005 お仕事SIDE-B
『エッダ、方針変更だ。
奴隷従者の服はソーマに売れ。
ソーマには奴隷に関する全ての出費を負担させるのだ』
本来ならば、ソーマの衣食住は、その個人出費まで含めて王国負担だ。
奴隷の代金が王国持ちだったように、その奴隷の衣食住も王国が持つはずだった。
だが、ソーマの勘違いを利用して、王国との
このまま借金を抱えさせて、王国のために働かせるのだ。
「ご主人様、名前を付けて欲しいにゃ」
ネコミミ少女があざとくソーマに媚びを売る。
この子も既に勇者つき従者として何度か実績がある。
どのようにすれば、異世界人が喜ぶのかを熟知している。
その1つが年齢だった。
15歳。向こうの世界では未成年で手が出せないが、この世界なら成人で合法。
その魅力に異世界人は弱い。
なので、わざわざ18歳なのに鑑定内容を弄って15歳にしたのだ。
「黒猫だから、クロとか……はないよね」
ソーマの命名センスは最悪だった。
さすがにネコミミ少女も殺気を放ってしまった。
気付かれたか?
いや、大丈夫だ。ちょっと危なかったぞ。
「うーん、シャノアールからシャノは?」
どうやらソーマは知識を総動員して無難な名前を考えたようだ。
黒猫系の猫人族、だからクロネコでシャノアール。
この名前、以前の勇者も付けていた、ネコミミ少女には馴染みのある名前だ。
そんなことも知らず、ソーマが得意げな顔になっている。
「シャノ♪ 嬉しい♡」
シャノが嬉しくもないのに、喜んだふりをしてソーマの胸に飛び込んだ。
さすが、あざとい。
奴隷服の薄い布地を通して、下着をつけていない胸が当たるという技だ。
ソーマは、胸の膨らみとその頂点のポッチを堪能していることだろう。
「シャノ、下着は?」
だが、そこはヘタレで定評のあるソーマだ。
もっと堪能すれば良いものを、下着すら着けていないことに違和感を持ったようだ。
よし、これで服を売りつけるというプランが生きる。
「無いよ?」
そう言うと、シャノは貫頭衣を捲った。
さすがだ。
ここでラッキースケベをお見舞いするとは。
シャノはブラどころかショーツも着けていないのだ。
「何をやらせているのですか?」
エッダが絶妙のタイミングで、お叱りを入れる。
ソーマにある程度堪能させつつ、ラッキースケベを終了させる。
そのまま見せていては、さすがに不自然すぎるからな。
「違うんだ! まさか下着を着けてないとは思わなくて、思わず訊ねただけなんだ!」
ソーマもエッダの手前、シャノに捲るのをやめさせた。
エッダはまだジト目を向けている。
あれは半分本気だな。
「それよりもエッダ、シャノに服と下着を用意したい。
だが、俺には金が無い。
外へ出て金を稼ぎたいのだが?」
俺たちの想定通り、ソーマが外で金を稼ぎたいと行って来た。
だが、外へ出すと、そのまま逃走される恐れがある。
ここでシャノという奴隷従者の存在を、逃亡させないための縛りにするのだ。
「外でお金を得るのは無理ですね。
ソーマ様は、王国で訓練する間、王国のご客人ですので、衣食住
なので、外で働くことは不可能です」
そう、本来ならば、シャノの衣食住費用も王国持ちなのだ。
だが、ここではソーマに負担してもらう。
エッダもアドリブだが、巧くやってくれている。
「じゃあ、どうすれば?」
「焦らないでください。
まず王国の勇者となることを表明していただければ、給金を出すことが可能です」
ここで王国所属を快諾することはないと思うが、契約できるのならば後が楽だ。
さすがエッダ。その道まで匂わせるか。
「いや、従者の奴隷を持てって国から言って来たよね?
それなのに、所属を強要するのか?」
「焦らないでください。
もう1つは、王城内で何か仕事をすることです」
王城内で仕事をするには、異世界チートと呼ばれる技術を売るしかない。
これは規定路線だが、奴隷従者にかこつけて判断を仰ぐのは初めてのパターンだ。
「王城内で仕事が出来るのか?」
「そうですね……。
例えば、ソーマ様の世界の技術を売るとか?」
ソーマがこの世界に齎されていない世界チート知識を持っているかは微妙だ。
過去の勇者たちが、そこそこ残した知識があるのだ。
それをソーマに見せていないだけなのだ。
「それだ。それをお願いする」
「技術を売るには現金化までに時間がかかりますよ?
実物が完成し、それを売った対価が収入となりますから」
ソーマが何を売ろうとしているのかは判らないが、エッダめ、巧く話を持って行ったな。
「それはそうか。
ならば、シャノの服をどうすれば……」
「その技術を担保にお金を借りましょう」
「それで頼む」
本来ならば、ただで与えるはずだった奴隷従者の服で、ソーマに借金を抱えさせることに成功した。
異世界チート知識で実用に耐える技術など、大した数もないのだ。
それが既に齎された後だとなれば、単純に借金だけが残る。
これが王国への縛りとなるはずだ。
まあ、踏み倒して逃げるという手段はあるが、ソーマはそのタイプではないだろう。
「では、どのような服をご用意いたしましょうか?」
従者の服はほぼ決まっている。
それは既に準備済みだ。
「とりあえずメイド服で」
『メイド服、ありません!』
従者服を用意していた部下が悲鳴をあげる。
「お高いですよ?
この服も王家が恥をかかないように特別製なのですよ?」
エッダもメイド服を諦めさせようと援護する。
しまった。こいつ異世界人だった。
従者にメイド服。想定してしかるべきだった。
本来ならば、こちらが用意した従者服で問題なかったのだ。
だが、服を売ることにしたために、ソーマ本人の好みが入って来てしまった。
「それでも頼む」
『至急、メイド服を準備しろ。
ネコミミ少女の服のサイズは把握しているな?
王城務めのメイド服ならば予備があるはずだ!』
やれやれ、まさかそう来るとは。
『エッダ、時間稼ぎだ。
メイド服の準備に時間がかかる』
「畏まりました。
では、着がえの前にシャノをお風呂で洗ってあげてください。
その間に準備しておきましょう」
エッダがイレギュラーな事態に時間稼ぎとして選んだのは、ネコミミ少女をソーマに洗わせるという奇策だった。
これによりソーマは、なぜネコミミ少女の服のサイズが判っているのかなんてことすら気付かないほど、パニックになっている。
「聞き間違いかもしれないが、エッダが洗ってくれるのではないのか?」
さすが、ヘタレ。
他の勇者ならば喜んで洗うところを訊き返して来た。
「ソーマ様の奴隷の衣食住は、ソーマ様の責任ですよ?」
エッダが止めを刺す。
これで有無を言わせずに洗うしかなくなった。
「なんだってー」
まあ、シャノもその手の行為には馴れている。
ソーマを骨抜きにしてくれるだろう。
「わかった。俺がやる」
「お風呂の準備は出来てます」
ソーマがシャノを連れて、バスルームへと向かう。
俺たちは監視が任務だ。
仕方ないので、一部始終を見ることにしよう。
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