第4話ぼくたちの夏祭り

夏祭りの日が近くなった。

近所のイベントには全く興味がないぼくでも、この日だけは本当に楽しみだ。ぼくだけではなく、この近所の子どもたちも楽しみにしている。

「田所、もう夏祭りまで一週間を切ったな。」

「うん、そうだね」

「うちも大忙しだよ、夏祭りに向けて買い出しや仕込みで忙しいよ。」

家が焼きそば屋の笠松くんが言った、笠松君の家では夏祭りに屋台を出す予定だ。

「お前んちの焼きそば旨いよな、夏祭りだけ味わえる最高の焼きそばだぜ。」

「ほめてくれるのは嬉しいけど、家に来たら必ず食べられるから来てほしいな。」

「そういえば、夏祭りに八神くんを誘おうと思うけどいい?」

「当たり前だろ?今さらそんなこと言うなよ田所〜!」

「あれから八神くん、すっかり変わったね。表情も明るくなったし。」

「ああ、少しずつだけどクラスとも打ち解けて来た気がするんだ。転校したての時は、大人しくてなんか声をかけにくかったところがあるけど、それがすっかりなくなった感じ。」

「うん、やっぱり勉強漬けから解放されたからだね。」

「あれから八神の親父、どうしているかな?また八神くんに酷いことをしていなければいいけど・・・」

「それなら大丈夫、八神くんに聞いたら相変わらずだけど、おびえずに言い返したら思いの外黙って何も言わなくなったって。」

「八神くん、本当に変わったね。」

ぼくたちは明るくなった八神くんに、心から安心していた。

「そういえば、夏祭りの屋台にはポーク・ホープも出るんだろ?」

「うん、草野さん最近その準備で忙しいみたい。だからあまり遊べないって、言っていたよ。」

「まあ、仕方ないよな。しばらくは三人で遊ぼうぜ。」

そしてぼくたち三人は、他愛の無い会話を続けた。









翌日、草野はポーク・ホープでフランクフルト作りをしていた。

「草野、腸の塩抜きやってくれ!」

「はい、わかりました。」

フランクフルトに必要な豚の腸は塩漬けになっているので、水につけて塩を抜かなければならない。

「それが終わったら材料の下ごしらえを頼むぞ!」

「了解しました!」

ポーク・ホープの厨房では、匠馬と草野がフランクフルト作りをしていた。

夏祭りの屋台で出すフランクフルト・二百人前を作るために、終始厨房の中でせわしなく動いていた。

「おい、詰めるお肉は用意できたか?」

「それがまだ・・・」

「早くして!当日まで、時間が無いんだ!」

二人でこれだけのフランクフルトを作るのは大変な作業だ、兄の作雄の手も借りたいがお店を任せているため、そうはいかない。

「匠馬さん、肉用意できました!」

「報告はいいから持ってきて!時間が無いんだ!」

「ハーヒーッ、こりゃ大変だ!」

そして二人は閉店の時間までフランクフルト作りに務め、そして二百人前のフランクフルトを完成させた。

「ふーっ、終った・・・」

「よくやった草野、お前のおかげでなんとか出来たよ。」

「二人ともお疲れ様。」

作雄が気にかけるように言った。

「ふーっ、骨の折れる仕事だったぜ・・・。」

「これで夏祭りは問題なく出店できるな。」

「パパ、おじさん、草野さん!フランクフルトできたの?」

詩織が声をかけてきた。

「ああ、そうだよ。これで夏祭りには問題なく出店できる。」

「やった!楽しみだね!」

「ふぅ、これで新メニュー作りができるな。それじゃあ、おれはこれで失礼します。」

「おう、お疲れ!」

そして草野は自宅へと帰っていった。

「お父さん、新メニューってなんの話?」

「草野さんが屋台で出す新しいメニューを考えてくれたんだ。」

「正直、夏祭りの屋台でこれを出すのはピンときませんが、味は悪くないので出してみることにしたんだよな。」

「それ、なんなの?教えて!」

「それは夏祭りまでのお楽しみ!」

