第3話

「無事だったのね、お兄ちゃんっ!」

「うわっ」


 車から降りると本部から飛び出してきた沙知が抱きついてくる。


「もう……心配したんだから」

「悪いな」

「ううん、無事だったらそれでいいの」


 そう言って笑う沙知。

 唯一残った肉親、唯一の家族。


 ……やっぱり俺はコイツを置いていくことはできない。


 俺は改めて決心する。

 絶対に沙知を守る、と。


「そういえば、お兄ちゃん。この子、何?」


 沙知は俺の手の中でうずくまっているもぐろうを見ながら言う。


「ああ、それは……」


 カクカクシカジカマルマルウマウマ


「もぐら!?これがあの!?」


 沙知は驚いてる。

 まあ、至極当然の反応だ。


「それで、お兄ちゃんどうするの?この……もぐろうだっけ?」

「ああ、とりあえず連れていくよ」

「そう……わかった」


 俺は沙知と別れて第4司令部へと向かう。

 その途中、もぐろうが俺の腕の中から飛び出る。

 そして、俺の前に立ってこちらを見上げていた。


「どうしたんだ?」


 俺はしゃがみ込んでもぐろうに話しかける。

 すると、もぐろうは俺の頭によじ登ってきた。


「えっと……もぐろう?」


 もぐろうはそのまま俺の頭の上で眠ってしまった。


「なんなんだよ……全く」


 俺はため息をつく。



「おー、都賀高等兵。無事だったンゴねー」

「まあ、なんとか」


 この人は第4司令部司令長官の朱鷺正宗ときまさむねだ。

 年齢は25才だが、すごい優秀だ。

 あと、ンゴが口癖。


「それで……頭の上の可愛い生物は何だンゴ?」


 やっぱり気になるよな。

 俺は沙知にしたようにカクカクシカジカマルマルンゴンゴ説明した。


「なるほど、事情は分かったンゴよ」

「わかってくれますか?」


 よかった、話がわかる人で。

 まあ、そういうところがあるから上に一瞬でのし上がったんだろうけど……。


「それで、どうするンゴ?」

「え?」

「いや、この子を飼うのかってことンゴよ」


 ……誰が?


「まさか……俺ですか!?」

「他に誰がいるンゴ?」


 まあ、確かにそうだけど……。

 でもなぁ……


「大丈夫ンゴよ。ここの人達は動物好きだから」

「はぁ……」

「それに、この子は多分人間の言葉を理解してるンゴね」

「マジで!?」


 マジで!?

 俺が驚きの声をあげると、もぐろうは目を覚ましたらしく頭をブルッと振る。


 そして、俺の顔を見るなり短い鳴き声をあげた。

 まるで、そうだよって言っているみたいに……。


 俺は諦めてもぐろうを撫でた。

 もぐろうは気持ち良さそうにしている。


「じゃあ、よろしく頼むンゴ」

「はい、わかりました」



 こうして、俺はもぐらのもぐろうを飼い始めた。

 将来コイツもああなっちまうのかな……。

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もぐらに侵略された世界でもぐらを育てる 田中山 @tanakasandesuyo

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