旅路

旅路




安穏と時が過ぎ、数ヶ月経った頃のこと。


ローゼルは、ソアラを別荘へ連れ出してくれた。


ソアラは、まだ婚約者候補としては、正式に認知されていない。


ゆえに、裏口から出発した。


馬車の中は、ドレスを着た貴婦人を数人乗せても十分な広さだった。


ローゼルは、馬車へ乗り込むと、ソアラを自分の隣へと、寄り添うように座らせてしまう。


ソアラは、ローゼルが驚くほど近くにいて、戸惑っている。


窓際の隅へ押しやられ、下手に動くことがままならない。


二人っきりのまま馬車は動き出す。


ソアラとローゼルは押し黙っていた。


不意に、ローゼルがソアラの小さな頭を自分の膝の上へ押しつけてきた。


「!」


ローゼルの行為に目をぱちくりさせるソアラは、自分の状況が理解出来ず、言葉を失っている。


「ソアラは、少し寝ていろ。別荘までは遠い」


呆気としているソアラを膝枕させたローゼルは、端的にそう言う。


ソアラの髪に自分の長い髪を滑らせて、優しく梳いてくる。


「ロ、ローゼル様」


「寝ていろ」


反論の余地がないほど、ローゼルの再度短い言葉が降り注がれる。


ローゼルは、ソアラの瞼のあたりに手を置いて、彼女に眠りを促してきた。


「……」


困惑するソアラは、王の膝枕なんて失礼すぎるので、身体を起こさねばと考えている。


だが、とても温かく気持ち良かった。


彼女自身、離れがたい心情のほうが先立ってしまう。


ソアラの緊迫した気持ちは、どうしようもな安心感と、襲ってきた睡魔とともに、次第に薄れていく。


今だけ。


今だけでも、こうしていたい。


抗うことが出来ない、切なさが衝き上がる。


優しくて尊大な彼に、惹かれていること。


ソアラは、あらためて気づかされていた。


彼女自身、このまま誘われ、眠るつもりはなかったが、揺り籠のような微妙な揺れに、負けてしまった。






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