不安
不安
ゆるゆると目覚めたソアラの瞳に映る景色。
薄暗くてよく見えなかった。
わずかに見える扉の床のすきまから、灯りが漏れている。
ソアラは、不思議そうに首を傾げている。
不意に、口の端が鈍く痛むことに、彼女は気付いた。
「そういえば… …」
ソアラは、引き攣るような痛みに顔を歪め、ゆっくりと上半身を起こす。
リネンは、ソアラが味わったことがない素晴らしい羽のような肌触り。
それは身体に一切負担がかからなかった。
ソアラが自分に何が起こっているのか不安に瞳を曇らせていると、扉が開いた。
「……」
目の前に現れたのは、ソアラが考えていた人物ではない。
お仕着せの服を着ている、すらりとした年配の女性だった。
「まあ、起きたのですね」
その女性は、扉を閉めた反対側の手に、燦々と灯りを灯す燭台を持っている。
人の良さそうな顔に笑みを浮かべた彼女は、ソアラのもとへ来た。
「あの、ここはどこでしょうか?」
ソアラは、居住まいを正して問うた。
寝台から降りようと考えたが、自分が薄いシルクの夜着であることに気づき、ソアラはとどまったのである。
「ここは、ローゼル様の居住部分の一つですわ。私はマギー。よろしくお願いしますね、ソアラ様」
マギーは、燭台をサイドテーブルに置くと言い、その場で恭しく一礼する。
「は、はい。よろしくお願いします」
マギーにつられて、ソアラは深々と頭を下げた。
「ソアラ様、お腹がすいたことでしょう? 動けそうですか?」
自分に優しく誘いかけるマギー。
ソアラは、どことなく優しい微笑みだけじゃなく、穏やかな雰囲気といい、自分の母に似ている気がしていた。
「大丈夫と思いますが」
その時、ソアラを遮るように、別の扉から短くノックがきこえたと思うと、大きく放たれた。
「話し声がきこえた。目覚めたのだな」
ローゼルだった。
そう言って彼は、浩然とした足取りで、室の中へ入ってきた。
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