011 授業SIDE-B

 今日のソーマの予定は座学だ。

マイヤーハイム卿がこの世界の一般教養をソーマに教える。

まあ、外に出ても生きて行ける知識といえば良いだろうか?


 ソーマは逃走タイプと認識されていたため、座学で教えるべき内容に待ったがかかっていた。

それを知ることで逃走にうつる可能性があったからだ。

俺たちはそんな逆向きのサポートはするつもりはない。


 だが、ここ数日で、ソーマはシャノのために魔物を狩れる能力を得ようという積極性を見せた。

シャノとの絆が深まれば、シャノが枷となり、この国に残る可能性が高まる。

そのため、座学にゴーサインが出たのだ。


「次の育成準備で俺は出て来る。

監視は任せるぞ」


 次の育成準備、それはソーマを魔物と戦わせるというものだった。

ソーマのチートスキル、【スキル模倣】が魔物のスキルにどう反応するのか、それを調べたいという意見が出たのだ。

もし、魔物からスキルを奪うようなことがあれば、魔物から危険なスキルを手に入れるかもしれない、その懸念がソーマを魔物と戦わせて様子を見るという結論に至ったのだ。


「いつもそのとばっちりは俺たちかよ!」


 俺たち王宮特別監視団に課せられたのは、当たり障りのないスキルを持つ、危なくない魔物の確保だった。

危なくない魔物など、スキル持ちではない。

スキルを持つから危なくなるのだ。

かといって、人が持っているようなスキルでは検証にならない。

面倒だ。めちゃくちゃ面倒な任務だ。


「いた」


 俺がターゲットにしたのは、ぬめりカエルスライムトードだった。

ジャイアントトードの一種だが、スキル【ぬめり】による回避を得意とする。

このスキルを持つ人など存在しない。

なので、ソーマがそのスキルを模倣するのかが、今回の検証となるのだ。


 ぬめりカエルスライムトードは、討伐ならば簡単な相手だったが、生け捕りとなると至難の業だった。

そのぬめりで捕縛出来ないのだ。


 俺たちは泥まみれになりながら、やっとぬめりカエルスライムトードを確保した。

弱くて変なスキル持ちなど、他にはなかなか居ない。


「あと4匹だ!」


 地獄のような捕獲劇が再開された。


 ◇


 王城に戻ると、ソーマの座学の様子の報告を部下から受ける。


「ほう、金を稼ぐことに興味を持ったか」


「はい、シャノの購入代金やメイド服が思った以上に高いと気付き慌てていました。

そのためチート知識で金稼ぎをしようと思ったようです」


 借金は、国への縛りとなる。

何もかもを投げ出して逃亡すれば借金はチャラだが、そうなるとこの国で生きて行けなくなる。

そのリスクは排除したいだろうし、チート知識が金になることも知っているだろう。

上手く誘導すれば、ソーマはさらなるしがらみを抱える事になる。


「わかった。そのチート知識の実用化に向けて担当者と面談させよう」


 国を間に入れて商売を始めれば、それだけ国と離れられなくなる。

逃亡タイプを縛るには良い方法だった。


 さて、ソーマはどのような提案をして来るのだろうか?

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