「えーっ、私にだけ教えてよ!」

「うーん、じゃあヒントを教えてあげる。スープだよ、それじゃあね。」

そして新渡戸兄弟は、夕食を作り始めた。








夏祭りまで後三日、ぼくと亜野くんは団地の公園で野球をしていた。

「そういえば、笠松くん来ないね。」

「そうだな、家の手伝いがいそがしいんじゃない?」

「そっか、そりゃ仕方ないよね。」

すると笠松くんがやってきた、しかし彼は元気がなく落ち込んでいる。

「笠松くん、どうしたの・・・?」

「田所・・・どうしよう〜、このままじゃ家は屋台だせなくなってしまうよ〜」

「なんだって!!?」

ぼくと亜野くんはとてもおどろいた。

「なんだよ、お前の家の焼きそば楽しみにしていたのに〜。何かトラブルがあったのか?」

「もしかして、親が病気とか!?」

「両親は大丈夫だよ、問題は鉄板だ・・」

「鉄板って、焼きそばを作るときに使うあれか?」

「うん、正確には鉄板の下のガスバーナーが故障して、鉄板が熱くならなくなってしまったんだ。修理はできるけど、夏祭りまでに間に合わないみたいだし。これじゃあ焼きそばを作ることができないよ・・・」

「うわぁ、それは困ったな・・・。」

「なんとかしたいけど、ガスバーナーの修理はできないよ〜」

夏祭りに焼きそばは欠かせない料理、それが食べられないのはとても残念だ・・・。

「うーん、家に鉄板があればいいんだけどなぁ・・・あっ!?」

突然、ぼくはひらめいた。

「ねぇ、家にホットプレートがあるけど使えないかな?」

「ホットプレートか・・・、それいいな!」

「そっか、その手があったか!!さすが田所だぜ!」

「お母さんに貸してもらえないか聞いてくるね!」

そしてぼくは自分の家に帰って、お母さんに訪ねた。

「ねぇ、家のホットプレートを使ってもいい?」

「いいけど、何に使うの?」

「笠松くん家に貸してあげるんだよ、鉄板が壊れちゃってこのままじゃ焼きそばが食べられないんだ。」

「それは大変ね、役に立つなら貸してあげて。」

「ありがとう、母さん!」

そしてぼくは再び団地の公園にやってきた。

「あれ?笠松くんは?」

「親にアイデアを説明するって、家に戻ったよ。それよりホットプレートはどうだった?」

「うん、借りられたよ」

それから五分後、笠松くんが戻ってきた。

「笠松、どうだった?」

「両親に話したら、いいアイデアだとほめてくれた。だけどそうすると、ホットプレートを三つ確保しないといけないって言われて、おじいちゃんが借りられるところさがしているって。」

「そうか、ぼくは親から貸してもいいって言われたよ」

「そうか、ありがとう!これで一つ確保できたな。」

これでとにかくあの焼きそばが食べられるようになれば、ぼくはそれでいい・・・。

しかし夏祭りまで後一日になっても、笠松くんはホットプレートを三つ確保できていなかった。

「おじいちゃんが知り合いに電話をかけて頼んでみたけど、結局一つも借りられなかったよ・・。」

「おれも協力できたらよかったけど、家にホットプレート無いもんな・・・」

「うーん、どうしよう・・・」

ぼくたちはぼくたち以外に知り合いはあまりいない、昨日水澤さんにも声を協力を頼んでみたが、「家の中をさがしてみたけど、もう親が捨てちゃったみたい。」と申し訳ない返事が来た。

ぼくたちが頭を抱えていると、草野さんが声をかけてきた。

「よお、やけに落ち込んでどうしたんだ?」

「草野さん、ホットプレート持ってる?」

「はぁ?ホットプレートってなんのことだ?」

「実は笠松くんの家の鉄板が壊れて、焼きそばが作れなくなってしまったんです。そこでホットプレートを代わりに使おうということになって、ぼくの家のは借りられたんだけど、後二つ必要だって言われて借りる当てがなくて、困っていたんです。」

