[3] 侵入
体を求める。肉に溺れる。潜る。深く潜る。
硬いベッドに押し倒した。欲望のままにむさぼる。
自らが着せた衣装ですら邪魔だとでも言うように乱暴にひきはがす。
装飾品とは装飾されたものが価値あるものだと思わせるためのものだ。
橋姫はそれを受け入れる。拒絶しない。痛みを忘れる。
手を伸ばす。やわらかい感触。もっと欲しくなる。
全身で求める。折り重なる。強く、力をこめる。
あなたは夢を見ている。ほんの短い間だけ。
不意に何かが私に触れた。冷たい表面。心地いい。
私もまた彼女を受け入れる。互いに求め合う。
敏感な部分に手が触れる。身じろぎする。
もっと触れてほしいのに。二律背反。
決まりきった行動をとっているだけ。快感に踊らされて。
血流が集まる。硬くなる。より過敏に変化する。強い感情を求めて。
あふれ出す。私であり私でないものが。彼女であり彼女でないものが。
ねじ入れる。つながるために。ざらざらとした感触。
自動的に筋肉は収縮する。リズムを刻む。心臓みたいに。
私はどこにも行かない。どこにも行きつけない。この場所にいる。この場所がいい。
狭い部屋。照明はひとつきり。
それなのに。彼女のことがよく見える。その形すべてを明瞭に感じ取る。
先端が震える。自分でもわからないものを求めている。
声がもれていた。呼吸が荒い。短く吸って浅く吐く。
感覚器官が絡み合う。口に含む。あらゆる情報を収集するために。
体が苦しい。それでもやめない。やめられない。
甘い匂いが脳を熱する。細胞は形を失い溶けていく。
古くからある感情が中枢神経を支配する。より深く混じり合う。
思考速度が低下する。知らず同じところをまわるようになる。
ぐるぐる、ぐるぐる。回っているのは私か、それとも彼女なのか。
旋律が合わさる。同じリズムを刻む。リンクする。
私の求めるものを私が与え、彼女の求めるものを彼女が与える。裏側から幻視する。
何も見えない。薄暗闇の中で。ふたつの裸体。
やわらかい。陶酔する。我慢できない。我慢する必要もない。
快楽が血流にのって体の隅々へとめぐる。左脚が指先までぴんと伸びた。
性感が徐々に高まる。運動は激しくなる。最後の一瞬に到達するために。
太ももに彼女を感じる。私は深く彼女の指を飲み込んだ。
もっと。足りない。あと少しなのに。切なさが募る。
頬に何か熱いものが流れる。涙だった。私は泣いていた。
苦しい。悲しい。泣きじゃくる。言葉にならない。声をあげて泣く。
なぜだろう。気持ちいいのに。うれしくてたまらないはずなのに。
液体が混ざり合う。強固に結びついて離れない。
何か薄い膜が私と彼女の間を阻む。わからない。わからないから泣きたくなる。
私は母親を知らない。何もないところから生まれた。無作為に生成された。
境目が消える。誰が誰なのかすでに意味はなくなっていた。
つながる。ずれる。置き換わる。
跳躍! 跳躍! 跳躍!
白い世界に無数の記号が立ち並ぶ。川が流れていた。
平行移動する。ホワイトノイズは途絶えない。
ここには私しかいない。誰の存在も介入してこない。自由な場所。
上流へとさかのぼる。同じような風景が繰り返し現れる。
風が強く吹いていた。偽物の風。
進行をさまたげる。古典的な仕掛け。警告はない。
回避行動。光線に触れたものは一瞬にして細かな立方体へと分解された。
降り立つ。障壁がつらなる。一枚一枚ゆっくりとはぎとる。単純作業だ。
丁寧に破壊する。その破片は降り積もる間もなく消える。
取り込める分だけ取り込んでいく。私を私でないものに作りかえる。
だます。だまされないように。
三角形が世界を創造する。もっともシンプルな方法。
原始的であるからこそ強固であり美しい。その場所に私は立ち入ることを許されていない。
私たちは複雑でありすぎる。複雑なように模造されている。
銃声は聞こえない。荒野に鳴り響かない。
拳銃の早撃ち。勝つのは楽だ。早い方が早い。
立ち止まれと師匠は言った。うまくいっている時こそ落とし穴があるものだから。
立ち止まるなと師匠は言った。うまくいっている時はその勢いにまかせればいい。
直感を信じろ。直感を信じるな。
状況は自在に変化する。言葉によって構成された指針は常に成立しない。
彼女はそれに興味を持たない。奪えとも奪うなとも言わなかった。
いったい何が目的なのか?
複数経路のうちのひとつしか過ぎないという可能性。否定できない。
遠くの形式がかすんだ。偽装が施されている。空気遠近法。
私は網代木へと足を踏み入れる。
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