四肢を切断され地中深くに生き埋めにされた少女は悪魔から闇の力を与えられたので再び地上へと舞い戻って好き勝手に生きる

[1] 復活

 右腕、左腕、右脚、左脚――四肢をきっちり根元で切断されてから、深い深い深い穴の中へと放り込まれた上、しっかりたっぷり土を投げ入れられて、つまりは私は生き埋めにされた。

 何か私が悪いことをしたわけではない。『選ばれた』だけである。

 事情はすこぶる簡単で『荒ぶる神の怒りを鎮めるためには年若い少女を生贄にささげる』必要があったらしい。

 実のところ私はその話を理解したが、決して納得はしていなかった。人を生贄にするならもっとそのあたりを完璧に飲み込ませたうえでやるべきだ。

 暗くて冷たく重苦しい地中にて私が最初に考えたのは『どうして私がこんな目にあわないといけないのだろう』という悲嘆で、それは次第に『なんであいつら人のこと犠牲にしてのうのうと生きてんだ殺すぞ』という憎悪に変わっていった。

 その憤怒の感情はわりと長つづきしたのだけれど、それが長つづきしたからこそ『なぜ私は死んでいないのか生き埋めにされたらさっさと死ぬもんでしょ』という疑問が生まれてきた。

 死ぬ前の一瞬が無限に引き延ばされて感じられるというあれかなと思ったのだけれど、そんな体験はないのでいまいち確証が持てないでいたところ、暗闇の中からその声が聞こえてきた。

「私は悪魔よ。あなたに力を与えましょう」

「よろしくお願いします」一も二もなく私はその提案に乗った。

「迷いがない!」自分から誘ってきたくせに自称悪魔は驚いていた。

 ともかくそれを受け入れた瞬間から私の全身、体の隅々、手足の指先までその力がみなぎってきて(訂正、手足なかった)、これはまじのまじでやばいやつだと誰に言われるまでもなくわかった。

 最初にやったのは自分の周りにあった暗闇もろとも土を吹っ飛ばすことで、どーんと大轟音が鳴ったかと思えば視界には青空が広がっていた。

 たったそれだけのことだったのに私にはなんだかその青がひどく懐かしく感じられて、穴の中で寝転がったまま少しだけ泣いた。

「それでどうするの?」そんな私の感傷をぶち壊したのは頭の上から投げかけられた言葉だった。その声音を私は覚えていてさっき語りかけてきた悪魔さんだった。

 視線だけそちらにずらすと褐色肌で長い白髪で少し目つきの悪くて、なによりすらりとしていながら出るとこは出ている肉感的な体つきで、なおかつその妖艶さを最小限にしか隠そうともせず大胆に露出する、そんなセクシーなお姉さんが私を見下ろしていた。

 その光景はなかなか壮観でずっと眺めててもよかったのだけれど、さすがにそうはいかないので私はまず立ち上がることにする。

 与えられた力で何ができて何ができないのかだいたいのところは直感的にわかっていて、私は間に合わせの四肢を再生した。自分の足で再び地面に立って(正確にはそれは自分のではないのだけれど細かい説明は省く)、自分の体を見返してみる。

 一言で言えば貧相で肉付きがよくないけれど、それはまだ私が10をいくつかすぎたぐらいだからで、将来性はあるはずだ。また手足が真っ黒に染まっていたが、それもそれでそういうものだからしょうがないことだった。

「それでどうするの? どうやって人間に復讐するの?」セクシー悪魔さんがにやにや笑いながら問いかけてきた。

「ん?」私にはその質問の意味がうまく受け取れなくて、間の抜けたことにそんな返答しかできなかった。

「ん?」その返答があまりに予想外だったのか悪魔さんも私と同じように面食らっている。

 彼女は腕組みして豊かな胸部を見せつけながらしばらく考えたのち、「もしかして憎しみとかそういうのあんまりない感じ?」と言った。

「正直あんまりない感じですねー」

「まじかー。結構あなたひどい目にあったと思うんだけどあんまり気にしないタイプ?」

「いや当初はばりばり気にしてたんですけど、ずっとそのこと考えてたらどうでもよくなってきました」

「タイミングミスったってことかー。もっと早くにアプローチかければよかったー」悪魔さんは頭をかかえている。

 私は自分が悪いことをしたわけでもないのに申し訳ない気分になった。「あの、がんばって私、復讐とかしましょうか。人間のこと嫌いですし全部殺しますよ」

「無理しなくていいよ。まあまあ時間はかかるかもだけど私の目的はどのみち達成されることだし」

「目的ってなんですか?」

「世界を混乱させること。ちっぽけな人間が身に余る強大な力を得ればどうやっても混沌に傾くでしょ」

「私がこの力でいいことしてもですか、まあするつもりはさらさらないですけど」

「うん。人一人のしょうもない価値観で行う正義なんてどうせろくな結果にいきつかないから大丈夫。好き勝手にやっていいよ。私は私で隣でそれ見て勝手に楽しむからさ」

 そう言って悪魔さんはにっこりと私に笑いかけてきた。それは裏のない純粋な笑みで私は不覚にも胸がきゅんとした。

 こうして私は闇の力を得て地上へと舞い戻りわりと好き勝手に生きることになったのだった。

「ちなみに私ってどのくらい埋められてたんですか、せいぜい3日ぐらい?」

「300年ぐらいかな」

「……え?」

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