提案
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ソアラの柔らかさ。
彼女特有の優しい香り。
ローゼルは、胸奥が締め付けられるのを感じていた。
右手のひらで握りしめているガラスの薔薇。
自分の左小指の痣。
二つは共鳴するように、さらに熱量を滲ませている。
ローゼルの鼓動は、怒涛のように激しく打つ。
全身の毛が粟立っていく。
ローゼルは、大人の男性として、女性と触れ合うことに関して慣れている。
それでもソアラだけは、別物の感触。
彼自身、つくづく思い知らされていた。
「……ソアラ、すべて私に任せて欲しい。いいだろう?」
ローゼルは、自分に衝き上がる激しい想いを覚えながら、少し掠れた声音で言った。
「……ローゼル様、私には母のことがありますから、働かなければいけないのです。母は私のためにメイドを辞めることが出来ず、ジプシーの仲間とともに、旅立つことが出来なかったのです」
ソアラは、顔を上げることなく言う。
ローゼルを頼ろうとはしない。
それは、ローゼルを酷く苛立だせていた。
「だから、ソアラ」
「ならば、ローゼル様の世話をして頂きましょう」
言いかけたローゼルを遮り、マギーが言ってきた。
「世話だと?」
「そうですわ。ローゼル様は、様々なことが重なったこともあり、自分の身近に人をおくことを嫌っているのは確か。乳母である私一人でしていることを、ソアラ様に手伝って貰います」
ローゼルは、マギーの意見を不快に感じ、彼女へ視線を向けて睨めつける。
「マギー、ソアラの母親と同じ、彼女をメイドとして扱えと?」
「違いますよ。これは突発的なことですし、すぐさま公の場へ披露するわけにはいかないのでしょう? ならばその間、ソアラ様を守るため、人目を避けるには、離れの今いる居住空間は、素晴らしい場所じゃないですか」
「それはそうだが」
「ソアラ様は、母親のため働きたい願いがあって、このままでは居心地が悪いと考えているのであれば、賃金が得られるローゼル様の世話という、彼女自身がなすべきことが出来ます。花嫁候補としても、花嫁修行も兼ねてますしこれは当たり前のことでもありますしね」
マギーは、そう言って、ローゼルの顔を覗き込んできた。
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