花嫁候補
花嫁候補
ソアラの瞳が翳り、俯いて自分から視線が逸らされたこと。
ローゼルの胸は痛んだ。
ローゼルは、ソアラの状況は詳しい調査によってわかっていた。
それが真実なのか。
実際に自分の目で確かめたくて、ローゼルは様子見している。
どうやら本当のことで、ソアラは伯爵の娘の一人として認知されながらも、不遇な人生を送っていること。
ローゼルは、気がつき、痛ましく感じている。
「あっ…… 」
ローゼルは、俯くソアラの顎に手をかけ、自分へ向かせた。
長い睫毛に縁取られた深緑の瞳が揺れる。
自分の姿がくっきり映りこむこと。
ローゼルは、充足感を覚えていた。
自分の小指に刻まれた薔薇の痣の熱量の濃度の濃さ。
薔薇の痣に熱が帯びることは、初めての経験ではない。
だが、ここまで鮮烈に感じたことはない。
ローゼルは、確証めいたものを自らに刻んでいた。
「ソアラ、そなたは私の花嫁候補の一人として、迎えることにした。わかったな?」
「は、花嫁候補?」
花びらのようなソアラの唇が、薄く開く。
まるで自分を誘っているかのように、ローゼルには見えた。
今すぐ抱き寄せて、その唇を奪い去りたい。
自分のものだという印を心ゆくまで刻みつけたい。
だが、ソアラにこれから先について話さなければいけないことが山ほどある。
ローゼルは、葛藤を繰り返し、自らの性的衝動をどうにか捩じ伏せた。
「……ソアラは私の花嫁候補となる」
「ま、待ってください。何かの間違えではないのでしょうか?」
ソアラは、大きく頷いて言い切るローゼルの言葉を素直に応じることはなかった。
ソアラが慌てて反論してきたので、ローゼルは眉尻を跳ね上げる。
「ソアラ、なぜ否定する?」
ローゼルは、思わず呻くように、低い声音で言う。
「わ、私は、庶子ですよ? 半分しか正当な血筋ではありません」
ソアラは、威嚇するローゼルの声音だというのに、それでもはっきりと主張してくる。
「庶子でも関係ない。半分であっても、ソアラは伯爵の娘だろう?」
今日は、騎士の姿ではない。
紛れもなく王である自分。
相変わらず怯まずに言い返してくるソアラに、ローゼルは感心していた。
「半分です。ガラスの薔薇は、他の誰かに反応しているのでは?」
「他の? それはありえないな。これは私が宝物庫から今持ち出してきたばかりだ。この場にいるソアラとマギーにしか、ガラスの薔薇の存在を解き放っていない」
「そ、その間に、他の誰かと擦れ違ったとかはないのですか?」
「ソアラ、いい加減にしろ。それともそなたは、王である私を否定するつもりか? それは許されないことだ」
ローゼルは、しつこく言い募るソアラに苛立ち、傲然と言い放つ。
「ひ、否定などしていません。ただありえないと、私は言っているのです」
ソアラは、ブンブンと大きく首を横に振る。
どうあれ王であるローゼルの提示することを受け入れようとしない。
「ソアラ、これは神聖なもので、それこそ虚実はありえないのだ」
「ローゼル様、ソアラ様の件は、多少なりに意図があったことではないでしょうか?」
苛立だしげにローゼルが言うと、マギーが口を挟んできた。
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