第6話ガマ座衛門の世直し

今日はバイト休みなので、いつもの競馬場にやってきた草野さん。今回は珍しく大当たりしているようだ。

「よっしゃーっ!!今日はついているぜ!」

『はぁ〜、こんな馬が走っているのを応援するなんて、これじゃあまだかけっこの方が見ていたほうがオモロいわ・・・。』

一緒についてきたガマ座衛門は、興味無しという様子で退屈な大あくびをしていた。

「よーし、まだまだやるぞ!」

『えぇ〜、もう十分稼いだし帰ろうか。それに大ハズレして、一文無しになるの嫌やろ?』

「何を言うかガマ座衛門、勝負はここからだ!ついている時に勝たなくてどうするんだよ!?ドンドンいくぜー!」

『あーあ、ありゃアカンわ・・・』

そしてガマ座衛門の思った通り、この後草野はハズしまくって五十万円分の馬券を十万円分になるまで大負けしてしまった。

「なんでこうなるんだよ・・・、チキショー!」

『あんた、引き際という言葉を知らないのか?あの時に帰っていたら、後でいろいろ贅沢できたのにな・・・』

「うるさい、オレはあのまま行けばもっと稼げると思ったんだよ!」

『そもそも競馬とか博打の類いは、アタリハズレを楽しむものなのになんで稼ぐという言葉がでるん?人間はホンマにわからんわ〜』

ガマ座衛門はやれやれと首を横にふった。

そして自宅からの最寄り駅から出てきた時、草野に声をかける男がいた。

「将大、元気でやっているか?」

「兄貴、どうしたんだよ?今日は仕事じゃないのか?」

「ほら言っただろ、最近子どもが生まれたって。」

「ああ、育休取ったのか」

将大の兄・草野潤平くさのじゅんぺいは大手コンビニの本社で働いているエリートサラリーマン。二年前に同僚の女性と結婚し、今年の二月に子どもができたばかりだ。

「将大、さては競馬からの帰りだな?」

草野は面倒な表情になった、潤平からのお説教が始まるからだ。

「全く、なんでお前は競馬をやめないんだよ?あんなのただ馬がかけっこしているだけじゃないか、本当につまらないよ。それで金をムダにするなら、毎日仕事で稼いでくることがどれだけ立派なことか・・・」

『お、潤平はん。久しぶりやな』

潤平は中学一年の時にガマ座衛門と出会っている。最初こそおどろいたが、今ではすっかり慣れている。

「ガマ座衛門か、久しぶり。お前からも草野に言ってくれよ・・・」

『いや、何べん言ったってあいつは飲んだくれのぐうたらですわ。最近、やっとアルバイトが続くようになったけど』

「おぉ、どこで働いているんだ?」

『ポーク・ホープという肉屋ですわ、手作りソーセージとかあるようやし、今度草野のおごりで潤平はんに送ってやるわ。』

「なに勝手に約束してんだよ・・・、まぁ子育てがんばれよ」

「お前もおれみたいに、真面目に仕事して家族を持てよ。」

そう言って潤平は去っていった。

「全く生真面目な兄貴だぜ・・・」

『まぁ、あんたを心配して言っているんだろ。あんたが母ちゃんの親戚から蔑まれているの、知ってるし。』

ガマ座衛門が言っているのは本当のことだ、元々草野の母親と父親は、母親が前々から決まっていたお見合いを突っぱねて、父親と駆け落ちしたことで結ばれた。そして生まれたのが潤平と将大、二人は市営団地の一部屋を借りて生活をしていたが、父親が仕事中の交通事故で亡くなってしまい、生活に困った母親は潤平と将大を連れて市営団地を出て、親戚の家の部屋を借りながら生活することになった。

