006 疑念SIDE-B

 ソーマが従者となったネコミミ奴隷シャノを洗うために、バスルームへと向かった。

この後、我慢できなくておっぱじめるか、心行くまで女体を感じて洗うかという流れだろう。

俺たちは、監視任務があるとはいえ、想定内の事しか起きないだろうと、気を抜いていた。


「日本式?」


 湯に浸かる風呂文化は日本人勇者から齎された。

その良さを経験した後、この世界でも風呂が普通に普及していた。

ただし、金持ちに限る。

さすがに大量の水を溜め、それを沸かす財力は一般市民にはないのだ。


「ローマ風呂っぽくもある?」


 大浴場の設計というのは、勇者の世界日本でもローマ風呂という違う国の文化が入っているらしい。

銭湯と呼ばれる物の他に、少し贅沢な大浴場として、そのような様式の風呂があるそうだ。

それが、この国にも入って来ていた。


「ご主人様、入ろう?」


 シャノがソーマの誘惑を始めた。

ここでシャノがお手付きになることで、ソーマをこの国に紐づけるのだ。

ソーマもシャノの裸体に釘付けだ。

俺たちは任務のために監視を続ける。そう任務だ。


「失礼しますにゃ」


 シャノはそう言うとソーマの服を脱がしにかかった。


『しまった!』


 ソーマの服装は、彼がこの世界にやって来た時のままだった。

奴隷で初見のはずのシャノが知り得る服装ではない。

それを簡単に脱がしてしまっては……。

遅かった。


「なんで脱がせられる?」


 あっという間に全裸にされたソーマが疑問の声をあげる。


『緊急事態発生!

シャノがやらかした!』


『まずいな。ソーマが疑ってしまっている』


 俺たちは、その失策をどうカバーするべきかで焦っていた。

下手をすると、俺たちが関与していることがバレてしまうのだ。


「おまえ、何者だ?

まさか、今までも勇者に付いていた経験があるのか?」


 ソーマが適格にシャノの正体を言い当てた。

シャノは前勇者にも付いたベテラン従者だ。

勇者の世界のことも、その服の扱いも手慣れていた。

それを今出してはならないというのにだ。


「意味が解らないにゃ?」


「なぜ勇者の服を知っている?」


 そう、シャノが知っていてはいけない状況なのだ。


「それの何が不思議にゃ?」


「この世界に無い服だからだろ!」


 シャノの顔から余裕が消える。

明らかな失策。

どう挽回すれば良いのか、俺たちでも判断に困ってしまった。


「そんな服普通にあるにゃ。

でも、そう言っても信じないにゃ?」


「ああ、そんなの何の証拠にもならない!」


 実際に、そんな服は出回っていない。

嘘なのだから、証明出来るわけがない。

このままだと、ソーマの王国に対する不信感が膨らんでしまう。

何か手だてはないのか?


『ソーマの股間を見てください!』


 部下のその指摘で注目すると、膨らんでいたのはソーマの股間も同じだった。

ソーマは明らかに、シャノと何かあると期待していたのだ。

そのような関係は、勇者と奴隷の間では多々あることだ。

俺たちも、国に縛り付けるしがらみとしてそれを奴隷に推奨している。


『そうだ。勇者といえば、処女厨だ。

あれが証拠になる!』


 俺はシャノの耳に隠した通信魔道具に、指示を伝えた。

これでどうにかなるのではと期待して。


「困ったにゃ。

そうだにゃ! 勇者ならば、奴隷の従者は既にお手付きにゃ」


「は?」


 唐突なシャノの台詞にソーマも理解が及んでいない。

その戸惑っている間に、失策をおかした責任を感じているシャノが、意を決して行動に移す。


「だから、ほら見るにゃ」


 シャノが腰を降ろしM字開脚すると、自分のあそこをくぱぁして見せた。

そこにはしっかり処女の証がある。

前勇者のお手付きになったシャノに処女膜があるのは、魔法で再生したからだ。

本来ならば証拠にもならないが、その事実を知らなければ、立派な証拠となるのだ。


「何をしてるんだよ!

解かった、解かったからやめろ!」


 ソーマがシャノの思わぬ行動にパニックになる。

そこはヘタレ。ガン見するには至らなかったが、その証拠は確認出来たようだ。


『エッダ、突入だ!』


 状況をかき回すためにエッダを投入する。

エッダにこのような現場を見られて焦らない男などいない。


「何をやっているのですか?」


 騒ぎを聞きつけた形で、エッダを脱衣所に突入した。


「こ、これは……」


「何のプレイですか?」


 第三者の目があると、ソーマもこの事態の責任を感じるというものだ。


「ち、違うんだ」


「ご安心ください。

従者にはそういった仕事も受けるように言ってありますから」


 ソーマは焦ってこうなった経緯を必死に説明した。

国に疑いを持っていたことまでも口にする。

やはり彼は、逃亡を企てるタイプで確定だ。


「なるほど、それでシャノが証明して見せたのですね?

しかし、それは取り越し苦労です」


 エッダの顔には呆れが見えていた。

何だ? 何を言うエッダ?


「このような簡単な事が拗れすぎです。

この場合、奴隷には命令するだけで良いのです。

正直に答えろと」


 ああっ、その手があったか!

シャノの隷属契約は見せかけのものだ。

命令に逆らえないふりをしてるだけなのだ。

つまり嘘をつけないと装って、嘘をつくことが可能だった。

ここで、ソーマの疑念を全て否定させれば良かったのだ。

エッダ、出来るな。


「シャノは国が送り込んだ諜報員か?」


「違うにゃ」


「シャノの知識は本当に普通に知っていることなのか?」


「本当にゃ」


「シャノは過去に勇者に付いたことは無いのか?」


「無いにゃ」


「俺が悪かった」


 よし、これでソーマの疑いを逸らすことが出来たぞ。


「別に良いにゃ。

それより、さっさとお風呂に入るにゃ」


『待て、シャノはエッダが洗うんだ!』


 ちょっとシャノには教育が必要だ。

このままでは、処女の演技も危なそうだ。

また疑念を持たれないように、しばらくお預けにするしかない。


 エッダには時短を理由にしてシャノを洗ってもらった。

エッダはメイド服のまま、濡れることなくシャノを洗った。

さすが有能なメイドだ。

今回は彼女に助けられたな。

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