第10話 ノートばれと光明 side:美波
大事件発生です。
「あっ、おかえり、お姉ちゃん」
家に帰ると、一つ下の妹の
わたしはアタフタと両手をバタバタさせながら抵抗の声を上げます。
「そ、それっ、それは──」
「えと、お姉ちゃん。なにをそんなに怯えてるのかなぁ?」
「開いたらその……罰金です。今日のおかずもっ、わたしがもらいます!」
「え〜、ツンデレとは! いつ何時も『わぁー! わぁー! あぁあああああああああああああああ!!!!!!!』──なのです。は〜すごいね。博士号取れるよ」
身体中がインフルエンザに罹った時みたいに熱いです。
顔中が真っ赤になっていることでしょう。
「〜〜〜〜〜ひ、ひゃくえんっ、罰金です」
「はい、どぞ」
あらかじめ予期していたのか、玲奈はノータイムで百円玉を指で弾いてきたので、これを無言で受け取ってノートをシュバっと奪い返してやりました。
「ははっ、お姉ちゃん、かわいい! こんなの彼くんもイチコロだねえ」
「へへ……まさとくんは意外と振り向いてくれ──!? はて、彼くんって誰のことでしょうか」
「その嘘、無理筋だよ?」
玲奈は肩をすくめると、しれっとベッドに座って横をぽんぽんと叩きます。
「まあ座りなって」
「……はい」
借りた猫のようにして妹の隣に座り、先生のお叱りを受ける前の生徒のようにして次のお言葉を待ちます。
なにも悪いことなどしていないと言うのに……。
「ちなみにあのノート、机の上にあったよ。油断しすぎなお姉ちゃんが悪い」
「はい、わたしが悪いです」
「そうだよ? 恋愛も悪手ばかり、あたしに相談したらぜ〜ったい勝てるのに。ノート見ちゃったし、特別にアドバイスしてあげる」
玲奈は妹だけど恋愛に関してはマスタークラス。
毎年違う男を連れてくる凄腕。
聞けば答えを出してくれる、攻略本みたいな子なのです──だからこそ頼ったら負けといいますか、そんなことではダメだと思いました。
「あ、ちなみに状況証拠はなくてもバレる余地はあったんだよ。お姉ちゃん、急に陸上始めたかと思ったら練習というか『修行』始めちゃうし。なんか挙動不審で、時々照れたりするし。要するに『変』だったの」
「…………」
「赤くならないで。年頃の女の子が結構な割合で発症する病だから」
「……やまい?」
「うん、恋の病だよ」
恋──の、病???????
これがっ、あの!?
噂に聞くアレなのですか!?
みんなツンデレノートつけたり、なんか色々やってるのですか!?!?
「めんどくさいリアクション見せてくれてるところ悪いんだけど本題入るよ〜。議題はこの本について」
「あ……はい。でも内容を音読とかはしな」
「え? ツンデレはヒットアンド『わぁー! わぁー! あぁあああああああああああああああ!!!!!!! あがばああばばばばあああああああああ!!!!!!!!!!!!!』であり、静と動の二面性を持つとかよく分かんないけど、自分なりに良い考察してると思うよ」
「玲奈、ひどいですよぉ」
玲奈は普段あまり絡んでくれないのに、ふらっと遊びにきたと思ったら楽しそうにからかってきます。
悪魔のような妹を持ったものです。
「で、このノート、いろいろな考察が書いてあったり、その日の行動を記録したりしていて、頑張ってるなぁって思うんだけど……ちょっと足りないんだよねぇ、
なんと!
これでも足りないと!?
「さすが恋愛老師。なんなりと足りない部分をおっしゃってください」
「素直でよろしい……で、老師ってなに?」
「ちょっと意地悪してみました」
「……ちなみに、その強引な
「へ?」
「
「…………わたしの努力を否定するのですか?」
酷い妹がいたものです。
何事も努力。
努力をして叶わない事なんて、この世のどこにも無いというのに。
なんかムカつきますね。
素直に聞いてやろうと思ったのですが、ちょっと斜に構えた感じでよさそうです。
「……それで、どうすればいいんです?」
「さっき言ったように、押しが弱いからもっと強めに行くんだよ。来週、ちょうど台風来るし」
「台風?」
「あたし、スケジュール常に気にして動くから二週間先の天気予報まで記憶してるんだ。残念だけど総体は延期だろうね〜」
それは……なんという事でしょうか。
たくさんたくさん調整してきたというのに、コンディションを落としてはいけない期間がさらに増えるというのです。
正人くん、睡眠から水分の量に至るまで管理してて大変そうですし、本当に大打撃ですよこれは。
な、の、に。
何も知らない玲奈は能天気なことをほざきやがります。
台風なんて百害あって一利なし。
残念です。
天下の老師は何も分かっていません。
よろしい。
ここから先は斜に構えた感じで聞いてやりましょうか。
「だから──って、なに? 急に腕なんか組んじゃって」
「いいからいいから、続けてくださいっ」
「……はぁ、じゃあちゃんと聞いて、しっかり実行に移してね」
「もちろんです」
「オーケー。まあ、大したことじゃないんだけど」
玲奈はお尻一つ分距離を詰めて、わたしの頬を人差し指でちょんと触って言い聞かせ始めます。
「来週、台風が直撃する日、この家はお姉ちゃんを除いていなくなります」
え、台風が直撃するのに?
「もちろん、部活もありません。なんなら、早帰りになることでしょう」
謎の威圧感。
思わずごくりと喉を鳴らしてしまいます。
「そこで、何かと理由をつけてお姉ちゃんは彼くんを家に連れ込みます──以上」
「…………え、終わりです?」
「以上」
「何かこう、特別な作戦が──!」
「無いです、そんなの。一つ屋根の下に入るというのが既に特別なので」
特別?
屋根の下?
ていうか、それの何処が特別なんですか??
「お姉ちゃんは鈍感だから、今一ぴんとこないかもだけど。大丈夫、全部上手く行くから」
「……わかりました。とりあえずやってみます。これが玲奈の言うところの『押し』なんですね?」
「まあ、ね。あのノートの成果も出ると思うし、最強だと思うよ」
「はえ〜、ついにわたしの頑張りが実るんですね」
本当に上手くいくのでしょうか。
老師の言うことですし、一応試してみるつもりですが。
「あ、でもっ。失敗したら罰金ですよ」
「はいはい。じゃああたしの指示にはちゃんと従って準備を進めてね」
「わかりました。準備、とかあるんですね。てっきりこの身一つで臨むものかと」
「原始人じゃないんだから、そんなのあり得ないよ。ま、買う物は一つだけしかないから。そんな構えなくてもいいよ〜」
────────
今日の振り返り。
ノートが見つかるというハプニングがありましたが、怪我の功名でしょうか、強力な助っ人を手に入れました。
台風のことは非常に残念ですが、止められるものではないですし、タダで転んでやる必要もないですし前を向いていきましょう。
とにもかくにも来週が楽しみです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます