010 介入SIDE-B

 今日の訓練は、俺たち王宮特別監視団が介入させてもらった。

基本的に勇者の護衛に訓練は、騎士団の管轄だった。

だから騎士クヌートの人事に関して俺たちは手を出せなかったのだ。

だが、勇者を導くために必要があると判断すれば、訓練そのものに介入することは許されていた。


「人払い、完了いたしました」


「騎士クヌートの排除は?」


「完了しております」


 前回の訓練で、ソーマが【身体強化】を手に入れた。

その理由として考えられる可能性が2つ。

持久走によってスキルが生え、自然と取得したという可能性が1つ。

もう1つは、ソーマの隠されたスキル【スキル模倣】により取得したという可能性だった。


 ソーマのチートスキル【スキル模倣】は、ソーマ本人に気付かれないように隠されていた。

このスキルは、際限なくスキルをコピーするものだと思われていて、悪用が懸念されるのだ。

そのコピーしたスキル内容によっては、王国に仇名す危険があった。

それをソーマが無意識に使ったかもしれない。

俺たちが介入するに必要充分な要件だった。


「今日は騎士クヌートが教官をしないのだな?」


 騎士クヌートが今日の訓練から排除されたのは、彼が持つスキルの数々が、ソーマの【スキル模倣】の対象になる可能性があったからだ。

ソーマが手に入れた【身体強化】は、騎士クヌートからコピーしたものかもしれなかったのだ。

けして嫌がらせが発覚して更迭されたのではない。残念だが。


「今日の訓練は、私、騎士アーバインが努めます。

今後も担当することになるかもしれないので、お見知りおきを」


 騎士アーバイン。

屑スキルと蔑まれるようなスキルしか持たない稀有な騎士だ。

彼は純粋に修行で得た力のみで騎士となった人物だった。

普通は、それだけ修行をすればスキルが生えるものだが、彼はそうはならない体質だった。

それでも騎士としての武威は折り紙付き、苦労人故人格にも優れた本物の騎士だった。

騎士クヌートのように生家のおかげで騎士になった偽物とは違った。


「今日は、他の方は訓練していないのですね?」


「そのようですな」


 彼が呼ばれたのは、その持つスキルが珍しく、他に有効なスキルを持ち合わせていなかったからだ。

もしソーマが【スキル模倣】を使っているならば、騎士アーバインが持つそのスキルを手に入れるはず、言わば試金石として彼は呼ばれたのだ。

そこに他の騎士がいると、ソーマがそちらからコピーしてしまう可能性があった。

確認のため、今日は人払いをさせてもらったのだ。


『まずは槍術の訓練を』


 騎士アーバインに指示を出す。


「今日は槍の訓練をしてもらいます。

まずは軽く走ってください」


 騎士アーバインは、俺の指示を無視して持久走から始めた。


「身体強化は使わないように。

身体強化は掛け算ですからね。

基礎体力が上がれば、同じ身体強化を使っても結果が大きく違うのです」


「なるほど、わかりました」


 さすが、騎士アーバイン。

たしかに、訓練に持久走は必要だった。

育成の目的がしっかりしている。

そして生徒への説明が上手い。

加えて、革鎧も走る時には着けさせていない。

小さな嫌がらせだったが、それでもソーマのやる気に差がでるものだ。


「はい、終わりです。

充分に水分補給を」


 騎士アーバインは持久走を終わらせ、休憩を入れた。

いよいよ槍術の訓練だ。

これでソーマが【槍技】のスキルを手に入れれば、訓練によりスキル生えたと確認できる。

そして、もし騎士アーバインのスキルを手に入れれば、ソーマは知らず知らず【スキル模倣】を使っていることになる。


「では、革鎧を装着し、槍術の訓練をします」


 騎士アーバインが、シャノを呼び、ソーマに革鎧を着させた。

革鎧は部分部分に鉄板が縫い付けられており、それなりに重量がある。

シャノは獣人とはいえ、簡単に革鎧を持ってしまっている。

そこは奴隷から従者になったばかり、か弱さを演じるべきだ。

後で説教だな。


「まずは、素振りから。

私の動きを模倣・・してください」


 騎士アーバインが見本を見せ、それをソーマが真似る。

それを一通り行なった時、ソーマに異変が起こった。


「ステータス確認!」


 俺は部下にソーマのステータスを確認させた。

ソーマの動きが急激に良くなったように見えたので気になったのだ。

それはスキルを使ったように感じられた。


「これって!」


 ソーマも体感的に【槍技】スキルを手に入れたと確信したようだ。


「【槍技】スキル、取得されています!」


 そして部下によりソーマのステータスも確認された。

訓練場に設置された魔道具の受信機には、【槍技】の文字が表示されていた。

ソーマは訓練により、スキルを手に入れていたのだ。


「だが、この速さはなんだ?

通常では有り得ないぞ。

まさか【スキル模倣】の特性で取得しているのか?」


 このスキル取得の速さこそが【スキル模倣】の特性なのかもしれなかった。

模倣・・することで取得する。

だとしたら、とんでもないチートスキルだった。


「どうやら【槍技】スキルを手に入れたようですな……」


 いくら頑張ってもスキルを手に入れられない、騎士アーバインはソーマと真逆の人生だった。

その表情には、羨ましいという思いと悲しいという思いが入り混じっていたように見えた。


『もう1つ訓練を。

【体術】あたりで』


 俺は確認のため、【体術】も習わせた。

それも手に入れたならば、再現性有りということになる。


「では、次は【体術】の組み手を教えましょう」


 騎士アーバインが教えると、ソーマにはまたも【体術】スキルが生えた。

その速度、間違いなくチートスキル【スキル模倣】によるものだろう。

俺はそう確信した。


「俺は強くなれる!

早く強くなって魔物を倒す!

騎士アーバイン、あなたの教え方は素晴らしい。

頼む、これからも俺を導いてくれ」


 ソーマは騎士アーバインに最大級の賛辞を送った。

だが、このテスト結果によって【スキル模倣】が他人からの強奪ではないと発覚した。

模倣することでスキルが生えるのだ。

つまり、模倣させなければ、危険なスキルも手に入ることは無い。


 そのため次の訓練には騎士クヌートが戻ってくるのだった。

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