004 奴隷SIDE-A

 眠れぬ夜を過ごしたつもりだったが、朝になると泥のように眠っていたことに気付かされた。

いまいち不快な寝覚めだった。


 昨夜の事を気にもしていないのか、エッダは俺を着がえさせ、朝食の用意を済ませると壁側の定位置に立った。

冗談でも朝元気になったあれを処理してくれとは言えない雰囲気だ。

昨夜のあれは夢だったのかもしれない。


コンコンコン


 部屋の扉がノックされると、エッダが素早く扉まで行き、相手と言葉を交わす。

どうやら騎士クヌートがやって来たようだ。

エッダが騎士クヌートを部屋の中に入れる。


 朝食はトースト、オムレツ、スープ、薄めたワインという、いかにもという感じの朝セットだった。

薄めたワインは、水事情の悪いところの水代わりだ。

アルコールで水を殺菌しているのだ。

生野菜が無いのも同様の水事情によるところか。

生野菜を洗うと、逆に汚染される。

海外旅行で食中毒になる盲点がサラダだというからな。

味はシンプルに塩味。マヨネーズが欲しい。


 この国は、雰囲気的に勇者召喚慣れしているようだ。

ならば誰かが食事事情を改善しようとしなかったのだろうか?

マヨネーズ無双ぐらいしておいて欲しかったよ。


「よろしいですか?」


 エッダが俺の食事が終わったと見て訊ねて来た。

どうやら食事が終わるのを待っていたらしい。

騎士クヌートもそうだったようだ。


「ああ」


「今日の予定を伝える。

今日は従者を選定してもらう。

その前に奴隷制度の説明をする」


 騎士クヌートが朝の挨拶もそこそこに予定を伝えて来た。

どうやら時間が押しているらしい。

それならば予定ぐらい食事中に伝えてもらっても良いのにな。

だけど、従者選定になぜ奴隷制度の説明がいる?


「移動が必要ならば、その道すがら聞こう。

時間が勿体ないのだろう?」


 騎士クヌートの態度に、少し嫌味を言いたくなった。

時間が勿体ないのならば、節約してやろう。


 俺たちは、王城内を移動して、使用人などがいる雑用区画へとやって来た。

その道すがら、騎士クヌートは本当にその場で説明をした。

食事中は律儀にマナーを守り、かといって俺の提案があれば破る。

いまいち掴めない性格だが、まあ良いや。

どうせ直ぐに合わなくなるんだし。


 奴隷制度に関しては、ラノベで良くある話だった。

犯罪奴隷、戦争奴隷、借金奴隷、違法奴隷、奉公奴隷。

真新しいのは奉公奴隷だろうか。

奉公期間と仕事内容を決め、一定期間奴隷として働く。

労働賃金の前借りをし、その担保を自らの身体で行うという感じだろうか。

労働をして返済しなければ、それが借金となり借金奴隷に落ちる。

似た立場だが、奴隷具による強制の有無や、ここには大きな立場の差があるらしい。

他はまあイメージ通りだろう。


「従者は強制のある借金奴隷以下になる」


 以下という言い方が微妙だが、これは立場的な上下の意味合いになる。

奴隷としての立場が一番上なのが奉公奴隷で、次が借金奴隷、戦争奴隷、犯罪奴隷となる。

違法奴隷は、読んで字の如く違法なのでこの中には含まれず、法的には解放されなければならないが、実際には法の外の最悪な扱いを受けている。


 俺は、そんな奴隷を従者にして面倒を見なければならないらしい。


 俺たちがやって来たのは、城にあらゆる物資を持ち込む通用口にある広場だった。

入るためにも資格がいる厳重に警備された区画だった。


 その一角に奴隷商が呼ばれていた。


「ボリーソヴィチ、見れるか?」


「お待ちしてました、騎士様。

どうぞこちらへ」


 ボリーソヴィチと呼ばれた男が奴隷商のようだ。

彼に連れられて物資の箱の山の奥へと行くと、そこには鎖につながれた奴隷たちがいた。

従者候補だというが、そこには十代中頃だろう獣人たちがいた。


「さあ、勇者様、好きに選んでくれ」


 予備知識も無いのに騎士クヌートは従者を選べと言う。

鑑定でも使えなければ、どうにもならないだろうに。


「ん? これは?」


 鑑定でも使えなければと思った時、目の前にウインドウが現れた。

そこには目の前の犬獣人の子の鑑定結果が出ていた。

それは獣人の種類と年齢、性別そしてスキルが見えていた。


「見える!」


 俺は鑑定が使えたようだ。

あのスキルチェック時には、鑑定スキルがあるとは言われてなかったのに、どういうことだ?

まさか、あそこで何らかの誤魔化しがあったのか?

だが、ここで鑑定が出来れば優位に事が運ぶ。


「この子たちは同じ値段か?」


「そうだ。

特に能力に差はないから、外見などで好きなのを選べ」


 騎士クヌートは鑑定が出来ないようだ。

なぜならば、この中に掘り出し物がいるからだ。


 それは猫耳の少女だった。

猫人族、15歳、女、そして料理スキルに聖属性魔法のスキルを持っていた。

他の子は、普通のスキルさえ持っていない。

何故この子がここに混ざっているのか不思議だった。


「この猫人族が良い」


 この子、今は汚れているけど、磨けば光る掘り出し物だと思う。


「わかった。

ボリーソヴィチ、この子をもらう。

後で請求しておくように」


「かしこまりました。

では、奴隷契約を。

ご主人は……あなた様ですね。

それでは、血を一滴、そうその首輪に垂らしてください」


 ボリーソヴィチは慣れた手つきで俺の指に針を刺し、その血を猫人族少女の首輪に垂らした。

すると首輪が光り、魔法陣のようなものが現れ消えた。


「これで契約が終了しました」


 そして俺は、そのまま猫人族少女を連れて部屋まで戻って行くことになった。

その道すがら、奴隷を持つ意義とか、奴隷に対する主人の責任とかの説明を騎士クヌートから受けた。


「聞いて無いよ!」


 奴隷を持つということの大変さを買うことを強制された後に言うなんてずるくね?

とりあえず、奴隷の衣食住は主人持ちだということを理解した。

俺、金持ってないよね?

金を稼ぐ手立てもないよね?

訓練中も王国が給料払ってくれるのか?

これ、どうしろって言うんだ?


 なんか、はめられた気がする。

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