「そういうことか。あいにくおれんちにはホットプレートは無いし・・、あっ、そうだ!」

すると草野さんは、ガマ座衛門を呼び出した。

『どうしたんだ草野?』

「なあ、お前の術で石とか岩を熱くすることができるだろ?」

『それを使うのか、わしは別にいいが何に使うんだ?』

「笠松の家の鉄板が壊れちまって、焼きそばが焼けなくなってしまったんだ。だからお前の術で石を暖めて熱くすれば、焼きそばがやけるようになる!」

「ねぇ、ちなみになんだけどそれってどうやるの?」

「石にガマの油を塗って、念じれば熱くなる。」

「ガマの油塗るの・・・?おえーっ」

笠松くんが吐くジェスチャーをした。

「な、なんだその反応は!?別に気持ち悪くないだろ?」

「さすがにガマの油を塗った岩で焼いた焼きそばは食べる気無いな・・・。」

「おれもそう思う、やっぱり焼きそばは鉄板で焼いたのが美味いんだよな〜」

「草野さん、熱々の石の上で焼きそば作っているところ想像してみてよ。」

田所に言われて草野は想像してみた。

「確かに、ピンとこないな・・・」

草野はこの提案を引っ込めることにした。

「草野さん、鉄板持っている知り合い知らない?」

「鉄板か・・・、なら丸井屋のご主人だな。」

「知ってる、駅前にあるお好み焼きのお店だ!」

「よし、そこへ行ってい鉄板を借りよう!」

ぼくたちと草野さんは丸井屋に向かった。丸井屋は駅の近くにあるお好み焼き屋である。

店内に入ると、ハチマキをしたおじいさんが威勢のいい声で言った。

「へい、らっしゃい!ご注文は?」

「あの、実は注文しに来たんじゃないんです。」

「へ?それじゃあ、何の用事だ?」

「実はおやっさんにお願いがあって、実は笠松屋の鉄板が・・・」

草野さんが説明する間もなく、丸井屋のおじさんは言った。

「ああ、鉄板を貸してくれってやつか。それなら丁重にお断りしといたぜ。」

「えっ?おやっさん、知っていたのか?」

「ああ、一昨日笠松屋から電話があって知ったよ。鉄板が使えなくなったのは手痛いが、生憎こちらも鉄板は大事な商売道具だ。店をたたむまで手放す気も誰かに貸す気もねえよ。」

「でもおやっさん、笠松くんが店に来てお願いしているんだぜ?お情けしてもいいんじゃないか?

