第11話
エステルが画面に映し出された。
『おっすー、悪い悪い。
ちょーっと立て込んでてさ』
「立て込んでた?」
『そ、ついに俺らの世界も襲撃受けたんだわ。
あっはっはっはっ!!』
「は、はぁぁああ!!??
だ、大丈夫なんですか?!」
『ん、へーきへーき。
なにせ、こっちの世界には化け物しか残ってねーからな!
襲撃受けた、1分後には退治終わってた。
それで、えーと、なんだっけ?
あ、思い出した!
入学初日で喧嘩して停学くらったって??
やるなー、お前。
結構、
「1週間の謹慎です!
それよりも、学園に入れ無くなっちゃいました。
どうしたらいいでしょうか?」
『そうだなぁ。
そもそも、今の時点で敵方が潜り込んでるかどうかもわからん。
かと言って、パッと見じゃあ見分けつかんし』
どうしたもんか、とエスエルは考える。
そこに、別の職員から声がかかった。
なにかを囁かれ、エステルの顔がパァっと明るくなる。
『え、マジ?!
おい!朗報だ!!
神眼保持者を保護できた!!
簡単に言うと、超超超目がいい能力者だ。
そいつに現状を鑑定してもらう!
現時点において、その学園で誰が一番近い未来で犠牲になるかわかるぞ!!』
ハイテンションでエステルは言うと、一旦画面から消える。
かと思ったら、すぐに戻ってきた。
エステルの代わりに、画面に映ったのは少年だった。
それは、真っ黒な制服を着た少年だった。
『あ、初めまして。
えと、タカクラです。
タカクラトオルと言います。
トオルが名前です』
少年は戸惑ってはいたものの、そう丁寧に挨拶してきた。
「こちらこそ、はじめまして」
ウカノも挨拶を返した。
少年――トオルはだいたいの事情を聞いているらしかった。
すぐに、ウカノを凝視して、やがてこんなことを言った。
『あ、多分大丈夫です。
少なくとも、いえ確実に1週間ほどは何も起きません』
エステルが聞き返す。
『そうなのか?』
『はい。
だって、本当なら昨日、対象者だった人は殺されて入れ替わられてたみたいです。
でも、今、その人は病院で寝たきりになってます』
「そうなんだ」
『はい』
エステルがトオルにさらに質問する。
『しかし、病院で寝たきりとは。
なにがあったんだ?
襲撃された、とかではないんだろ?
事故にでもあったのか?
それとも、俺たちが把握出来ていない不測の事態が起きてるとか?』
トオルは、エステルを見て、それから何故かウカノを見た。
そして、言いにくそうに口を開いた。
『ええと、その。
昨日――ウカノさんがいる世界での昨日になるんですが。
ウカノさんに喧嘩売った人いませんでした?
生意気だーとか言って。
その人を、ウカノさん自身が結果的に伸したために、1週間ほどの余裕というか、時間ができたというか。
そんな感じです。』
言われて、昨日を振り返る。
というか振り返るまでもなく、心当たりは一人しかいない。
アールだ。
「マジか」
『マジか』
ウカノとエステルの反応が重なる。
トオルが自信満々に頷く。
『マジです。
少なくとも、俺の目で見た限りでは相手の方も予定が狂ったのでしばらく何も出来ない状態みたいです。
相手、この場合は敵ですね。
敵の顔までわかればいいんでしょうけど。
どうにも、ぼやけて上手く見えないんです』
『おー、まぁ仕方ないか。
なにせ、神すら殺せる存在だしなぁ。
伊達に外の世界から来ていないってわけだ。
それにしても、ラッキーだったな、ウカノ。
しばらく犠牲者は出ないっぽいぞ』
気楽にエステルは言ってくる。
しかし、ウカノにしてみれば
「えー、じゃあ1週間どうしましょう??」
『そうだなぁ。
まぁ、休みってことで適当に過ごせ』
「そんな、いい加減な」
『馬鹿だなぁ、人生にはほどよくいい加減な時間も必要なんだぞ。
あ、そうだ。
その世界、冒険者ギルドがあるし。
なんなら登録して1週間冒険者生活でもしてみたらどうだ?』
「…………」
『どうした?
しょっぱい顔して??』
ウカノは、この数時間のことを話した。
話を聞いたエステルが大爆笑する。
『あっはっはっはっ!!
マジか!!
スゲェな!!
つーか、農業ギルドあるのか!!
たいがいの世界にあるのは、冒険者ギルドや錬金術ギルド、猟師ギルドってところだけど』
なにがそんなに面白いのか、ウカノは理解できなかった。
でも、こんなに楽しそうに笑えるエステルは羨ましい、と思ってしまう。
『なんつーか、主人公っぽいことしてるんだな、お前!!』
エステルは一頻り笑ったあと、
『まぁ、1週間は休みってことで好きにしろ。
定時報告だけ忘れんなよ。
それ以外の時間だと、こっちも連絡取れない可能性高いからな』
「わ、わかりました」
そんなやり取りをして、通信が切れた。
「いいのかなぁ」
まぁ、エステルが良いって言ってるんだし、いっか、とウカノは自分を納得させた。
いきなりできた自由時間だ。
さて、何をしようかと考えた時、思い出した。
「あ、畑の道具諸々買うの忘れてた」
冒険者ギルドでのドラゴンの素材の査定が終わったら、農業ギルドに戻ろうと決めた。
しかし、そうは都合よくいかないのがまた人生である。
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