潤平と将大は、親戚から白い目で見られ続けながら育った。駆け落ち相手である父との子どもであることが、よく思われなかった理由だった。

その中で潤平は生活を支えてる母さんを気づかい、大学で学院に入れるチャンスを捨てて大手コンビニ企業の営業に就職した。

「まあ、おれも母ちゃんには感謝してるけどよ・・・、オレはまだこのまま当てもなく生きていたいんだよ。」

「ふーん、まぁお前がどう生きようがワシがあれこれ言う話しじゃないからな・・・」

それから草野とガマ座衛門は家に帰ると遅い昼ごはんを食べて、午後三時を過ぎると再びぶらぶら歩きだした。

適当に子どもたちと遊んでいくか・・・、そう思っていた時だった。

「助けて〜っ!!」

突然、少女の悲鳴が聞こえた。草野は声がする方向へと走っていく。

「ほら、こっちに来いよ〜」

草野が見たのは、少女を三人がかりで乱暴する男子たちだった。

草野はそれを見た瞬間、近くに落ちていた石を拾って三人に向かって投げつけた。

「だれだ!石を投げつけたのはっ!!」

一人が叫ぶと、草野が前に出て名乗り出た。

「おれだよ、草野っていうんだ。」

「あ?クソジジイが何の用事だ?」

「おいおい、オレはまだ三十八だぜ?せめて渋い中年って呼んでくれよ。」

「何だと!?調子に乗ってんじゃねぇぞ!やっちまえ!!」

「アブナイ!!」

少女が叫ぶと同じタイミングで、三人一斉に草野に襲いかかった。

「ガマ座衛門、よろしくな」

『合点承知!』

草野はガマ座衛門を憑依させると、三人を意図も容易く殴り倒した。

『まだ、やるきかい?いつでも来いやぁ・・』

草野は挑発と言わんばかりに、長い舌を口から伸ばした。

「うわぁ、化け物だぁ!」

「妖怪だ!!」

「食われるぞマジで!!」

三人は尻尾を巻いて逃げ出した。

「あ・・・あぁ・・・」

助け出された少女も、青ざめた顔で驚いている。

「お嬢さん、大丈夫かい?」

憑依を解いた草野が声をかけると、少女は「ありがとうございました!」と慌ててお礼を言うと、逃げるように走り去った。

「あ〜、なんか格好がつかないなぁ・・」

『まぁ、それがガマの定めだからね。」

草野はやれやれと頭をかいた。






翌日、アルバイトに出かける草野に間宮さんが声をかけた。

「草野くん、おはよう」

「おはようございます、間宮さん。」

「ちょっと、草野さん。聞いてよ、実は最近団地のゴミ置場が、よく荒らされているのよ。」

「え?カラスの仕業じゃないですか?」

「ちがうのよ、カラスならあそこまで派手に散らかしたりしないわ。絶対に人の仕業よ」

「そういえば、昨日がらの悪い三人を見かけたな・・・」

「きっとそいつらよ、団地の公園でたむろしているの見たって人もいるわ。」

「そうか、気をつけないとな。ほいじゃあ、仕事に行ってきます。」

「行ってらっしゃい!」

そして仕事へ向かう途中、団地にあるゴミ置場を通りかかると、生ゴミやお菓子・冷凍食品の包装が辺りに散乱していた。それを三人が必死に清掃している。

「よぉ、草野!」

「あ、松田さん!」

松田さんこと松田旗夫まつだはたおは、草野の飲み友だちで、年齢は草野より三十年以上歳上だ。

「これは酷いですね・・・」

「だろ?例の不良どもの仕業だよ、全く・・」

松田さんはぶつぶつ文句を言いながら、手を動かしている。

松田さんと別れてポーク・ホープで仕事を始めてからしばらくした午後一時、草野と最近新人で入ったバイト・神田かんださんは店番をしていた。

店番の仕事は会計とフランクフルトの調理だ。夏祭り以降、人気商品となったフランクフルトを店舗販売することになったのだ。値段は一本二百円、子どもや若者に人気がある。