「もういいよ。おじさんの言うとおりだ、こんなお願いしてごめんなさい。」

笠松くんが丸井屋のおじさんに謝った。

「まあ、気落ちするな。また来年に屋台を出せばいいからさ!」

丸井屋のおじさんになぐさめられて、ぼくたちは丸井屋を後にした。

「弱ったな・・・、あそこ以外に鉄板かホットプレートを持っていそうなとこ知らないんだよな・・・」

草野は頭をかいて困っている。

「そういえば、ポーク・ホープはどうかな?」

「ポーク・ホープか、うーん・・・ダメ元で行くか?」

「うん、これでダメだったらあきらめるよ。」

そしてぼくたちと草野さんは、ポーク・ホープへと向かった。お店はお休みで、二戸部さんの弟・匠馬たくまさんが店の掃除をしていた。

「こんにちわ。」

「よお、今日はバイトお休みだけど、どうしたんだ?」

「実は頼みがあるんだ、笠松君の家の鉄板が壊れてしまって、屋台が出せなくなってしまったんだ。そこで鉄板がホットプレートがあればいいんだけど、貸してもらえないか?」

「うーん、兄さんに相談してみる。」

「えっ、いいのか?」

「まだいいと決まってないけど、屋台では網焼きでフランクフルトを焼くから、大丈夫な話だ。」

そして匠馬さんはスマホで兄に相談した。そして通話を終えると、ぼくたちに言った。

「許可が出たから、持ってくる」

「やったーっ!!ありがとうございます、二戸部さん!!」

「こちらこそ、姪っ子がお世話になったからそのお礼だよ。」

そして匠馬さんは、ホットプレートを持ってきた。

「ありがとうございます!」

「いい焼きそば、焼いてくれよ。」

その時、詩織さんと八神くんがポーク・ホープにやってきた。

「あれ?あたしの家のホットプレートだ、どうして持っているの?」

「ああ、実は笠松くん家の鉄板が故障して屋台が出せなくなってしまったんだ・・・。」

「えっ!?そんな〜、焼きそば楽しみにしていたのに・・・」

「そこでホットプレートを借りて、なんとか屋台ができるようにしようと言うわけなんだ。」

「これで二つ借りられたね、でも後一つはどうしよう・・・?」

「あの・・・、ぼくの家にホットプレートありますよ。」

「えっ!?本当か八神くん!?」

笠松が八神に聞いた。

「うん、お母さんに聞けば貸してくれると思う。」

「やったーっ!!これで三つそろった!!ありがとう、本当にありがとう!!」

笠松くんは嬉しくなって、泣きながら八神くんを抱きしめた。

「これで美味しい焼きそばが食べられるな。笠松、ホットプレートを貸してくれた人たちには、ちゃんとお礼しなきゃだめだぞ。」

「うん、みんなに美味しい焼きそば食べさせてあげるからね!」

これで一件落着、ぼくはホッと胸をなでおろした。










そしていよいよ夏祭り当日がやってきた、この日は亜野くんとは夏祭りの会場である神社だけでしか会わないと約束している。

「明日は、夏祭りを思いっきり楽しみたいんだ!だからお前とは、神社でしか会わないということでいいな?」

昨日、亜野くんに提案された。

ぼくは亜野くんとの約束を守り、昼間は夏休みの宿題をしながら過ごした。

そして午後五時三十分、夏祭りの始まる時間となった。

「それじゃあ、母さん。行ってくるね!」

「気をつけて行くのよ!後でお父さんも合流するから、帰るときは一緒にだよ!」

母さんに念押しされてぼくは家を出た。

亜野くんと団地の公園で合流し、神社へ向かって歩きだす。笠松くんは屋台のお手伝いで、一足先に神社に到着している。

「今年の夏祭り、楽しみだね。」

