緊迫

緊迫



ローゼルの腕の中にいるソアラは、いまだに顔を上げることない。


緊迫した様子を醸し出している。


「そうか。それも手だな」


「ローゼル様、私をそばにおくなんて、無茶な話なのではないのでしょうか?」


ソアラは、慌てた声音で言ってきた。


「どうして?」


「どうしてって……」


「ソアラは、自分の産みの母親のために、働くつもりであったのだろう?」


「え、ええ。あの、ローゼル様、私は大丈夫ですよ」


「大丈夫?」


ソアラの言葉に、ローゼルは怪訝そうな顔になる。


「はい。エロク様の件か破談となったとしても、それ以前から話があったように、伯爵家から籍を抜き、他家のメイドとして働く予定を立ててはいまして」


「ソアラが別の家で、メイドとして働く必要はもうない」


「ローゼル様、私は伯爵家の娘としての教育は、最低限受けてはいますが、公の場になど出たことは一切ありません。王様の侍女よりは、一介のメイドの方が、私にはあっているかもしれませんよ?」


ソアラは、またしても自分を拒絶してくる。


ローゼルは、俯き加減の彼女の顎をしゃくり上げた。


「これ以上、ソアラの余計な話はきくつもりはない。ガラスの薔薇を否定することは、私が許さない」


「ロ、ローゼル様」


ローゼルは、決然とした表情でソアラの顔をじっと覗き込んで断言する。


ソアラは、戦慄を走らせ、追い詰められた動物のように、怯えた表情を滲ませた。


「ソアラは、この部屋にいて貰う。明日にでもそなたの荷物を運び入れるつもりだ。諦めるのだな」


ローゼルは、まずは他の花嫁候補と同じ待遇からと考えていた。


ゆえに、最初はそのつもりはなかった。


ローゼルは、 会話をしてみて、今にも自分から逃げ出しそうなソアラを察知した。


マギーに提示されたことを考慮し、彼は決意を固くしていた。


「ロ、ローゼル様、私は無理ですって。伯爵家の娘ではなく、メイドとして働いてきたのです。ドレスも着ていた一着しかないですし」


ソアラは、ぶんぶんと首を横に振り、ローゼルの手を振り払ってしまう。


「問題ない。私がすべて用意する」


「ですが」


「これは決まったことだ。ソアラ、これ以上王である私の意に逆らうな」


ローゼルは、悲痛な声を上げるソアラの花びらのような唇に指先を伸ばす。


彼女の下唇へ自分の親指を添える。


「ロ、ローゼル様」


「そう頑なになるのではない。マギーと私に任せておけばいい。ソアラは愛妾ではなく、私の正式な花嫁候補だ。成人し嫁ぐまでは、下手に手出しなどしない」


ローゼルは、自分にいいきかせながら、ソアラを宥めるように言う。


それでもソアラは、何か言いたげに唇を薄く開こうとした。


ローゼルは、それを許さなかった。


自分の官能的な厚みのある唇で、彼女の唇を強引に封じ込んだ。

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