ブランデー
ブランデー
ローゼルは、ともにきた懐刀のハランに指示したあと、彼に手元のランタンを渡す。
風や小雨は、いつの間にか止んでいた。
だが、地面は雨を吸い込んで、濡れすぼっている。
ローゼルは、躊躇いなく、自分の引き締まった身体を湿った地面へ横たえた。
自分の逞しい両腕を、溝の中へ差し入れる。
ローゼルは、ソアラの氷のように冷たい手を捕縛する。
ソアラは、ローゼルによって無残な格好で引き上げられた。
身体中に泥と苔、草がついていて、彼女はびしょ濡れだった。
立ち上がったローゼルに助け起こされたソアラは、彼の顔をじっと見つめる。
お互い一瞬押し黙ったが、ソアラは涙にむせた。
「……もう大丈夫だ」
ローゼルは、宥めるように言って、ソアラを自分の胸元へ抱き寄せる。
ソアラは、よりいっそうすすり泣く。
ローゼルは、ソアラを自分の両腕で抱き上げ、足早に歩き出した。
裏口の前で、マギーがブランデーのボトルとグラスを用意して、2人を待っていた。
「さすがは、マギーだ」
ローゼルは、ソアラをおろしたが、手を離さずに言う。
「わ、私は、お酒は苦手なのですが」
「ダメだ」
ローゼルは、困惑しているソアラの意を介さなかった。
無理やりブランデーを飲ませると、再度自分の両腕で抱き上げてしまう。
ローゼルは、ソアラを彼女の部屋まで運んでくれた。
それからしばらくして、ソアラはすっかりと温まっていた。
生乾きの髪を後ろに垂らしたまま、ソアラはナイトガウン姿で、リビングへ行く。
ソアラを浴室まで送り届けたローゼルも、自室に戻って湯浴みをして、さっぱりしていたが、再度彼女の部屋に戻っていた。
ローゼルは、何事もなかったように、悠然と長椅子に座っている。
それは、余裕ある王そのものの姿だった。
ソアラは、ナイトガウン姿の自分に躊躇いがあった。
ローゼルに、きっちりとお礼を言えなかったので、恥ずかしかったけれど、覚悟を決めることにしたのだ。
ソアラは、後手で扉を閉めると、その場で居住まいを正す。
「……ローゼル様、助けてくださって、本当にありがとうございます」
自分へ視線を向けたローゼルが何か言う前に、ソアラは言う。
その後、膝が頭につくくらいに、その場で深々と頭を垂れる。
「当たり前のことだ。それよりもソアラ、話がある。隣に座れ」
ローゼルはそう言うと、尊大な仕草でソアラに手招きしてきた。
「で、でも、あの」
「ソアラ」
ローゼルから厳しい一声が上がる。
ソアラは、諦めておそろおそろ彼のもとへ行く。
ローゼルは、自分で言いだしたことは断固として行動する頑固さがある。
彼に逆らえないことは、ソアラ自身経験上わかっていた。
ローゼルがすぐ隣へ指し示してくる。
ソアラは、人一人座れるくらいの距離を取って、腰をおろした。
ローゼルが眉を上げて、何か言いかけた時。
廊下へ続く扉から、ノックがきこえてきた。
「ローゼル様、マギーです」
「入れ」
ローゼルは、マギーの声に、扉へ視線を送る。
すぐさま返事をしたローゼルは、自分の胸元で両腕を組む。
そして、神妙な表情で俯いているソアラをじっと眺め回してくる。
「……」
鋭い知性が輝く眼差しに捕らえられ、ソアラは思わず息を呑み、緊張して次の言葉が思いつかない。
マギーは、扉を開けてワゴンを引き入れてくる。
ローゼルは、不意に両腕を解き、我に返って手伝おうとしたソアラの細腕を取る。
ローゼルは、 驚愕しているソアラを自分の胸板に引き寄せてしまった
「大人しくしていろ」
「で、でも」
ソアラのが反論しようと身じろいだその時。
ローゼルによって彼女の顎は引き上げられ、唇を奪われていた。
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