010 介入SIDE-A

 昨日、【身体強化】のスキルを手に入れて、訓練が楽になった。

騎士クヌートから、最初は嫌がらせをされたのかと思ったが、結果的にはスキルを得るための最適解を示してくれたように見えた。

結果が全てだが、多少の遺恨を感じる。


 今日も張り切って訓練をと思ったが、部屋の前には騎士クヌートは居なかった。

別の名前も知らない騎士が護衛兼案内役となり、俺とシャノは訓練場に向かった。

この時は、エッダと違って騎士は交代するんだなと単純に思っていた。


 訓練場に着くと、そこには大柄な騎士が1人、待ち構えていた。

訓練場まで案内した騎士は、早々に姿を消している。

つまり、この大柄な騎士と2人きり、訓練場が貸し切り状態だった。


「今日は騎士クヌートが教官をしないのだな?」


 ここで、騎士クヌートの昨日の行為が、やはり嫌がらせだったのではと思い至った。

それが問題となって、更迭されたのかもしれなかった。


「今日の訓練は、私、騎士アーバインが努めます。

今後も担当することになるかもしれないので、お見知りおきを」


 騎士アーバインは騎士クヌートと違って腰が低かった。

だが、その雰囲気は明らかに騎士クヌートよりも上位で、実力も雲泥の差と見受けられた。


「(できる)」


 それが俺の騎士アーバインに対する第一印象だった。

そんな実力者と、今日はなぜか2人きりだ。


「今日は、他の方は訓練していないのですね?」


「そのようですな」


 何が目的かわからないが、俺は少々ビビッていた。


「今日は槍の訓練をしてもらいます。

まずは軽く走ってください」


 騎士アーバインが、持久走を指示した。

だが、今日は革鎧を先に着させることはなかった。

やはりあれは、嫌がらせだったのかもしれない。


「身体強化は使わないように。

身体強化は掛け算ですからね。

基礎体力が上がれば、同じ身体強化を使っても結果が大きく違うのです」


「なるほど、わかりました」


 騎士アーバインは、持久走の意義を教えてくれた。

身体強化は掛け算。

元の数値が低ければ、大した結果を得ることが出来ない。

1×5は5でしかない。

だが元が3ならば、3×5は15となるのだ。

たしかに、訓練に持久走は必要だった。


「はい、終わりです。

充分に水分補給を」


 騎士アーバインは闇雲に持久走をさせたりしなかった。

丁度良い負荷がかかったタイミングを見計らって、持久走を終わらせた。

そして、しっかり休憩を取って、水分補給までさせてくれた。


 やはり騎士クヌートには嫌がらせをされていたようだ。


「では、革鎧を装着し、槍術の訓練をします」


 騎士アーバインが、シャノを呼び、俺に革鎧を着させた。

シャノが軽々と革鎧を持っていた。

漠然としたイメージでしかなかったのだが、獣人種は力が強いんだと再認識した。

シャノが慣れた手つきで、革鎧を着せてくれる。

これならば、走った後に着ても教官を待たせたりしないだろう。


「まずは、素振りから。

私の動きを模倣・・してください」


 騎士アーバインが見本を見せ、それを俺が真似る。

それを一通り行なった時、俺の身体に異変が起こった。

この感触、【身体強化】が生えた時と同じだ。


「これって! (やった! 俺は【槍技】を取得したぞ!)」


「どうやら【槍技】スキルを手に入れたようですな……」


 騎士アーバインが寂しそうな嬉しそうな微妙な表情だ。

もしかすると、俺のスキル取得が速すぎたせいかもしれない。

騎士クヌートも楽そうに走る俺を見て複雑な表情を浮かべていたっけ。


「では、次は【体術】の組み手を教えましょう」


 騎士アーバインは、今度は【体術】を教えてくれた。

そこには、先程の微妙な表情は無かった。


 しばらくして、やはり【体術】スキルが生えたようだ。

身体の動きがスムーズになった。

これも騎士アーバインの教え方の賜物だろう。


「俺は強くなれる!

早く強くなって魔物を倒す!

騎士アーバイン、あなたの教え方は素晴らしい。

頼む、これからも俺を導いてくれ」


 俺は騎士アーバインの謙虚さと、裏打ちされた実力、そして指導力に心酔した。

次からもぜひ、騎士アーバインに教えを請いたい。

彼の技術を全て継承したかった。


 俺は心の奥で、騎士アーバインを師匠と呼ぶのだった。

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