起床時

起床時



ソアラは、窓辺へ行く。


緞子で飾られた大きな遮光カーテンを開いた。


眩しい朝日が、燦々と部屋を照らす。


ローゼルは、 四柱式の寝台で安眠を貪っている。


朝日が差し込んでも、一向に目覚める気配はない。


ソアラは、やれやれと溜息を吐く。


それはいつものことだった。


ソアラは、神妙な足取りで、寝台で近くまで行って立ち止まる。


「ローゼル様、朝ですよ」


ソアラが声をかけると、長い睫毛がピクリと反応した。


だが、いまだに動こうとはしない。


「ローゼル様、朝ですって。起きてください」


ソアラが声をかけるが、ダメだった。


彼女自身、いつものことながら困り果てていた。


毎度のことながら、朝が弱いローゼルを起こすこと。


彼の身体を揺するなり、リネンや枕を取り上げるしかない。


ソアラは、わかっているが困ったことがあった。


相当寝ぼけているのか。


ローゼルには、タチの悪い癖がある。


いっそうほうきでも持ってきて、その柄で突っついてみようか?


掃除道具で失礼ならば、王に見合う棒を探してみるのも手かもしれない。


毎度毎度黙々と考えてしまう ソアラは、ローゼルには対抗するために、一度マギーに提案したことある。


だが、やはり王に道具を使用して起こすのは不敬に当たると、マギーに却下されていた。


ソアラは、寝台のローゼルを眺め、ぐるぐると思案している。


時間だけが刻々と過ぎてしまう。


ソアラは、何も思いつかないので、意を決した。


いつものように警戒しながら、彼女は寝台へ近づく。


ソアラは、枕に顔を埋めてうつ伏せで寝ている、ローゼルの大きな肩を取った。


「朝ですよ。お目覚めになられてくださいって」


ソアラは、ローゼルを大きく揺すってみた。


彼女自身、いつでも飛びのけるように、細心の注意を怠らないつもりだった。


だが、不意に寝返りを打ったローゼルに、ソアラはまんまと寝台の中へ引きずりこまれ、唇を奪われた。


「⁉︎」


鮮烈な痺れが、ソアラの全身を駆けめぐる。


巧みなローゼルに、否応なく心も身体も、蕩けそうになる。


それは、今日初めての行為ではなかった。


毎日の日課になっている。


ソアラは、ローゼルに勝てた試しがない。


ローゼルは、口づけの先を進めることはなかった。


異性経験がまったくないソアラにとって、どうあれうまい具合に対処するすべはなかった。





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