ジニア
ジニア
ローゼルは、ソアラの細腕を掴み、さっと横に飛びのいて、鋭い刃を逃れる。
「ソアラ、机の後ろにでも隠れていろ。私のそばにいては邪魔だ」
「は、はいっ!」
ソアラは、机の後ろではなく、壁際まで退き、怖々と2人を見た。
ローゼルは、油断なく部屋の中で円を描くように移動している。
「さあ、復讐の始まりです。扉の鍵は内側からかけました。鍵は私が持っております。ここは二階ですし、逃れられませんよ」
ホスは、ねっとりした声音で言う。
「ホス、何の根拠があって、ガラスの薔薇が、暗殺に加担していると言っておるのだ?」
「私は、見たのです。毒殺でジニア様が倒れたその後、どこからともなく、薔薇の花びらが舞い上がったのを。テーブルの上の花瓶の量とは違います!」
ホスは、自分の行動がどんな結果を招くか。
考えられないほど、逆上している。
再度ホスの手元の銀の杖が、ローゼルに勢いよく襲ってくる。
ローゼルは、素晴らしい敏捷さで、後ろへと飛ぶ。
間一髪のところで、刃を避ける。
「そうであっても、ジニアは私の婚約者の一人。ソアラほどじゃないが、薔薇の色変わり、 私の小指の痣が疼いたのは確かだ」
ローゼルは、過剰な武器である銀の杖が襲ってきても、特別慌てることなく、冷淡にホスに言う。
ソアラは、どのような状況でも冷静さを失わないローゼルに感動していた。
「違います。占術師が庶子である小娘を示したこと、紛れもない事実。ジニア様から、直接きいていることです。だからこそ王は、自分を見てくれないと」
「それは、私だけのせいではない。際限なく自分の物欲を満たすことが、ジニアの性分。あまりにも自国を憂えない娘に、私が関心を持てないのは、仕方ないことではないのか?」
ローゼルが嘲笑うように言うので、ホスはいっそうきつく顔を顰める。
ホスは、武器の優位性を充分に利用した。
足が悪いながら、なんとかローゼルの身体を切り裂こうと攻めてくる。
「幼いままで王宮に呼び寄せられたジニア様の心情に、寄り添えなかったローゼル様も悪いのです。王と触れ合うことなく、17歳まで待たされたジニア様の焦れた心情。わかってはくれないのですか?」
「私は、正式に婚姻をすませぬ娘に、手を出すつもりはない。ジニアは、他の男と同じように、遊び女扱いを受けたかったのか? それでは自尊心がなさすぎるな」
「その娘は、どういうおつもりですか? 正式に決まってはいないというのに、ジニア様が入れて貰えなかった正妃の部屋に住まわせるなんて。それこそ、ローゼル様は何をお考えなのですか⁉︎」
ホスが杖を振り回し、風を切る音が響く。
ローゼルは、刃を避けるために、机のところまで後退した。
「毒殺されたジニアの二の舞にしたくなかっただけだ。ジニアと同じく、手は出してはいない」
「自分のすぐ目の前なのに? そんな馬鹿なことはないでしょう?」
ホスは、皮肉げに口角を上げる。
「私は、鬼畜じゃない。幼いソアラに手を出すつもりはない。彼女は実母の生活のために、今はマギーの補佐として、花嫁修業以外、夜伽を抜きにしてだが、私の世話をしてくれている。自分の欲しか見ていなかったジニアとは大違いではないのか? 彼女自身、王妃としての国情についての勉強は、熱心ではなかったようだぞ?」
「そ、そんなこと」
「ホスは、 ジニアの美しさと、官能的な行為だけに溺れ、何も見ていないようだな。ガラスの薔薇が正妃を示さない理由。ジニアの素性をわかっていない」
「美しい彼女の寂しさをわからずに、愚弄すること。たとえ王であっても、許すことなど出来ません!」
ホスは、再度突進してきた。
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