「ああ、笠松の焼きそばもそうだけど、草野さんのフランクフルトも楽しみだよな!」

「おれ、今年こそは射的で景品を手に入れるぞ!」

「ああ、それ町会でやってるやつね。あれ、かなり難しいよ?」

ぼくもチャレンジしてみたことがあるのだが、去年の夏祭りの射的で、欲しい景品のために夏祭りのお小遣いをほとんど使ってしまった苦い思い出がある。

「おーい、二人とも!」

「あっ、水澤さん!!」

水澤さんが浴衣姿でやってきた、水色の生地に紫とピンクの朝顔の柄が綺麗につけられ、涼しげな印象を感じた。

「今日は笠松くんいないんだね。」

「ああ、彼とは夏祭りで会う約束しているから。」

「ということは、焼きそば食べにいくんだね?」

「もちろんさ」

そしてぼくと亜野くんと水澤さんは、神社へ向かって歩きだした。

神社につくとそこはすでに祭りだった。

ふだんは物静かで人気なんて全くないこの神社が、夏祭りになると屋台や盆踊りの音楽で一気に派手になるのだ。

「うわぁ、今年もすごいわね・・・」

「早速笠松くんを探そう、えーっと屋台は確か・・・」

ぼくと亜野くんと水澤さんは、笠松くんの屋台を探して歩き回った。

「おーい、こっちだよ〜」

「あっ、笠松くんだ!!」

笠松くんの家の屋台では、ぼくと二戸部さんと八神くんが貸してくれたホットプレートで焼きそばを作っていた。

「みんな、来てくれてありがとう。」

「おう、田所くん!ホットプレート貸してくれて助かった、お礼に焼きそば一つおごりにしてやるよ!」

「えっ!?いいんですか?」

「ああ、しっかり食べてくれよ!」

「おじさん、おれの焼きそばもおごってよ!」

「ああ?お前はちゃんと金払わないとダメ〜」

「ちえっ、あの時ホットプレートを貸すことができたらよかったのに・・・」

そしてぼくたちは、焼きそばを買うとと神社の石段に腰かけて、焼きそばを食べ始めた。

「チュルチュル〜・・・・、すごく美味しい!」

「ええ、ソースがとてもスパイシーで食欲をそそる!」

「こりゃいくらでもいけるぜ、これは日本一美味い焼きそばだ!!」

ソースの香ばしさと、細くももちもちとした食感の麺が、よく絡んで美味しい。お母さんが作ったのよりも美味しい焼きそばだ。

「そういえば、今年から焼きそばサンドも売っているんだ。」

「えっ!?マジで!!そっちも食べたい!!」

「ちょっと、また焼きそば食べるの?」

「うん、それと母ちゃんと妹にお土産!」

亜野くんは母と妹と暮らしている、父は離婚していないって言っていた。

「そっか、それじゃあ屋台に行こう!」

亜野くんと笠松くんが屋台に向かったのと入れ違いに、詩織さんと八神くんがやってきた。

「こんばんわ」

「あっ、八神くんと詩織さん。二人も来たの?」

「うん、さっき屋台で焼きそば貰ってきたところだよ。お金払おうとしたら、ホットプレートのお礼にタダで貰えたんだ。」

「よかったね、その焼きそばとても美味しいよ。」

「うん、家のフランクフルトも美味しいよ!もう食べた?」

「この後食べる予定だよ、屋台どこ?」

「鳥居の近くの左手あるよ、必ず食べに来てね。」

「うん、わかったよ」

そしてぼくと亜野くんと水澤さんは、焼きそばを食べ終えると、ポーク・ホープへ向かった。

「うわぁ、あれ見て!」

驚く水澤さんが指差す方を見ると、長蛇の列が並んでいる屋台を見つけた。屋台ののれんには『フランクフルト』と大きな文字が書かれている。屋台のすぐ近くでは、草野さんが「特製の手作りフランクフルトはいかがですか〜」と叫んでいる。