近くにいると焼けたフランクフルトの、肉々しい匂いが鼻に流れてくる。するとドアが乱暴に開いて、男子高校生らしき若者が四人入ってきた。

「なんか感じ悪いな・・・おや?」

草野はあることに気づいた、四人の内の一人に見覚えがある。

「お、フランクフルト焼いてる。」

「美味そうだな、一本くれよ」

若者がフランクフルトに手を伸ばすと、神田がとっさに注意した。

「すみません、先にお代を払ってください。」

「あ?別に食ってからでいいだろ?」

若者たちが一斉に睨んだ、神田はすっかり怯んでいる。

「おいおい、お前らなにやってんだぁ?会計もせずに売り物食っちゃってさ、まぁちゃんとお代払ったら見逃してやるよ。」

草野は静かに怒りながら前に出た。

「なんだと・・・!」

「あっ!お前、昨日の!!」

「おっ!よく見たらお前、昨日見た奴じゃないか!あの二人は一緒じゃないのか?」

「何を、やる気か!?」

すると騒ぎを聞きつけた二戸部さんが、奥の部屋から慌てて飛び出してきた。

「一体、どうしましたか?」

「あっ、お前店長か?」

「はい、そうですが・・・?」

「聞いてくださいよ、フランクフルトを買おうとしたら『お前らは帰れ!!』ってこの草野が言ってくるんです!!」

「おいおい!!何を言いがかりつけているんだ?お前らが先にフランクフルトを、会計しないで食べたんじゃないか!」

もめる草野と男子高校生たち、二戸部さんは冷静にこう言った。

「わかった、それなら防犯カメラを見てみよう。それで本当のことが解るはずだ。」

二戸部さんは店の中に一つだけ設置されている防犯カメラを指差した。

「えっ・・・、カメラって・・・!?」

「まずいぞ・・・」

「どうしよう・・・」

「逃げるぞ・・・!」

四人の男子高校生たちは、突然一目散に逃げ出した。

「おいっ!待て!!」

「追いかけなくていい、どっちが悪いかハッキリしたよ。」

二戸部さんが草野を引き止めた。

「すいませんでした、怒鳴ってしまって・・」

「いいよ、それにしてもあいつらどうにかならないかな・・・?」

「二戸部さんもご存知でしたか・・」

「娘も見かけたと言っていたよ、あれは公立南高校の生徒だね。」

「わかるのか?」

「ああ、生徒たちがウチのフランクフルトをよく買いに来るからね、制服でわかったよ。あと私と弟がここの出身だから」

そして数時間後、仕事が終わった草野はガマ座衛門に言った。

「おれ、あいつらをどうにかすることに決めたよ。」

『やるのか?本気で?』

「もちろん、イタズラか何だか知らないけど、オレはああいう群れているだけで横柄になっている連中が一番嫌いなんだ・・・。あの時もそうだった・・・」

『昔のことか、母親が親戚の家を追われた時の・・・?』

それは草野が小学六年の時、中学に上がる三ヶ月前だ。

駆け落ちで親戚から遠巻きに避けられた母親と潤平と将大、そんな三人を暖かく出迎えて居候させてくれたのが柳澤やなぎさわさんだった。

柳澤さんは妻に先立たれ一人で暮らしていた、持ち家住まいで寂しく暮らしいたので母親と潤平と将大を歓迎してくれた。

しかし柳澤さんは、突然心筋梗塞で亡くなってしまった・・・。

でも柳澤さんは亡くなる前のことを考え遺言書を残していた。それは亡くなったら、自分の持ち家の名義を母親の名前に変更することだった。これで母親と潤平と将大は、この家に住み続けられるはずだった・・・。

しかし、柳澤さんの葬式が終わった後、柳澤さんが残した遺書が無くなっていたのだ。さらに柳澤さんの家は、親戚たちの手によって取り壊され売却されることになってしまったのだ・・・。

