007 説得SIDE-B

 メイド服を支給するとの口実でシャノを回収した。

さすがに、ソーマが訝しがるような行動には釘を刺さなければならない。


「シャノ、解っているな?」


「はい」


 俺に呼び出されたシャノは、己の失策を重々承知していて項垂れていた。

今回は危なかった。

シャノ本人も理解しているだろうが、あえて叱る必要があった。


「お前の役どころは、勇者に心酔する奴隷だ。

勇者のためならば、何だってする。

それは打算の無い献身なのだ。

このままソーマに抱かれ、子供でも作れば、勇者を王国に縛ることが出来る。

その重要な役割がお前なのだ。

その正体、知られたら全てが終わりなのだからな?」


「理解しています。

この度は申し訳ありませんでした」


 シャノが語尾に「にゃ」を付けていないのは、それが素だからだ。

過去の勇者の分析により、猫人族は「にゃ」を付けると喜ばれるものなのだ。

なのでわざと語尾に「にゃ」を付けて話すようにと命じられている。


「次からは気をつけてくれ。

ソーマがメイド服をご所望だ。

それを着て悩殺して来い」


「はい」


 シャノも勇者付きになって3年になる。

このような失策は初めてだ。

その間に何人もの勇者を相手にしたが……それは別の話だ。


 ◇


 シャノがメイド服を来て戻ると、そこには重い空気が漂っていた。

ソーマが殊の外落ち込んでいたのだ。

それをエッダが言い聞かせるように説得している。


「よろしいですか?

この世界では奴隷という身分は当たり前なんです。

特に借金奴隷や奉公奴隷は、貧しい家庭の救済措置みたいなものなのです」


「しかし、あんなに必死になって身を捧げるなんて、奉公とは言えないのではないか?」


 どうやら、ソーマは、シャノの行動にショックを受けたらしい。

自分の疑いが招いたことだが、あんな行動をしてまで無実を晴らそうとするとは、ソーマは考えても居なかったのだ。

うら若き女性が、奴隷として仕えるためにあのような行動にでる、それが許容出来ないのだ。


「それは本人の意思により決めた契約事項です。

そのようなお勤めをするからこそ、家族が何年も食べられるお金が稼げるのです」


「でも、それはパワハラやセクハラになるから……」


 異世界転移者にありがちな価値観の相違か。

そこに拘る者と、法の支配から逃れて喜んで脱線する者に分かれがちなところだ。

ソーマは拘る面倒なタイプか。


「逆にこのままシャノを放り出したらどうなると思っているのですか?

シャノは契約不履行により、一つ下の借金奴隷に落ちますよ。

そうなると、もっと酷い扱いが許容されてしまうのですよ?」


「明らかに人権侵害、女性蔑視だよ」


 そうではない。この世界、人権侵害され、性奴隷となるのは、男の奴隷も同じなのだ。

そこに男女差別は存在しない。

むしろ、戦争奴隷や犯罪奴隷になると、男の方が命を粗末にされる可能性が高くなる。


「それは日本の倫理観でしょう。

この世界では通じません。

むしろ、奴隷制度が無ければ、シャノもその家族も飢えて死ななければならないのですよ?」


「そうならないように政治が動かないと」


 それは社会が成熟しているから言えることなのだ。

この世界で、そのような甘い考えで国を運営したならば、他国に攻められて終了だ。

人に優しい、敵兵にも優しい、それはこの暴力的な世界ではカモでしかない。


「それは王族批判の不敬罪になりますので聞かなかったことにします。

ですが、そのようにこの世界を変えたいのならば、ソーマ様自身が国の中枢に昇り変革なさい」


「そのためには勇者として実績を上げなければならないか……」


 その通り。

実績の無い勇者に政治を変える権限なんてない。

せめて王女と婚姻し、次代の王にならなければな。

だが、そのコースは我らが潰している。

結婚相手の王女は偽王女だからな。


「ならば、まずシャノを幸せにしてあげなさい。

1人の女を幸せに出来なければ、国を動かすなんて出来ませんよ?」


「そうか、俺が彼女の人権を守りたいならば、俺の嫁として幸せにすれば良いのだな」


 おお、上手く事が運んだぞ。

これでソーマがシャノにご執心となれば、シャノのため、シャノの国のためにソーマは働いてくれるだろう。


『シャノ、今晩は誘惑して良いからな』


 俺はシャノに夜伽のゴーサインを出した。

今夜が勝負だ。

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