燻る想い

燻る想い



ローゼルは、ソアラを自室の隣にある部屋へ連れて行った。


ローゼルの部屋よりは、ひとまわり小さい。


王妃が使う大事な場所であるゆえに、一枚の扉で隣室と繋がっている。


それぞれの部屋に、天蓋付きの寝室があった。


大人の男が五人は眠れるほどの、クィーンサイズ。


ローゼルは、 ソアラは、気を失ったソアラを運び込んだ。


自らの世話取り仕切るメイド長マギーに事情を説明する。


ローゼルは、これからのことを含めて、誰よりも信頼出来るマギーに、ソアラのことを任せることにした。



ローゼルは、自分自身の心を落ち着かせるために、隣室へ行く。


王妃用の薄紅色が基調となっている、可愛らしい花柄のソファがある内装とは違う。


薄紫を基調にし、書斎がほとんどしめている落ち着いた部屋だった。


ローゼルは、すっかり薄暗くなってきたので、寝台の明かりを頼りに奥へ進む。


格調高いライティングビューローへ行き、書類へ向かった。


だがローゼルは、いつもと違い、政務に集中出来ず、物思いに耽ってしまう。


こんな早くソアラを隣室へ招き入れるつもりは、ローゼルにはなかった。


まずは、王宮へ呼び寄せたソアラに、公の場でガラスの薔薇を与える。


正式に取引し認知させ、他の候補者と同じように、それなりの部屋を用意すること。


それがまずは第一歩のはずだったのに。


邪魔するものが出てきてしまった。


ローゼルは、歯痒い想いを感じていた。


ソアラの正体にたどり着いたローゼルは、自分に見合う相手であることに安堵した。


ローゼルは、すぐさま親書を出した。


庶子であっても、れっきとした伯爵の娘。


それも選ばれたかもしれない家系の一人。


占術者が、ソアラを示唆した可能性はある。


ソアラは、病弱で王妃は無理ということで、王妃選抜のとき省かれたと、報告が残っている。


ローゼルは、実態が知りたく、自分の手のものを使い、ソアラを内密に調査してみた。


ソアラは、実母と同じく、屋敷ではメイド扱いになっていて、彼女自身、極めて健康だった。


ならば王宮へ導き、王妃としての教育をし直せばいい。


ローゼルは、そう考えた。


ソアラの人柄や、ガラスの薔薇の正確な導きもしっかり見なければいけない。


たとえ、自らの薔薇の痣が鮮烈に疼いても。


王妃選抜である以上、それなりに障害があるのは仕方ないこと。


ローゼルは、最初はそう考えていた。


彼自身、ソアラが自分の相手だと、確信は持っている以上、そろそろ動くつもりだった。


生憎先に越されてしまったエロクの問題は、彼の暴言、ソアラに暴力を振るったことで、罪があるのは確か。


彼らの取り決めは、極めて解消しやすい。


あとは、正式に認知されている他の候補者との噛み合い。


一人は、この世を去った。


だが、あと二人いる。


ソアラの異母姉と、ローゼルの母代わりの叔母が何よりも望む従姉妹。


ローゼルは、それを退けて、ソアラを手に入れる方法を熟慮していた。


どうあれ何があったとしても、ソアラは手放したくない。


なぜならば、ソアラと会った時から、ローゼルは眠れない夜を送っている。


毎夜、彼自身混み合った状況になってはいた。


全身全霊、ソアラの存在感に悩まされている。


ローゼルは、自分の胸奥で燻る想いを覚え、諦めることなど、微塵になかった。

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