「あの時、親戚のジジイが『不埒者は出ていけ』って言いやがって、そいつの顔を殴ったことがあったなぁ・・・」

『わても知ってるで、あんたが母さんのためにキレたのこれが始めてやわ』

「それはいいだろ・・・!それよりも、あいつらをどうにかしないと・・・」

『どないすんねん?待ち伏せするか、それとも化かしてギャフンと言わせるか?』

ガマ座衛門と相談しながら歩いていると、公園の団地で田所・亜野・笠松の三人を見かけた。三人とも何か悩んでいる表情だった。

「よぉ、仲良しトリオ!一体、どうしたんだ?」

「あ、草野さん。実は学校の池にゴミが投げ捨てられていたんだよ。」

「えっ!?あの池にか!?」

確かそこにはイモリ屋丞が住み着いているはずだ。

「それで今朝、全クラスで緊急ホームルームになって、先生全員が犯人捜しをしたんだよ」

「やった人は正直に名乗りでなさいって、オレたちじゃないのに・・・」

三人は疑われたことに不快な表情を浮かべた。

「しかも、先週にもあったんだよ。」

「今日は水曜か・・・、ゴミが見つかったのは何時だ?」

「今朝の午前七時十五分、体育の先生が池を通りかかった時に見たって。」

「そういえば、先週の時も水曜日だったよ。」

笠松が言った、すると草野の頭にあることが浮かんだ。

「教えてくれてありがとう、そいつらおれがコテンパンにやっつけてやるよ!」

呆気にとられる三人を残して、草野とガマ座衛門は家に帰っていった。








そして来週の水曜日、早朝の午前六時。

草野は学校から一番近くにあるゴミ置場の近くにある電柱に身を隠していた。

『草野はん、なんでゴミ置場なんか見張っているんだ?犯人をつかまえるんじゃないんか?』

「いいか?毎週水曜日はおれたちの住んでいる地区じゃ、燃えるゴミの回収日になっている。収集車が来るのは午前九時を過ぎてからだ、つまり収集車が来る直前の午前七時から八時の間に連中の誰かがここからゴミを持っていって、どこかでばら蒔くはずだ。」

『なるほど、頭ええな。だけど犯人は家からゴミを持ってくるとも考えられるし・・』

「それはない、一般の家庭なら一週間置いといたところでゴミはそんなにたまらないからな。」

草野が身を隠してから三十分後、一人の高校生がゴミ置場にやってきた。メガネをかけて顔にはそばかすがついた男子だ。

男子はゴミ置場から、ゴミがパンパンに入ったゴミ袋を取って歩きだした。

「あっ、あいつゴミ持っていったぞ!」

『でも、前回の奴らじゃないな。なんか地味な奴やな』

「ああ、学校のクラスに一人はいるよ。ああいうのがな」

草野とガマ座衛門は、男子を尾行して様子をうかがった。

そして男子は小学校を通りかかったところで歩みを止め、辺りをキョロキョロ見回した。

「よし、行くぞ!」

『合点承知!』

草野とガマ座衛門は男子のところへと向かった、男子はいきなり現れた草野に驚いた。

「お前、ここで何をしているんだ?」

「うわぁ、あんた誰だよ・・!」

「おれは草野というんだ、そう言うお前は誰だ?」

「ぼ・・、ぼくは門沢春生かどざわはるおといいます・・・。」

門沢はモジモジしながら言った。

「そうか、改めて聞くが何をしているんだ?」

「えっ、ああ!母さんからゴミ出しを頼まれて、登校のついでに出しに行くところなんです。」

「ウソをつくな!これはゴミ置場から持ってきた物だろ!?」

「も・・、もしかして、見てたの・・?」

「そりゃもちろんだ、最近この当たりでゴミがばら蒔かれたり、ゴミ置場が散らかされるイタズラがあってな、おれはその犯人を捜しにきたんだ。」

すると門沢は突然ひざから崩れ落ちた、そして泣きながら草野に言った。

「ごめんなさい、ぼくはウソをつきました。このゴミは家から持ってきたものではありません、ゴミ置場から持ってきたんです。本当にごめんなさい・・・」

目に涙をにじませて頭を下げる門沢、草野はいたたまれなくなって彼に言った。

「おまえ、あの四人と知り合いか?お前がこんなことをするの初めてだろ?」

「はい・・・、やれと命令したのは長谷部です。」

するとすぐ近くからギャーという叫び声が聞こえた。草野と門沢が角を曲がると、ガマ座衛門が長い舌で男子高校生を捕らえていた。草野は男子高校生に見覚えがあった、ポーク・ホープで無銭飲食未遂をしたあの若者だった。