「これ、絶対にポーク・ホープだよ!」

「すげぇ人気だなぁ、早く並ばないと売り切れてしまうぜ」

「そうだね、並ぼう」

ぼくと亜野くんと水澤さんは、列に並んだ。そして待つこと三十分後、残り三人というところで不運が起きた。

「みなさん、大変申し訳ございませんがここで完売でございます!」

「ええっ!?」

「ひょえーっ!すごく残念・・・」

「あーあ、せっかく食べられるのを楽しみにしていたのに・・・」

ぼくたち三人がすごく落ち込んでいると、草野さんがやってきた。

「お前ら、来てくれたのに食べられなくて残念だったな・・・」

「うん、とても食べたかったのに・・・」

「実は・・・ジャジャジャーン!」

草野さんは熱々に焼けたフランクフルト五本を持ってきた。

「ええっ!これどうしたの?」

「お前らのために取っておいたんだ、お金はもちろん払ってもらうけどな。」

「ありがとう、草野さん!」

ぼくはこの時、草野さんのことが今までで一番好きになっていた。

亜野くん笠松くんも来て草野さんからフランクフルトを受け取り、みんなでかぶりついた。

「美味いーーっ!」

「何これ!?フランクフルトに味がついている!?」

「うん、普通のフランクフルトとは何かがちがうよ!」

「そうだろ、そうだろ?このフランクフルトには、豚肉をミンチにした後でコショウやハーブなどを入れて、肉の味をよく引き立たせるようにしているんだ。」

「草野さんの言っていることはよくわからないけど、とにかくこのフランクフルトは美味いということだ!」

「そして今年は新メニュー、なんとジャーマンポテトがありまーす!」

草野さんはジャーマンポテトを乗せた皿をぼくたちの前に見せた。ポーク・ホープ手作りウインナーとじゃがいもと玉ねぎを炒めて、味付けをしたものだ。

ぼくたちは一口食べてみた。

「美味い!」

「おいしい!!」

「味付けがいいな、玉ねぎもじゃがいもも美味しい!」

「これ、母さんにも食べさせてあげたいな。」

「そうだろ?気に入ってもらえてうれしいぜ!」

ぼくたちはジャーマンポテトを美味しそうに食べるのだった。








それからぼくたちは夏祭りを思いっきり楽しんだ、かき氷やたこ焼きにトルネードポテトを食べた。

「おっ、今年もやってる!!」

亜野くんが目ざとくみつけたのは、射的の屋台だ。

「いらっしゃい!いらっしゃい!当たって倒して景品をゲットーッ!」

屋台のおじさんが威勢良く呼びかけをしている。

「よぉーし!やるぞ!!」

亜野くんが屋台のおじさんにお金を渡した、この射的は五百円で五発分の弾を打つことができる。

「よーし、一番を狙うぞ・・・!」

この射的では景品ではなく、番号札を倒して倒した番号札と同じ番号の景品をもらえるという仕組みだ。

「今年の一番景品はサンテンドースイッチだ、家は持っていないから絶対に手に入れてやる!」

「亜野くん、気合い十分だね・・・。」

「亜野くんの家、サンデンドースイッチ無いもんね。だからめっちゃ欲しがっていたんだよな〜」

さあ、亜野くんが放った一発目は・・・番号札をかすりもせずにはずしてしまった。

「あー、でもまだまだ・・・」

それから亜野くんは、二発三発と弾を発射したが、弾は札に届かずに落ちるか、札にかする程度しか当たらない。

そして最後の五発目も外してしまった。

「うわぁーーっ!全部外した・・・」

「はーい、残念でしたね。はい、外れのあめちゃんだよ。」

亜野くんはおじさんからあめ玉を受け取った。

「くそーっ、もう一回だ!!」

亜野くんは財布からお金を出そうとしたが、すぐにがくっと落ち込んだ。

「しまった・・・、もうお金が無い」

「どうしたんだお前ら?」

「あっ、草野さん!屋台を抜け出していいの?」

「ああ、今日の商売はもう終了したからいいんだ。それより射的か、懐かしいなあ。」

「草野さん、射的やったことあるの?」

「ああ、欲しい景品があるのか?それならおれに任せておけ!」

草野さんは得意気に言った。

「えっ!?草野さん、やってあげるのか!?それならぜひあの一番の札を倒してくれ!」

「札?倒すのは景品じゃないのか?」

「この射的では、倒した札の番号と同じ番号の景品がもらえるんだ。」

「なるほど・・・、そういうことか」

草野さんは一番の景品を見て、挑戦する顔になった。

草野さんはおじさんに五百円を出すと、鉄砲を構えた。

「よし、行くぜ・・・」

草野さんは慎重に狙いを定めていく、その瞬間ぼくたちはすごい緊張感を感じた。

そして草野さんの大一発目、パンッ!!

