第2話

「あった……!」


 光が入ってくる穴を見つけた。

 そこから這い出ると、そこは森に囲まれた山道のようなところだった。


 見上げると、空が赤く染まっている。

 どうやら、もう夕方らしい。


「……ん?」


 遠くの方から何か音が聞こえる。

 耳を傾けると、それは誰かの声のようだ。


「都賀ー!聞こえたら返事をしろー!」

「せ、先輩!」


 声の主は桃園先輩だった。

 俺を探してここまで来たのだろうか。


「先輩!!こっちです!!」

「都賀!無事だったか!……ってなんだソイツは!」


 先輩は俺の腕の中にいるもぐらを見て驚いていた。


「こいつ、抵抗しないんですよ。案外可愛いものですよ」

「そういう問題じゃないと思うが……まぁいい。それより、早くここから離れよう。

日が暮れてきたからな」

「はい」


 桃園先輩が乗ってきた車に乗り込み、再び移動を開始する。

 ちなみに、もぐらは俺が抱えている。


「ところで、あのもぐらはどこで見つけたんだ?」

「えっと……地下洞窟みたいなところにいました。それを捕まえてみました」

「……そうか」


 桃園先輩はそれ以上何も聞かなかった。


「今日はここで休むぞ」


 車を停めた場所は、小さな山小屋の前だった。


「はい、わかりました。じゃあコイツも……」

「ああ、小屋の中に置いておくといい」


 俺はもぐらを抱えながら、山小屋の中へと入っていく。


「さて、私は夕飯の準備をしておこう。都賀は休んでいて構わないよ」

「ありがとうございます」


 先輩が作ってくれた料理を食べ終え、俺は小屋の中で横になっていた。


「ん……?」


 ふと、目を覚ますと、もぐらが俺の体の上に乗っていた。

 どうやら、寝ている間に潜り込んだらしい。


「おい、降りろ」


 だが、もぐらは俺の言葉を無視し続けている。

 仕方がないな……。


「はぁ……わかったよ。一緒に寝るか」


 俺がそう言うともぐらは嬉しそうな鳴き声を上げた。


「ったく……ホントに可愛いやつだなお前」


 俺はもぐらを抱きかかえたまま、眠りについた。


「……朝か」

 窓から日光が差してくる。

 隣を見ると、もぐらはまだ眠っていた。


「……ん?」


 もぐらの体をよく見ると、へそのところに変なマークのようなものがあった。

 まるで八芒星のような形だ。


 小さいもぐらにはついているのだろうか?


 不思議に思った俺は、もぐらを起こさないように気をつけつつ、それに触れてみた。


「……ッ!?」


 瞬間、頭の中を何かが流れ込んでくるような感覚が襲う。

 それと同時に、俺が今まで感じたことのないほどの痛みが全身を駆け巡る。


「ぐがああああ!!」


 あまりの激痛に思わず叫んでしまった。

 もぐらは、その声で目が覚めたらしく俺の方へと顔を向ける。


「な……んだ……?」


 俺は自分の手をじっと見つめた。

 そこには、昨日までなかったはずの黒い八芒星の模様が浮かび上がっていた。


「なんだ……これ」


 俺はしばらく呆然としていたが、あることに思い当たる。


「まさか……このもぐらが……?」


 俺は再びもぐらに目線を落とす。

 だが、あいも変わらずキョトンとした顔をしている。


「都賀!外まで叫び声が聞こえてたか大丈夫か!?」


 桃園先輩がドアを蹴破るような勢いで入ってきた。

 流石に外まで響いてたか……。


「大丈夫です、少し悪夢を見てしまって……」

「……そうか。ならいいんだが……」


 先輩は俺のことを心配してくれているようだ。


「それにしても、このもぐら……本当に大人しいな」


 俺の隣でゴロゴロ転がっているもぐら。

 確かにおとなしい。


「アイツらも子供の頃はこんな可愛かったのかもな」

「……ですね」


 地上で暴れている巨大もぐらたち。

 元はコイツみたいだったのだろうか。


「あと、そろそろ出発するぞ。本部には救助したって連絡してあるから」

「わかりました」

 

 俺はもぐらを抱っこして車に乗り込む。

 そして、車は走り出した。


「そういえば、お前の名前はなんていうんだ?」


 俺は腕の中のもぐらに尋ねる。

 すると、もぐらは短く鳴いた。


「……わからないか。まぁ、まだ子供だしな」


 俺は、もぐらの名前を考える。

 ……そうだ、もぐらだからもぐろう。


 安直すぎるかな? まぁいいだろう、もぐろうと呼ぼう。


「よろしくな、もぐろう」


 もぐろうはまた短く鳴いた。

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