「うわぁ!!お化けガエルだ!!」

「大丈夫だ、あいつはおれの知り合いだ。おいガマ座衛門、一体どうしたんだ?」

ガマ座衛門は男子高校生を舌から離すと、草野に言った。

『おう、こいつがな草野と門沢のことジロジロ見てたから、捕まえて何してたか話を聞こうおもうていたんや。』

「お前は確か・・・?』

「あっ、長谷部先輩!」

「いてて・・・、何だよこのガマガエルは?」

『わしゃ、ガマ座衛門や。あんた、ここで何していたんだ?』

「関係ねえだろ、このガマガエル!!」

長谷部はガマ座衛門に唾を飛ばして走り去っていった。

しかしガマ座衛門は舌を長く伸ばして、長谷部を再び捕らえた。

「うわーっ、助けてくれーっ!」

「助けてほしかったら、なぜ門沢を見ていたのか理由を話せ。話さないとお前はガマ座衛門に食われてしまうかもしれないぜ?」

「わかった、話すよ!だから助けてくれ!」

草野はガマ座衛門に長谷部を離すように言った、長い舌から解放された長谷部は理由を話した。

「おれはただ門沢が、ミッションをちゃんとやるか見張っていただけなんだよ・・・」

「ほぉ、ゴミ置場のゴミを小学校の池へ投げ捨てるのがミッションだと・・・?」

草野がにらむと、長谷部は震えだした。

「いえ、本当は悪ふざけなんです!本当はみんな木野が言い出したことで!」

「木野というのが、お前らのリーダーということか?」

「あれ・・・?そういえば、草野さんをどこかで見たような・・・」

「あぁ、あん時だな。ポーク・ホープでな、おれあそこでアルバイトしてんだ」

「ああ、あん時の!!本当にごめんなさい!」

長谷部は改めて頭を下げた。

「いいよ、そのことは。だけどあんたらがしているのはみんなの迷惑だ、なんとしてでも止めさせてやる」

「おれは、ただみんなと一緒に」

そこまで長谷部が言うと、ガマ座衛門が舌で長谷部をビンタした。

「ガマ座衛門!!」

『あんた、さっきから何をぐだぐだ言うてんねん!!みんながやっていたら、あんたは悪ないって、ほんまにそう思うてんのか!?悪いことやったなら、そいつら全員が悪いんじゃ!あんた、そんなこともわからんのか!』

