第4話 大宰府駅
人いきれが充満する電車に乗る機会もあまりないから慣れない吊り革を握り、私は発車したその瞬間、何度か足首がよろめいた。
近藤君や莉紗は電車内で大騒ぎしておじいさんからそれとなく、注意されていたし、堺君からお茶を飲む? とキオスクで購入したペットボトルのお茶を渡されても飲める気にならなかった。
知らない街並みを物珍しさから車窓を覗き込みながら、六つ目の駅を抜け、太宰府駅到着、と車内アナウンスが流れた。私たちは新鮮な心持ちで太宰府駅を降り、改札口を抜け、参道の入り口の広場に到着した。
夏休みも入ったばかりなので同じような観光客がよそ行きのカラフルな出で立ちで、目的地へ颯爽と赴いていた。
九州国立博物館は太宰府天満宮の境内の奥の、大きなトンネルのエスカレーターを上がった小高い丘の上にあるらしく、合格祈願のグッズが売られた店舗が軒を連ねる、参道を歩きながら堺君が、
「菅原道真が配流になった地が大宰府で……」とスマートフォンで検索した、知り得たばかりの蘊蓄を披露していた。
莉紗は参道にある雑貨屋やお土産店を覗き込むのに夢中になっていたし、近藤君は歴史の蘊蓄を語る堺君を茶化しながら莉紗と一緒にお店を散策していた。
「堺君はオタクだな。ここ、受験の神様なんだって。俺たちも買おうよ。合格グッズ」
「近藤君もがん担ぎするの! うわ、意外!」
「莉紗さん、それは失礼ですよ。せっかく来たんですし、みんなでお参りもいいじゃないですか」
「あたしは天神の駅ビルに行きたかったなー。ねえ、真依?」
私はタコの人形や『必勝合格』と仰々しく印字された合格ハチマキが壁に張られた店内で物色するふりをしながら半ば、上の空だった。
「莉紗、トイレに行っていい?」
「トイレ?」
莉紗に声かけしてから、私は足早にみんなが参道でお土産品を見物している間、私は彼を探し回った。
どこにいるんだろう。
初めて来たから土地感覚が全然分かんない。
私は一縷の望みを賭けながらラインで、彼に連絡した。
指紋だらけのガラケー携帯のラインの吹き出しワードに、どこにいるの? と送る。
その吹き出しワードはすぐに既読になった。
空には立派に成長した入道雲が北方に向かってゆったりと流れている。
灼熱の路上で汗がじんわりと手のひらに滲む。
半袖のシャツが早速、水で樽に付けたようにびっしょりと濡れ始めている。
夏帽子を被ってくれば良かったのに、と私は蝉時雨が止まぬ境内で、悔やみきれなかった。ガラケー携帯のバイブ音が振動する。
炎天下に蝕まれた木陰で束の間の休憩を取っていた私はつかさず、携帯画面を開いた。
画面にはそこにいるよ、と表示されていたので私は挙動不審に周囲を見渡し、目を凝らすと、後ろから肩を小さく叩かれた。
「真君?」
思わず、振り返ると視線の先には学ラン姿の彼が悠然と立っていた。
やっと会えたんだ。やっと会えた。
私は思わず、小さな歓声を上げ、大袈裟ではないけれども、胸がどきどきと木霊した。
さっきまでの疲労感はどこかへ行っちゃったみたいに、私はその紅顔をまともに見られなかった。
「真依ちゃん。久しぶり」
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