004 奴隷SIDE-B

 早速ネコミミ奴隷を手配することにした。

このような事態は想定済みのため、馴染みの奴隷商を用意していた。

奴隷商ボリーソヴィチ、彼にはネコミミ少女奴隷とダミーの奴隷を準備して、明日登城してもらうことになった。



 朝、ソーマは誰にも邪魔されることなく目覚めた。

貴族的な話になるが、翌朝の起床時間を指定しない限り、メイドは主人を起こしたりしない。

そういった文化を、ましてやこの国の時間の概念を知らないソーマが、起きる時間を指定するわけがない。


 騎士クヌートが部屋の前で苛ついているのは放っておこう。

彼が説明をし忘れたのが悪いのだ。

彼の引っ掻き回しには期待している。


 ソーマはエッダが昨夜とは打って変わって事務的に対応するものだから、戸惑いを覚えているようだ。

昨夜ヘタレたツケだ。

もうエッダは相手をしてくれないからな。


 エッダはソーマを着がえさせ、朝食を運び込んだ。


コンコンコン


 それでソーマが起きたことを知った騎士クヌートがノックをして入出許可を申請する。

それに対してエッダが素早く扉まで行き、言葉を交わす。


「なんで起こさないんだ」


「そこは起こさない決まりでしょう?

それも、あなたが教えなかったのが悪いのでは?」


「くっ!」


 そうなのだ。騎士クヌートが説明を端折ったツケだったのだ。

エッダが騎士クヌートを部屋の中に入れる。

このまま騎士クヌートは自らのミスのせいで待たされることになる。


 ソーマは、元の世界の料理と比べているのだろうか、この食事に多少の不満を持っている。

だが、自分から改善しようなどと行動を起こそうとはしない。

そこらへん、飼い馴らされた社畜根性と見た。

これからも王国の社畜として働いてもらおう。


「よろしいですか?」


 エッダが食事が終わったと見て会話の糸口を作った。

時間が押しているのが、気になっていたからだ。


「ああ」


 そしてソーマの許可と共に騎士クヌートに会話を譲る。


「今日の予定を伝える。

今日は従者を選定してもらう。

その前に奴隷制度の説明をする」


 騎士クヌートが朝の挨拶もそこそこに予定を伝えた。

大分焦っているようだ。

自分のミスを挽回したいという願望の表れか、早口になっている。

奴隷制度の説明の前に、従者が奴隷なのだと言うべきだろう。

そこらへんが、騎士クヌートのダメなところだ。


「移動が必要ならば、その道すがら聞こう。

時間が勿体ないのだろう?」


 騎士クヌートの態度が伝わったのだろう。

ソーマも嫌味混じりで返答する。


 それ幸いと騎士クヌートは、王城内の移動中に奴隷制度の説明を口にした。

マナー的になっていないが、ソーマが許可したために成立してしまっている。

まあ、結果的には別に良いのだが、後でクヌートの上司に報告しておこう。


 ソーマは聞いているが、要約しか頭に残すつもりが無いようだ。

そこらへんの性格を表に出してくれたのは、騎士クヌートの手柄だろう。


「従者は強制のある借金奴隷以下になる」


 王城で働く者が違法奴隷のわけがない。

敵対国から捕虜として連れてきた戦争奴隷も、犯罪者が罰として奴隷となった犯罪奴隷も有り得ない。


 尤も、今回はネコミミ少女奴隷を選んでもらう必要がある。

そこは俺たちが巧く誘導するしかない。


 ソーマがやって来たのは、城にあらゆる物資を持ち込む通用口にある広場だった。

その一角に奴隷商のボリーソヴィチがいた。


「ボリーソヴィチ、見れるか?」


「お待ちしてました、騎士様。

どうぞこちらへ」


 予定通り、ボリーソヴィチが物資の箱の山の奥へとソーマたちを誘う。

そこには鎖につながれた奴隷たちがいる。

ネコミミ少女を含めた従者候補だ。

そこにはダミーとして十代中頃だろう獣人たちが集められていた。


「さあ、勇者様、好きに選んでくれ」


 騎士クヌートがソーマに従者を選べと言う。

ネコミミ少女を選ばせるのは、俺たちの仕事なので気楽なものだ。

やはり後で上司にチクっておこう。


「ん? これは?」


 ソーマの様子がおかしい。

何かあったようだ。


「魔力反応です。ソーマが【鑑定】スキルを使っています!」


 想定外だ。

ソーマが【鑑定】スキルを持っていることは伏せてあった。

鑑定が使えると、仕込んだ魔道具などを発見される恐れがある。

なので、使えないと思い込ませ、スキルの発動を阻害までしていたのだ。

それがここにはスキル阻害の魔道具が無かった。


「ソーマのスキルレベルは?」


「レベル1です。種族と年齢、性別、そして汎用スキルが見えます」


 偶然とは恐ろしい。

使いたいと念じたことでスキルが発動してしまったのだろう。

ソーマが鑑定スキルを使ってしまうとは……。


 彼が最初に鑑定しているのはイヌミミ少女だった。

犬好きか!

犬好きと猫好きは相反することがある。

犬好きが猫嫌いということは多々ある。

ネコミミ少女を用意したのが裏目に出たかもしれない。


「インターセプトだ。

ソーマには欺瞞情報を見せろ」


 俺は慌てて部下の魔導士に指示を出した。

鑑定結果を書き換える高等魔法だ。


「見える!」


 ソーマが鑑定を使えたことに気付いた。

ギリギリセーフだ。

その情報は既に嘘の情報となっている。

イヌミミ少女のスキルはたいしたものではなくなっているはずだ。


 ソーマが奴隷たちを見回し全ての奴隷のスキルを確認した。

そこではネコミミ少女だけが優秀に見えているはずだ。


「この子たちは同じ値段か?」


「そうだ。

特に能力に差はないから、外見などで好きなのを選べ」


 騎士クヌートのやつ、そこはネコミミ少女がお薦めだと言うところだろうに。

まあ、ソーマにはネコミミ少女が別格だと見えているはずだ。

わざわざ汚しているが、その美貌はその値段では買えない極上の奴隷だ。

年齢も15だと誤魔化しているが、本当は18だ。

夜の方も問題なく相手が出来る手練れだ。


「この猫人族が良い」


 よっしゃー!

巧く誘導出来たようだ。

だが、ソーマが鑑定を使うとは思わなかった。

これからも油断しないように気を付けなくては。


「わかった。

ボリーソヴィチ、この子をもらう。

後で請求しておくように」


 そこは既に支払い済みなので、ここで金銭のやり取りはしない。


「かしこまりました。

では、奴隷契約を。

ご主人は……あなた様ですね。

それでは、血を一滴、そうその首輪に垂らしてください」


 ボリーソヴィチは慣れた手つきでソーマの指に針を刺し、その血を猫人族少女の首輪に垂らした。

すると首輪が光り、魔法陣のようなものが現れ消えた。


「これで契約が終了しました」


 これでソーマをこの国に紐付け出来た。

奴隷を持つ責任は、この国での収入を得るという目的に繋がる。

そして、奴隷契約には血を垂らすなどの手続きが必要で、ソーマが懸念するだろう強制奴隷化の魔道具はないと思ってもらえたことだろう。


 戻る道すがら、奴隷を持つ意義とか、奴隷に対する主人の責任とかの説明を騎士クヌートがする。

さすがクヌート、嫌らしいことをする。


「聞いて無いよ!」


 ソーマもクヌートにはめられたことに気付いたことだろう。

実際は俺たちがはめたのだが、クヌートに矢面に立ってもらうことが出来たな。

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