「ひぃっ、ごめんなさい!ごめんなさい!」

ガマ座衛門が説教しているのを見て、草野は唖然とした。

『ワシが言いたいのはここまでじゃ、ここからは草野に任せる。』

「ああ・・・。それで木野というのは、何者なんだ?」

木野正乃助きのまさのすけといって、三年の先輩です。」

「なるほど、そいつがこの事件の黒幕か・・。それで、どんな不良だ?」

「いえ、不良というか普通の生徒です。しかも頭がとても良くてリーダーシップがあります。」

「なんだ、悪知恵が働くタイプか。そいつは中々厄介だな。」

「そうです、おれたちは木野に弱みを握られていて逆らえないんです。」

「弱みか・・・、それはなんだ?」

「内申書の点数です」

「は?それがどう弱みになるんだよ?」

草野が怪訝な顔でたずねると、長谷部は恥ずかしそうに言った。

「実はおれ、通いたい学校があるんだけど部活に集中しすぎて、勉強があまりできてないんだ。それで内申点が低くて、このままだとその高校に入れないんだよ・・。」

さらに長谷部はシングルマザーの家庭のようで、塾に入るほどの金の余裕がないことを草野に話した。

草野は長谷部が少しかわいそうになった。

「わかった、木野はおれがどうにかしてやる。だからまずは門沢に謝れ、そしてあいつらと縁を切るんだ。いいな?」

草野は厳しくも力強い声で、長谷部の肩に手をおきながら言った。

「門沢、おれが悪かった。申し訳ございませんでした!」

長谷部は門沢に土下座した。

「門沢、まずはこれで堪忍してくれ。もしまた長谷部がやらかしたら、おれが長谷部をぶん殴ってやる」

草野も門沢に頭を下げた。

「いいんですよ、謝ってくれたら・・」

そして門沢と長谷部は学校へと向かっていった。

「しかし、ガマ座衛門も親父みたいなとこあるなぁ。」

『なんや、あの説教のことか。わしもあいつらのことが、ちと許せんなと思うてな・・』

そっぽを向きながら呟くガマ座衛門に、草野は肘で「このこの〜」とガマ座衛門を小突くのだった。






翌日、草野がバイトに行こうとすると間宮さんが声をかけてきた。

「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

「どうしたんですか?」

「実は昨日、とある男の子に声をかけられたの。草野さんの知り合いで、家を知らないかって」

「そんな男の子知らないぞ?そいつだれだ?」

「木野下って言っていた。男の子といっても年は上の方で、高校生だったわ。」

「家の場所、教えたの?」

「ううん、あたしがあなたを呼ぼうかと言ったら、結構ですと言って去っていったわ。」

「そうか、ありがとよ。じゃあ、仕事行ってくるわ」

間宮と別れた草野は、考え込んだ顔で歩いていた。

「あいつら、嗅ぎ回っているな・・・。こりゃ、先手を打ってやっつけるしかない。」

『なるほどなぁ、してどないすんねん?』

「果たし状を書いて、門沢か長谷部に『これを奴らに渡せ』って言って渡してもらうのはどうだ?」

『果たし状って、武士の時代じゃあるまいしそんなんアカン。そうや、草野!ベースダーって知っているか?』

草野は頷いた。ベースダーはこの近所にあるゲームセンターだが、今は潰れてしまい新しいテナントが来ないまま放置されている。

「あの廃墟がどうしたんだ?」

『門沢か長谷部に、「新しいゲームセンターが出来た。○日にオープンするらしい」って木野たちに話してもらうんだ。そんであいつらを誘い出すんだ』

「そんでどないするんだ?」

『ワシの幻術で、あいつらにゲームをしてもらう。 そんでわざとクリアできないゲームやらせて、痛い目に合わせてやるんねん!』

「あっ!なんならオレが果たし状出してやるよ、オレと木野たちでゲームで勝負と言ってな!」

『結局、そうなるんかーい!』

ガマ座衛門はずっこけながらつっこんだ。








そして今週末、草野はベースダーの前で木野たちがやってくるのを待っていた。

ベースダーは廃墟のままだが、ガマ座衛門の術によって草野と木野たちだけに幻が見えるようになっている。

そして南高校の門前で長谷部の姿を見つけた草野は「木野に渡してくれ」と果たし状を渡してお願いした。

草野が三十分待っていると眼鏡をかけた少年と、見覚えのある例の三人がやってきた。

「木野さん、あいつが草野です!」

三人のうちの一人が言うと、草野は名乗った。

「そうだ、オレがここじゃあ知る人ぞ知る草野将大だ!」

「仲間から話は聞いているよ、ずいぶんと可愛がってくれたそうだね・・・」

