裏口
裏口
ローゼルは、マギーの手前、ソアラが息を呑むような口づけだけで満足することにした。
マギーが準備を終わり次第、唇を離す。
自分の腕の中にいるソアラを引き剥がしたローゼルは、彼女をテーブルへ向かせる。
テーブルの上には、暖かい紅茶と上品な曲線を描く皿には、たっぷりとスコーンが乗せられている。
それは、マギーの手作りであり、ローゼルとソアラのお気に入りの品。
一番安全で、甘すぎることない。
空腹時にでも、美味しく食べることが出来た。
「ソアラ、食べてから話そう」
ローゼルは、そう言う。
真っ赤に頬を染め、口を添えるソアラを尻目に、スコーンへ手を伸ばした。
「さあ、さあ。ソアラ様もお食べになってください」
ソアラは、マギーの穏やかな口調に我に返った。
「は、はい。では頂きます」
ソアラは、そう言ってローゼルと同じように食事をはじめた。
「ソアラは何故、こんな天気の怪しい日に外へ出かけた?」
落ち着き始めた頃、ローゼルが薔薇の模様で彩られたカップをソーサに戻して、問うてきた。
ソアラは、その問いに顔を顰める。
食事のあと、ソアラとローゼルは寄り添うように座っている。
ソアラは、恥ずかしかったけど、距離をおこうとはしなかった。
彼女自身、先ほどの事件で一人きりになったこともあって人肌恋しいのもあり、それよりも何よりもローゼルのそばにいたかったのもある。
「……ローゼル様が、外へ出るように勧められたはずでは?」
ソアラは、彼女を一人にしたローゼルの言葉に理解出来ず、ローゼルをじっと見つめて言う。
ローゼルは、眉間に皺を寄せている。
「私がソアラに勧めた? ソアラは冗談がきついな」
「だから、何を仰っているのですか? 昼過ぎにホスがやってきて、私を裏口へ進めたのですよ」
「ホスが?」
「え、ええ」
ソアラは、酷く疑問に感じながらも、本当のことだったので大きく頷く。
「……そうか」
ふーんと鼻を鳴らしたローゼルは、呟くように言い、マギーに目で合図する。
「違うのですか?」
「ソアラが気にすることではないな」
ローゼルは、そう言ってソアラの柔らかな頬へ手を伸ばして撫でてくる。
「き、気になりますって。ローゼル様、何かあるのでしょう?」
察しの良いソアラは、甘美な仕草に戸惑いながら、ローゼルの意図を問う。
「だから、気にするな」
再度そう言うローゼルは、そのまま長い指をソアラの下唇へおろし、親指で押し当ててくる。
「……」
暖かい親指の微妙な動き。
先ほどの甘い口づけの感触を、ソアラによみがえらせる。
湯上りとは別に、ソアラの頬や耳元が赤く染まった。
「……ソアラはすぐ赤くなるな」
ローゼルは、くつくつと面白げに笑いを湿らせ、その手を離した。
「だ、だって」
「そろそろ寝ろ。すべては明日にしよう」
またもやソアラが反論する前に遮られる。
ローゼルは、ゆっくりと立ち上がった。
「ローゼル様」
「明日だ。今日は疲れた」
ローゼルは、ソアラの意見をききれることはなく、背を向けると扉へ行ってしまう。
「もうっ。ローゼル様……」
ソアラは、不服そうに再度呼ぶ。
ローゼルは、振り返らない。
「ソアラ、少しくらい危機感を持ったらどうだ?」
「え?」
「おやすみ。ソアラ」
ソアラが言葉の意図を探る前に、ローゼルは扉を開ける。
そのまま室の外へ、出て行ってしまう。
相変わらずローゼルに振り回されてしまう自分。
ソアラは、深々と溜息をこぼしていた。
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