第10話

善は急げということで、ウカノは午前中働いた分のお金を貰ったあと、冒険者ギルドに向かった。

冒険者ギルドの建物は通り沿いにあったので、すぐ着いた。

エリから聞いたところによると、食堂兼酒場が併設されているらしい。

ついでにそこで昼食にしようと決める。


冒険者ギルドに入ると、そこそこ賑わっていた。

併設されている食堂には、呑んべぇ達が屯っている。

格好からして、客の九割が冒険者のようだ。


受付に行き、ギルドカードを作りたい旨と解体したドラゴンを買い取って貰いたい旨を伝える。

ついでに農業ギルドからの紹介で来たことも伝えた。

受付嬢は、営業スマイルで仕事をこなす。


「ギルドカードの作成と買取ですね。

では、」


書類が出てくるのかなと思ったら、違った。


「よいしょっと、こちらの水晶に手を翳してください」


「……申し込み書は書かないんですか?」


「はい、冒険者ギルドではこの水晶で能力値等を計ることになっているんです。

まぁ、農民の方は知らない人多いんですよ」


最後の一言に、軽くバカにしたニュアンスが含まれていた。


(街の人だなぁ)


「こうですか?」


ウカノは言われた通り、手を翳す。


■■■


○名前:ウカノ・フール

○状態:普通

○職業:農民 ●●●


○技能

・一般:[素早さLv10][剣Lv5][斧Lv5][弓Lv5][鎌LvMAX][槍Lv2][棒LvMAX][ナイフLvMAX][体術Lv80][成長促進][地形把握][常時攻撃力二倍][家事Lv9][蹴りLvMAX][拳LvMAX][頭突きLvMAX][噛みつきLvMAX][引っ掻きLvMAX]

・魔法:[火Lv2][風Lv3][水Lv5][土Lv10]

○特殊:特になし


■■■


「おー」


これがステータスかぁ、とウカノはまじまじと現れたステータス表示を見た。

受付嬢もそれを見ながら、サラサラと書類を作成する。

途中で、その手が止まる。


「あ、職業のところ黒塗りになってますね。

水晶壊れたかなぁ」


受付嬢は水晶をペチペチ叩いてみる。

しかし、壊れたわけではないようだ。


「古いからなぁ、不具合かな?

とりあえず、職業は農民で、副業などは他にされていますか?」


「一応、学生です」


学生証を見せた。


「え、聖エルリア学園!?

貴族なんですか?!

でも、職業は農民……??

あ、お屋敷などで働く下男ってことですか?

それで特別に学園にも通わせてもらってるとか??

たまにそういう方がいると聞いたとがあります」


色々聞かれたものの、説明が長くなるし本当のことは話せないので、


「そんなとこです」


ウカノはそう答えるだけにした。

そして、あっという間に、ギルドカードが発行された。

それを受け取る。

次は買取りだ。


「解体したドラゴンの買取、という事でしたが。

素材はどちらでしょうか?」


「魔法袋に入れてきました。

二十体分あります。

ここで出しても大丈夫でしょうか?」


ウカノがサラリと口にした言葉に、受付嬢の顔が強ばる。


「へ?に、二十体?!?!」


その反応を見て、ウカノは何か勘違いしてしまった。


「あ、ゴザが必要ですよね。

そのままだと、床汚しちゃいますし。

今、敷きますね」


「敷物はあります!

って、そうじゃなくて二十体?!」


「あ、もしかして百体からの買取でしたか?」


何も調べずに来たからなぁ、とウカノは呟いた。

農業ギルドでも、一部の素材に関してではあるが買取りの最低数が違ったりする。

たとえば、他のものなら最低10個からの買取だが、特定の素材だと100個からの買取だったりするのだ。

ドラゴンの素材については、農業ギルドでは道具などに加工するため買い取っている。

その最低買取数は5体からだ。

買取価格は、品質に左右されるので査定による。


「どこでそんなに倒してきたんですか!!」


「あ、そっちかぁ」


なんてやり取りをしていたら、いつの間にか冒険者ギルドにいた客たちの視線を集めていた。


「ドラゴンが、大量発生してるってことですよね?!」


そこで、ウカノはようやく視線を集めていることに気づいた。

そして、察した。


(正直に話したら、面倒臭いことになるな)


なので、ここで買い取ってもらうのはやめる。

当初の予定通り、農業ギルドに戻ってそちらで買い取って貰おうと考えた。


やっぱやめます、と言おうとした時。

それよりも早く、受付嬢が言葉を続けた。


「報告書を作成しなきゃいけないんで、何処でドラゴンを倒したのか教えてください!!」


「あー、なるほど」


「いいえ、まずは査定が先?!

ドラゴンの種類がわからないと……」


受付嬢はパニックになっているようだった。

ブツブツと色々呟いている。


「見てもらった方が早いですかね?」


「そ、そうですね。

とりあえず、素材を出してください。

いま、敷くものを持ってきます!!」


受付嬢がパタパタと奥に走っていき、すぐに戻ってきた。

その腕には大きな敷物が抱えられている。

それを受け取って、広げてる。


「倒したドラゴンは一種類だけですか?

それとも複数種類でしたか?」


ウカノが魔法袋からドラゴンの素材を、敷物の上に置いていく。

一目見て分かりやすいように、素材ごとにわけている。


「えーと」


作業をしながら、ウカノは思い出す。

火と光線を吐き出す、そこそこ強めなドラゴンだった。

そういえば、ドラゴンにも細かく種類があるんだったと思い出した。


「なんか、赤くてでかいヤツでした」


「仲間の方は、どちらに?」


ウカノではいまいち要領を得ないと判断して、受付嬢は一緒にドラゴンを倒したであろう仲間の所在を確認した。

そっちに聞いた方が早いと考えたのだ。


「仲間?」


作業の手を止めて、ウカノはキョトンと返す。


「一緒にドラゴンを討伐した仲間ですよ」


受付嬢は、ウカノには他に冒険者の仲間がいて、農民の彼はそれを手伝ったのだろうと考えたのだ。

そもそも、彼は冒険者ギルドに登録に来た。

このことから考えても、一緒に居たであろう仲間から登録を促されてきたと思ったのだ。

ウカノは、ボーッと考えて、


「…………今の保護者なら、どっか行ったまま連絡がつかないです」


答えになっていない答えを返した。

一人で倒して、解体までしたと正直に答えても信じてもらえない。

かと言って、実家の弟たちの名前を出すのもなにか違った。

結果、今の保護者を出すことにした。


詳しく言わなければ、その保護者がウカノに手続き諸々を任せたと思うはずだ。


「そ、そうですか」


受付嬢は、戸惑った顔をした。

しかし、ウカノの想像通りの考えをしたようでそれ以上は仲間について聞いてこなかった。

一応、15歳からならこういった買取は保護者なしでできるので問題ない。

やがて、素材を並べ終わる。

それから、事前に作っておいた素材リストを受付嬢に渡す。


「このリストと相違ないか確認してください。

数え間違いがあるといけないので」


「あ、ありがとうございます」


いつの間にか、敷物の周りに人集りが出来ていた。

物珍しそうに冒険者たちがそれを眺めている。


その時だ、エステルから連絡が来た。

他の誰にも見えない、薄い画面がウカノの前に表示される。

そこにはエステルの名前があった。

受付嬢にトイレの場所を聞いて、その場から離れる。

個室に入って、誰もいないことを気配で探りつつ、ウカノはエステルからの音声通話を許可した。

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