後編
それから、百合ヶ島に鬼が近寄ることはなく、百合ヶ島の住民達の生活は平穏を取り戻しました。荒れてしまった花畑も少しずつ以前の姿を取り戻しつつあるある日のこと、百合ヶ島に一隻のボロボロの船が流れ着きました。全員、頭にはツノが生えており、赤や青といった肌の色をした女性達——鬼の女性達でした。彼女達は鬼ヶ島からはるばる逃げてここに辿り着いたのだと泣きながら語りました。かつて島を荒らした鬼達と同じ種族だというだけで警戒心をむき出しにする人間も中にはいましたが、長は鬼達が言っていた「女は男の物だ」という言葉を思い出し、鬼の女性達を受け入れることにしました。
「ここに居る私達は全員、男性から酷い扱いを受けてきました。中には身内から性的な暴力を受けた人も居ます。そういう女性達を守るためにこの島はあります。種族は関係ありません。みなさんも、良いですね?」
「……長が言うなら」
「……でも私、怖いです。だって彼女達も女性とはいえ、鬼ですよ。私達人間より力がある。この間戦ってみてよくわかったでしょう。精霊様がいなければ私達はなす術もなかった」
「あの鬼達のスパイって可能性もあるよね」
「あなたたち。やめなさい」
敵意をむき出しにする女性達を長が咎めますが、警戒はそう簡単には解けません。すると鬼の中の一人が土下座をして言いました。「あの島に私達の居場所はないんです! 帰ればきっとまた地獄のような日々が待っている。お願いします。ここにいさせてください」と。他の鬼達も彼女の真似をし、頭を下げました。悲痛な訴えに、女性達は気まずそうに謝罪をし、長の提案を受け入れましたが、完全に警戒を解くことはしませんでした。
しかし幸いにも、彼女達が島で受け入れられるまではさほど時間はかかりませんでした。島の噂を聞きつけた鬼や人間の女性達が次々と百合ヶ島に移住し、島の人口は今も増える一方です。
やがて、百合畑の百合から生まれた精霊のことを知る人は居なくなってしまいましたが、今も伝説として語り継がれ、百合畑は島のシンボルとして大切に守られ続けているそうです。
百合太郎 三郎 @sabu_saburou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます