王宮

王宮




時は遡る。


ソアラが王城へ到着した頃。


城内の執務室にいたローゼルは、一休みするため窓辺に佇んでいた。


ローゼルの城は、肥沃な土地に囲まれた岩場のおかげという防衛上、絶好な位置に建てられている。


ローゼルは、眼下に広がる広場に目にやり、小首を傾げている。


蜂蜜色の巻き毛が、陽射しで輝いている。


顔は見えていないというのに。


どうしても心が引き寄せられてしまう感覚。


自らの意識に火をつけ、呼吸が深くなる。


肌が熱くなっていく。


手が届きそうな位置。


彼女がいるのを感じるだけで、毛穴という毛穴で、それを察知する。


呼吸する空気にさえ、感じてしまう。


左小指の薔薇の痣が、妙な熱量と疼きを伴う。


ローゼルは、数日前の出来事を思い出し、我に返る。


黒いマントを翻した彼は、足早に外へ続く出入り口へ向かった。

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