009 訓練SIDE-A
「ご主人様、どこで寝ればいいにゃ?」
決意を新たにした俺が、寝ようとベッドに入ると、シャノが戸惑いの声を上げて来た。
よくよく考えれば、ここには俺のベッドしかない。
奴隷は床で寝ろ、なんてメンタリティを俺は持ち合わせていない。
すると必然的に俺のベッドに寝かせるということになる。
「着がえが無いにゃ。
大切なメイド服は、脱いじゃうしか無いにゃ」
俺はエッダにどうすれば良いのかと視線を送った。
だがエッダは目を逸らして知らないふりをする。
よくよく考えれば、エッダもどこで寝ているのだ?
いや、そもそもずっと壁際に控えているぞ。
休憩はとると言っていたが、どこで?
そうこうするうちにシャノはメイド服を脱ぎ、下着姿でメイド服をたたみだした。
お尻の上から出た黒くて長い尻尾がフリフリ揺れている。
目の毒だ。
そうだ、シャノの寝間着を用意してもらうんだ!
「エッダ、シャノの寝間着は?」
「ありません。それと急には用意できません」
それを用意するのも主人の役目か。
「もしかして、シャノの寝る場所は?」
「その大きなベッドですね」
エッダが指差したのは俺のベッドだった。
たしかに、このベッドはダブルキングサイズと言われるほどのものだろう。
地球での規格に則ったものではないので、印象でしかないが。
人が何人も並んで寝ても密着することはない。
それならば、ベッドの一部を貸しても構わないということか。
「エッダはどこで寝ている?」
「私は常にこの場所ですが?」
エッダが壁際を示す。
そういや、俺がこの部屋から離れた時に、いろいろ済ませていると言っていたが……。
夜間も寝ないって話だったな。
メイド、恐ろしいな。
「私はソーマ様が訓練場などに行っている間に休むのです」
不眠不休の超人でなくて良かった。
だが、今日は休めたのか?
奴隷を買いに行った間だけか?
これはエッダのベッドにシャノを一緒に寝かせてくれと言う訳にはいかないな。
「出来るだけ長く訓練をして来るよ」
そうしてあげるしか俺には出来そうもない。
こうして長い1日が終わった。
◇
翌日、決意を新たにした俺は、騎士クヌートに連れられて訓練場へとやって来た。
従者であるシャノも一緒だ。
そこは楕円形の広場に、その周囲を観客席のようなものが取り囲んでいる施設だった。
おそらく模擬戦などを第三者に観覧させる目的の施設なのだろう。
「訓練用の鎧は着けるか?」
「ああ」
さすがに防具無しではやってられない。
俺は、騎士クヌートに促されるまま鎧を装備した。
動物の革の要所要所に鉄板を縫い付けた革鎧だ。
肩部分で繋がった胸当て背当てを被り、脇を革紐で絞めて着る。
なるほど、従者が必要なわけだ。
よくラノベでソロ活動をする冒険者が描かれるが、こんな鎧だと一人で装備は不可能だぞ。
メイド服姿のシャノが俺の革鎧の装備を手伝う。
そして、俺は木剣を持たされ訓練場の中へと入った。
シャノは訓練場を囲う観覧席のような場所で待機だ。
訓練場では、騎士と思しき人たちが、思い思いの場所で剣を振っていた。
「まずは基本からだな」
基本とは、素振りの型とかになるのだろうか?
「そのまま訓練場の壁際を走れ」
「は?」
体力増強訓練だった。
日本の一般人の基礎体力が低いのは理解できる。
そのために走るのも。
だが、革鎧を付けた後でってのは何だ?
くそ、簡単には脱げやしない。
どうやら騎士クヌートは、俺のような勇者と呼ばれる異世界人を面白く思っていないらしい。
明らかに嫌がらせだろう。
俺はなけなしの体力で訓練場を走った。
革鎧の鉄は重く、それだけで地獄の特訓だった。
「くそ、身体強化でも使えれば……」
あれ? 軽くなった?
感覚的なことだけれど、どうやら身体強化のスキルが生えたようだ。
まさか、これが目的の地獄の特訓か?
この世界、魔法やスキルという便利なものがある。
それらの取得ノウハウは、訓練メニューとして確立しているのかもしれない。
もしかして、騎士クヌートも意地悪でこうしたのではないのかもしれない。
強くなれる気がする。
それは小さな喜びだった。
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