弾はなんと一番の札に命中、しかし札は倒れない。

「あちゃー、こりゃ強敵だな・・・」

「お前、なかなか筋がいいな。だけどあの札は簡単には倒せないぜ。」

おじさんは得意気にニヤニヤしている、それからも二発三発四発と発射し命中はしたが、札は倒せない。

「残り一発か・・・、ちょっとタイムいいか?」

「いいけど、五分までだぞ!」

そして草野さんは屋台から離れていった。

「タイム取ってなにするんだ?」

「たぶん、草野さんなりに考えがあるんだよ。」

そして草野さんが戻ってきた。

「お待たせ、さあ最後の一発行くぜ!」

草野さんが狙いを定めた、これを外したらもう終わりだ。

「頼む〜、倒れて・・・!」

亜野くんに合わせて、ぼくと水澤さんも笠松くんも天に祈った。

草野さんが弾を発射する、弾は札に命中した。

そして札は、パタッと倒れた。

「やった!!倒れた!!」

「おおっ、まさか一番札が倒れるとは・・・。参った参った!!景品をどうぞ!」

草野さんはサンテンドースイッチを受け取った。

「亜野、これお前にやるよ。」

草野さんは亜野くんにサンテンドースイッチを渡した。

「わーい、ありがとう草野さん!」

「さすが草野さん、射的上手いね!!」

ぼくたちは草野さんを褒め称えた。










夏祭りもいよいよ大詰め、ビールを飲みながら草野は盆踊りを眺めていた。

「月が〜出た出たっ〜月が出たーあっ、よいよい〜」

『盆踊りを眺めながらの酒か・・・、相変わらずだなお前』

「ああ、そうさ。風流があっていいだろ?」

『それにしても、お前は相変わらず子どもに優しいな。』

「そうか、えへへ」

『勘違いするな、あきれておる。なんせワシにインチキしろとまで言うからな。』

「だって、あのままじゃ景品が手に入らないからよ、ちょっとお前の術を使うくらいいいじゃないか」

実は草野はあの時の射的でタイムをとった時、ガマ座衛門とこんな会話をしていたのだ。

「たのむ、ガマ座衛門!お前の力が必要だ!」

『言いたいことはわかっている、あの射的で一番の札を倒したいんだな?しかしワシの術に射的が上手くなるというのは無いぞ?』

「違う、景色に紛れ込む術があるだろ?それを使うんだ。」

『確かにできるな、それでどうする?』

「お前が術を使って射的の台の上に上がって、合図を送ってくれ。そしたらオレが一番の札に弾を当てるから、当たったらすぐに札を倒してくれ。」

『つまりインチキをしろということか、あまり誉められたことじゃないけど・・・』

「頼む!亜野くんのために、一番の景品がどうしても欲しいんだっ!!」

手を合わせて強く頼む頼む草野さんに、ガマ座衛門は協力することにした。

そしてガマ座衛門は隠れ身の術を使った、これはガマの油を体に塗って使う術である。

そしてガマ座衛門は射的の台の上に上り、一番札の後ろについた。そして草野が弾を一番札に当てた直後に、一番札を倒したのだ。

『全く、子どもにはすぐに甘いんだから。』

「まあ、いいじゃないか。あいつらもオレも満足できるならそれでいいじゃないか。」

『それにしても、お前最近は競馬あまりしていないな。』

「そうか?アルバイト始めた今でも、競馬新聞は読むぜ。まあ、競馬場へ行く頻度は減ったかな。」

『まあ、お前が本の少しでも常識的な人間に一歩近づいただけでも、多少成長したということか・・・』

「おいおい、どういう意味だ?おれが常識人に見えないということか?」

『うん、破天荒で金遣いが壊滅的に酷くて稼ぎも安い男。』

「ガマ座衛門・・・・、そんなに言うと怒るよりへこむぜ・・・」

『ふふっ、まあワシを操っている時点で常識人ではないがな。』

「もう〜、お前はオレをバカにしているのか褒めているのかどっちなんだ?」

『どっちでもない、ただお前を笑って楽しんでいるだけだ。』

ガマ座衛門はゲコゲコと笑いだした。

すると夜空に大きな花火が打ち上がった。

「おお、きれいだな・・・」

『ああ、空がこんなに綺麗になるのは年に数回あるかないかだな。』

夏祭りをより鮮明に記憶に植え付けてくれる花火、草野とガマ座衛門はその光景を見ながら夏を直に感じるのだった。
































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