火かき棒

火かき棒



ローゼルは、机の上に置いてある革製の辞書を掴んで盾にする。


刃は、綺麗に辞書を切り裂く。


ローゼルは、分厚い辞書を目の前のホスに投げつけた。


ホスが横に避けたので、辞書は彼の逞しい肩に当たった。


その痛みに激怒の唸りを上げ、ホスが銀の杖でローゼルに襲いかかる。


二人が言い合いではなく、今度はもみ合っている間。


ソアラは、部屋中を見渡していた。


ソアラの視線は、暖炉のところにある鉄製の道具に止まる。


「……こ、これだわ」


ソアラは呟くと、急いで長い真鍮のハンドルが付いた火かき棒を取り上げる。


刹那、ソアラの首にぶら下げているガラスの薔薇が、鮮烈に疼く。


それは、ソアラの身体へゆっくりと浸透し、火かき棒を持つ手へ伝わっていった。


「な、何……?」


ソアラは、動揺し、目を見開いた。


その間にも、ローゼルとホスの対峙は続いている。


鋭く風を切る音に、ソアラは我に返った。


まずは何よりも優先すべきことは現状を打開することだと、ソアラは唇を引き締める。


ホスは、ローゼルの方に集中している。


ソアラが背後からそっと近づいても、分からなかった。


ソアラは、両手で火かき棒を握り、力いっぱい振り上げる。


「⁉︎」


同時に、火かき棒の先から、紫色の薔薇の花びらが舞い上がった。


ホスは、瞬時にソアラに振り返る。


唖然とした様子で、顔を引きつらせた。


ホスの手に握られた仕込み杖は、ぶるぶると震えている。


ローゼルは、薔薇の花びらを噴出させている、火かき棒を持つソアラに、瞠目していた。


「⁉︎」


瞬時に、閃光が瞬いた。

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