を買ってでたのである。
その矢先である。
新人、中堅冒険者達が犠牲になったらしい。
ベテラン、Sランク冒険者も出てきているが、倒せないらしい。
魔法が効かないのだという。
そこで、ウカノに白羽の矢がたった。
今のところ、ウカノだけがあのモンスターを倒している。
だから、それは当たり前といえば当たり前のことだった。
ウカノは足を見た。
包帯の下には、昨日よりよくなったとはいえ、まだ爛れたままの傷があった。
体育の授業とは違って、こっちは仕事だ。
それに、
(倒したら、その死体の一部が手に入るな)
大愚に頼まれていたこともあって、ウカノはモンスター退治に出かけることとなった。
ちなみに、授業は出席扱いにしてくれるらしい。
見学予定だったが、少し見てみたかったなと思いながら、ウカノは教室に戻って、帰り支度を始めた。
クラスメイト達が、不思議そうな視線を向けてくる。
それに構わず、ウカノは鞄を持って教室を出たのだった。
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