005 お仕事SIDE-A

「ご主人様、名前を付けて欲しいにゃ」


 俺の部屋へと戻ると猫人族の娘が小首を傾げながらそう言った。

あざと可愛いぞ。

さすが異世界、さすが奴隷、こんな可愛い子が俺をご主人様と呼ぶなんて!

メイドのエッダの主人は国王なので、俺の事はソーマ様と呼ぶ。

日本では金を払わないとご主人様なんて呼んでもらえないぞ。

いや、この世界でも奴隷を維持するために金が必要なんだった。

まあ、金はなんとかするとして、名前ねぇ。


「黒猫だから、クロとか……はないよね」


 危ない。クロだとオスっぽいよね。

しかも、いま睨まれた気がする。

今はそんな雰囲気も無いけど、否定したからか?

これは熟考しないと。


「うーん、シャノアールからシャノは?」


 フランス語で黒猫。シャが猫でノアールが黒だから切る部分がアレだけど。

日本だと喫茶店をイメージするからそのまんまだと微妙だからな。


「シャノ♪ 嬉しい♡」


 どうやら気に入ってもらえたようだ。

喜んで俺の胸に飛び込んで来た。

オーバーアクションだが、この世界ではこんなものなのだろう。

丁度良い大きさの胸が当たって、ポッチが……。


 ちょっと待て、シャノの服ってこれだけか。

それは所謂貫頭衣と呼ばれる粗末なもので、しかも下着を着けていない。


「シャノ、下着は?」


「無いよ?」


 そう言うと、シャノは貫頭衣を捲った。

はい、下も着けてませんでした。


「何をやらせているのですか?」


 エッダが冷たい目で俺を見て来る。


「違うんだ! まさか下着を着けてないとは思わなくて、思わず訊ねただけなんだ!」


 俺は必死に否定して、シャノに捲るのをやめさせた。

エッダはまだ疑いの目を向けて来る。


「それよりもエッダ、シャノに服と下着を用意したい。

だが、俺には金が無い。

外へ出て金を稼ぎたいのだが?」


 俺は奴隷を持つことの最重要懸案だった金の件を持ち出した。

俺は王城内に居る限り、衣食住は国持ちだ。

だが、俺の奴隷であるシャノは俺が衣食住の責任を負わなければならないのだ。


「外でお金を得るのは無理ですね。

ソーマ様は、王国で訓練する間、王国のご客人ですので、衣食住全て・・を王国がご用意いたします。

なので、外で働くことは不可能です」


 なるほど、逃亡対策で外には出してくれないのか。


「じゃあ、どうすれば?」


「焦らないでください。

まず王国の勇者となることを表明していただければ、給金を出すことが可能です」


 つまり王国に所属し自由を失うということか。

だが、それっておかしいだろ。


「いや、従者の奴隷を持てって国から言って来たよね?

それなのに、所属を強要するのか?」


「焦らないでください。

もう1つは、王城内で何か仕事をすることです」


 さすがに焦り過ぎたか。

所属一択で強要されたわけではないんだな。


「王城内で仕事が出来るのか?」


「そうですね……。

例えば、ソーマ様の世界の技術を売るとか?」


 異世界チート知識ってやつか!

そういや、この世界、マヨネーズすらなかったな。

俺の食生活のためにも、マヨネーズの技術を売るか。


「それだ。それをお願いする」


「技術を売るには現金化までに時間がかかりますよ?

実物が完成し、それを売った対価が収入となりますから」


 マヨネーズならば、試作も販売も直ぐだ。

だが、それが金を産むまで数日はかかる。

それでもシャノの服が間に合わない。


「それはそうか。

ならば、シャノの服をどうすれば……」


「その技術を担保にお金を借りましょう」


 つまり前借りで服を揃えるということか。

後で金が手に入るならば、借金で縛るということではないようだし、それでも問題ないだろう。


「それで頼む」


「では、どのような服をご用意いたしましょうか?」


 やっぱり傍に控えさせるならばネコミミメイド一択だろう。


「とりあえずメイド服で」


「お高いですよ?

この服も王家が恥をかかないように特別製なのですよ?」


 エッダが着ているメイド服は高級品らしい。

日本のコスプレ衣裳もピンキリだからな。

某激安店で買うコスプレとはわけが違うのだろう。


「それでも頼む」


 シャノに安物を着させるわけにはいかない。

これから俺の従者として付いてまわるのだ。

シャノには恥をかかせたくない。


「畏まりました。

では、着がえの前にお風呂で洗ってあげてください。

その間に準備しておきましょう」


 は? 今なんて言った?

洗ってあげて・・・くださいだと?


「聞き間違いかもしれないが、エッダが洗ってくれるのではないのか?」


 俺は聞こえなかったふりで訊き返した。


「ソーマ様の奴隷の衣食住は、ソーマ様の責任ですよ?」


 聞き間違いではなかった。

俺がシャノを洗わなければならないのだ。

15歳の女性の身体をだ。


「なんだってー」


 なんと嬉しい、いや困った事態なのだ。

だが、シャノが汚れたままでは新しい衣装が汚れてしまう。

エッダが洗ってくれないならば、俺が洗ってやるしかない。


「わかった。俺がやる」


「お風呂の準備は出来てます」


 この部屋はホテルのスイートルームだと言ったが、バスルームもしっかり併設されていた。

直ぐそこにバスルームがあった。

俺はシャノを連れて、禁断の間へと向かった。

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