非情
非情
ホスは、閃光がおさまると、紫の花びらが広がる床へ、ゆっくりと倒れた。
ホスが倒れた衝撃音で、ローゼルは目を開く。
ソアラも長い睫毛を押し上げる。
ソアラは、火かき棒を落として、呆然と立ち尽くしていた。
「……さすが私やガラスの薔薇が、正妃にと選んだ娘だな」
ローゼルは、そう言い、倒れたホスの上に身を屈めた。
「ローゼル様、お怪我は?」
我に返ったソアラが、心配そうにローゼルを見つめ、問うてきた。
「大丈夫だ」
ローゼルは、身じろぐことない男を跨ぎ、出入り口へと行く。
自分の懐の中を探ると、別荘のすべてのマスターキーを取り出して、扉を開けた。
「ローゼル様!」
扉を開けると、ローゼルの護衛騎士でもあり、懐刀であるハランが雪崩れ込んできた。
「あっ!」
ホスが身じろいだことに気づいたのか、ソアラは声を上げる。
ハランは、ホスが上体を起こして身構える隙を与えずに、素早く動いた。
手元の銀の杖を取り上げたハランは、固い拳でホスの腹に沈める。
ホスは、唸り声を上げ、身体を二つに折って、床に倒れた。
「ハラン、見事な紫の薔薇の花びらだと、思わないか?」
ローゼルは、感心するように、うっとりとした声音で言う。
「そうですが。ローゼル様、扉の鍵を早めに開けてくださいよ。本当、困った王ですね」
ハランは、呆れた声音で言う。
一緒に雪崩れ込んだ自分と同じ筋肉質の騎士たちに、目で指示した彼は、ハランを拘束させた。
「……選ばれし娘よ。非情な王の仕打ちに慄くといい。そなたが利用されたこと、わかってないでしょう?」
二人の騎士に引き起こされたホスが、不意にソアラに目を向け、意味深長な声音で言う。
「え?」
「王がこの別荘へそなたを連れてきたのは、反逆者をあぶりだすため。それはまぎれもない事実。離れの部屋に一人にし、命を狙う不遜な輩を捕縛するように、私に命じたのは確か!」
ホスは、声高々と言い放ち、怪訝そうに顔を顰めたソアラをじっと見つめてきた。
「ローゼル様は、自分が幼い頃から仕えるあなたのことを信じているからこそのことでしょう? それをなぜ、裏切るのですか?」
ソアラは、ローゼルが何か言う前に、怯むことなく剣呑とした瞳を滲ませ、ホスを果敢に睨み返している。
「言ったはずでしょう? ジニア様のためと。あの方は何よりも美しく、得難い宝石なのに。そなたと違ってガラスの薔薇にも助けられず、朽ち果てた。正妃以外見事な美貌のあの方にふさわしくないからこそ、二人で逃げる約束をしていた。そう、幼い頃のように」
声を震わせて言い募るホスの頬には、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「……ハラン、ホスを牢に放り込んでおけ」
「御意に」
数分だけ、哀れのないホスに、みな息を呑んで沈黙していた。
不意に、ローゼルの冷厳な声音が響き、ハランは指示通り動き出す。
ホスは、これ以上何も言うことなく、そのまま引き摺られるように、部屋の外へ連れ出された。
「荒れてしまった部屋を、今から片付けさせなければならない。ソアラ、私とともに外へ出よう」
「外へですか?」
「そうだ」
ローゼルは、そう言って、ソアラのもとへ行く。
少し戸惑うソアラの細腰へ、自分の両腕を回した。
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