SIDE-A異世界なんてチート転生で楽勝だったSIDE-B全て俺のサポートのおかげだけどな！

００８ 決意ＳＩＤＥ－Ａ

「シャノ、この場で奴隷から解放したい。

そして、結婚してください。

これは主人からの命令ではない。

シャノの本心で答えて欲しい」

「嬉しいけど、嫌にゃ」

　奴隷解放も一歩から。

そう思ってシャノを奴隷身分から解放しようと思った。

結婚すればそれで全てが丸く収まる、俺はそう思っていた。

良かれと思っての事だが、そこでこの世界の現実を突き付けられてしまった。

「え？」

「結婚は嬉しいけど、奴隷解放は嫌にゃ！」

　理解出来なかった。

奴隷から解放されるのが嫌だとは、そのような答えが返って来ることを俺は想定していなかった。

「なぜそうなる？

これは良いことではないのか？」

　俺の問いにシャノは明確な返答をすることが出来なかった。

「ソーマ様、先程仰られていた実績作りが先では？」

　説明に困っているシャノに代わってエッダが間に入った。

「現状シャノ自身には信用がありません。

今はソーマ様の奴隷だということで、従者としての信用を得て王城内に居られるのです。

奴隷解放をした場合、シャノは自分の意志で行動できます。

そうなると、シャノには常に監視が必要となってしまいます」

　シャノが感覚的に拒絶した理由は、エッダの説明によりやっと理解出来た。

「契約で縛られた奴隷身分でなければ、シャノは王城には居られないということか？」

「はい。それが王城の安全保証（セキュリティ）です。

私も伯爵家二女の身分故にここに居られるのです」

　身分による保証。

伯爵家の二女が、王城で不始末を起こせば、家ごと処罰される。

それが抑止力となっている。そうエッダは説明した。

　死なば諸共のテロを防止するには、抑止となる保証が要る。

では、出自の曖昧な平民以下の子の行動は、どう保証するか？

それが奴隷としての隷属契約による縛りになるのか。

「だが、待て。

俺は勇者だろ？

勇者の嫁に信用がない？」

「王国で保護された異世界人を便宜上勇者と呼んでいるだけで、ソーマ様の信用はゼロから築かれている最中ですよ？」

　そうだった。

俺は信用されていない中、王国のなんらかの好意により厚遇されているだけなのだ。

「その信用を得る手段が勇者の実績か」

　確かに、訓練も受けていない俺は、実績ゼロだよな。

シャノが何かやらかしても俺がどうにかする、出来る、その保証がなければ隷属契約だけがシャノの確固たる信用なのだろう。

「つまり、シャノを奴隷のまま妻にして、俺が勇者としての実績で信用を得た後に奴隷解放すれば良いのか？」

「簡単に言うとそうなりますが、奴隷を妻にすれば貴族社会から下に見られますよ？」

　そんな事はどうでも良い。

どうせ日本では一般市民だった。

何の問題も無い。

「ご主人様、シャノはこのまま可愛がっていただければ良いだけにゃ」

　だが、シャノがそんな目で見られるのは耐えられないな。

勇者として実績を積み、誰にも文句を言わせない立場を手に入れる必要があるのか。

それこそ、奴隷制度の廃止が出来るぐらいに。

「勇者として実績を上げれば、王国から爵位や領地が与えられるでしょう。

その領地内であれば、ある程度の自治は許容されます」

　ならば、早く実績を積むに限るか。

「実績とは、魔物や魔王軍の討伐になるのか？」

「はい。そのために明日からの訓練があるのです」

　王国は、これほど俺の事を考えて計画立ててくれていたのか。

後で逃げようなんて思っていたが、この世界で生きていくためには王国の敷いたレールの上を行くのが一番の近道ではないのだろうか？

王国がシャノを従者にしたのは、奴隷解放をさせるためではない。

勇者のサポートという役割のため、王城内のセキュリティに不安がありながら付けてくれたのだ。

「わかった。訓練をこなして早く実績を積もう。

俺は、領地を持ち、自由に自治をする。

そしてシャノを奴隷から解放して妻にする！」

　そのように俺は決意を新たにするのだった。

「シャノは奉公奴隷なので、契約期日で奉公あけ、つまり奴隷解放されますから、それまでに頑張ってくださいね？」

「え？」

　それって契約条件のえらく厳しい労働契約なのでは？

もしかして、俺が思うほど、奴隷って迫害された立場ではない？

　そう思うと、シャノに手を出すのはマズイという気持ちが持ち上がって来た。

契約をたてに関係を迫る。

これってパワハラを使ったセクハラだろ。

　シャノの行動も、この世界独特の契約を履行するためのもの？

そこに愛は無いのか？

「あれ？　これって独りよがりだった？」

「愛してくれるならば、シャノは嬉しいにゃ」

「ありがとう。シャノ。

でも、俺の倫理観が邪魔をする！

そうだ、俺は訓練をこなし、魔物の討伐を行う。

その時は、シャノ、俺を受け入れてくれ」

「はいにゃ？」

　よし、シャノが認めてくれるまで、清い交際でいよう。

魔物討伐、それがシャノを抱く実績となるのだ！

　こうして、俺は明日の訓練に思いを巡らせるのだった。

成り上がって、シャノを妻にする。

その目的のために強くなる。