「可愛がってくれただと?あれのどこが可愛いんだよ!みんなに迷惑かけてよ〜」

「まぁ、いい。今日は『スチールアドベンチャー』でゲーム対決をするんだよな?それでオレたちが勝ったら、金を置いていくんだよな?」

「ああ、上等だよ。そうしないとゲームは面白くないからな・・・。」

本当は二千円弱くらいしか金を持ってない草野、もちろんこれは本当の勝負を建前としたお仕置きだと理解しているからだ。

「ここにある三種類のゲームで勝負だ、先に二勝した方の勝ちでいいな?」

「いいぜ、それじゃあ負けたらオレたちに土下座して金を払って貰おうじゃねぇか。」

「そうだ!今までの落とし前も兼ねて、高額な請求してやろうぜ!」

「じゃあ、十万円がいいな。」

「そんなの勝負の後でいくらでも吹っ掛けてやればいい、とにかく始めるぞ。」

そして草野と木野たちはスチールアドベンチャーの中へ入っていった。

「勝負するのはあのゲームだ」

それはスポーツカーのレーシングアーケードゲームだ、草野はここが運営していた頃に田所たちとここでよくゲームで遊んでいたため、腕前はかなりのものだ。

「よし、それじゃあまずお前らの中で誰が行くか決めろ」

「よし、オレだ!」

まずは短髪の男子が相手だ、名前は住江清すみえきよしという。二人はマシンの中に入っていった。

3・2・1、レディーゴー!

出だしは互角だった、しかし草野が追い上げていく。

「くそっ、こいつ速いぞ・・・!」

「よし、このまま行くぜ!」

ところが草野が張り切ったとたん、草野の脇腹に何かが命中した。

「痛いっ・・・!」

草野は痛みに耐えかねるあまり、コントロールが止まってしまった。

その僅かな差に住江は草野を追いこしてゴールインした。

「やった!!おれの勝ちだ!!」

草野は喜ぶ三人に文句を言おうとしたが、ガマ座衛門が草野を止めた。

『草野はん、手ぇ出すのはあきまへん』

「何でだよ?さっきの、あきらかに向こうの妨害じゃねぇか!」

『ワシに考えがあります、言うこと聞きなはれ。』

ガマ座衛門は草野に何か言うと、草野はガマ座衛門の話しに乗っかることにした。

「よし、それじゃあ次のゲームをしよう。次はあれだ!」

草野が指差したのは、クレーンゲームだ。

「クレーンゲームか・・・」

三人はやったことがないのか、難しそうな顔をした。

「先に景品を手に入れた方が勝ちだ!そっちはだれが行くんだ?」

「よし、オレが行く!」

木野が名乗り出た。

「ハンデだ、先に三回連続でやっていいぜ?」

木野は得意気に草野に言った。

「なめやがって・・・、見てろよ!」

草野はマシンに百円硬貨三枚を入れて挑戦した、しかし景品に狙いを定められてもアームが景品を上手くつかめずに落ちてしまう。

結局、そのパターンが三回続いて草野のターンは終了した。

「次はオレだ!」

草野は木野が失敗するように心の中で祈っていたが・・・、木野はアームを上手く操って箱をつかむと、そのまま取り出し口の方へと落としていった。

草野はその光景に愕然とした。

「やった!!ゲットしたぞ!」

「さすが木野さん!」

「うあぁーーっ!負けたーーっ!」

草野が床を叩いて悔しがっていると、ガマ座衛門の声が聞こえた。

『心配ないねん、むしろこれでええ。』

どういうことだと草野が首をかしげるなか、木野たちは箱の中身が気になるなと話していた。

「なぁ、この箱の中開けようぜ!」

「ああ、何が入っているのか気になるしな」

「お菓子かな、それともフィギュアかな?」

三人がワクワクしながら箱を開けると、中から出てきたのは幽霊や巨大なクモやムカデ、さらに鬼と落武者も出てきた。

「ウギャーーーッ!!」

三人は同時に悲鳴を上げ、出口へ向かって走り出した。しかし出口のドアは開かず、三人はさらにパニックになった。

「こういうことか・・・、まるで舌切りスズメだな。」

『おい、草野。早く行くぞ!』

ガマ座衛門に言われて草野が歩き出すと、木野が叫んだ。

「おーい、助けてくれ!!お前のガマガエルでやっつけてくれ!」

「悪いな、その恐ろしいものを生み出したのは、そのガマガエルなんだ。お前たちはガマガエルの怒りを買ったんだよ。」

それだけ言い残して草野は去っていった、そしてスチールアドベンチャーの中から三人の悲鳴が響きわたるのだった・・・。
















































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