002 スキルチェックSIDE-B
「それでは、ご案内いたします。
あ、まずはスキルチェックをいたしましょう」
王女役が、対象を応接室に誘った。
対象も素直に付いて行く様子だ。
どうやら微塵も疑っていないようだ。
「そなた、準備なさい」
「かしこまりました」
そうだった。応接室の準備だ。
この対象ならば、すんなり王女役に付いて行く。
ならば、各種チェックを済ませてしまおう。
『応接室Aに誘導』
誘導先を王女役に知らせる。
応接室Aには、対象を詳細に調べる魔道具を設置してある。
対象のスペックを丸裸にするのだ。
「なあ、ステータスは見ないのか?」
突然対象がステータスの話を持ち出した。
どうやらスキルチェックという話に違和感を持ったようだ。
対象の世界では、スタータスがあるという認識が蔓延っているからだろう。
「はい? ステータスですか?」
王女役がとぼける。
この世界にもステータスはある。
だが、それを知っていると知らないとでは、成長に大きな差が出るのだ。
我々は対象を効率よく育てるために、そのステータスを利用している。
だが、本人がステータスを把握してしまうと、余計なことをし出すという前例があったのだ。
そのため、今はステータスの件は極秘となっている。
対象にはステータスは無いと思わせ、我々だけがその恩恵を得るのだ。
「ステータス、ステータス・オープン」
対象が身振りまで加えてステータスを表示しようとしている。
ステータスは、魔法を覚えれば表示できるようになる。
だが、落ちて来たばかりの対象が、その魔法を持つことはない。
このままその存在を知らなければ、無いものと諦めることだろう。
「うふふ、不思議なお方」
王女役が、いかにも変な事をしているという演技をする。
いいぞ、対象がステータスを把握しても百害あって一利なしだからな。
「こちらへ」
階段を昇り、廊下を進み、やっと応接室Aに辿りついた。
「どうぞ、お座りになってください」
対象が王女役の誘導に素直に従う。
良い傾向だ。素直な者は育て易い。
王女役がこのまま魔道具を使わせる手筈だ。
「それでは、こちらに触れていただけますか?」
王女役に促されるも、対象が戸惑いを見せる。
これはどうやら、自分のスキルを開示することに不安を持っているようだな。
『プランそのまま。不安を取り除け』
王女役に指示する。
それに対し王女役は、この場合用の定型的な台詞を話す。
「安心してください。
元々勇者様には聖なる力が存在します。
スキルはオマケみたいなものです」
「わかった」
オマケと聞いて対象が安堵の表情をする。
この結果によって待遇が変わらないと判断したのだろう。
対象が手を触れると水晶球が眩く光り出す。
実はこれ、本物でない完全に出鱈目なエフェクトだ。
誰でも、同じように光るのだ。
スキルチェックの魔道具だというのも嘘っぱちだ。
「おお、これは!」
護衛騎士がいつもやっているくせに、大袈裟に驚く。
こいつ演技が上手くなったな。
「素晴らしい光の強さですね」
王女役も持ち上げる。
最早様式美だ。
「この魔道具は光の強さで、その人の能力の高さを示します。
そして……」
王女役が説明している間に、光が弱まり、出鱈目なスキルが晶球の中に浮かび上がる。
「!」
対象の反応は、それが読めなかったからだろう。
当たり前だ。嘘の文字だからな。
「ご心配させてしまいましたか?
安心してください。
この文字は神聖文字と言って、特別な文字で読める者は少ないのです。
えっと」
「こちらを」
お約束の芝居が続く。
ここまでマニュアル通りも珍しい。
「お食事の用意が出来てます?」
対象に読める文字を見せて安心させる。
たまに本当に読めない奴がいるので、そのチェックも兼ねている。
これで納得するとは御し易そうだ。
「読めましたね」
「安心した」
王女役も笑いが止まらないだろう。
「それで、俺のスキルは?」
『異世界言語、敏捷、聖級剣技だ』
実は俺の目の前には本物のステータスとスキルが表示されている。
部屋に設置された本物も魔道具による結果だ。
それを対象に見せないための茶番なのだ。
スキルは認識していなければ、使うことが出来ない。
なので、こちらだけが知り、対象に使わせるスキルをコントロールするのだ。
「異世界言語と、敏捷、そして聖級剣技ですね。
聖級剣技は剣聖と呼ばれる者が持つ最上位スキルですよ♪」
剣聖の持つスキルだと言われ対象が喜んでいるが、あれは嘘だ。
特級剣技というもう1つ下のスキルだった。
これは、剣技は伸ばしたいが、実際の危険なスキルを使わせないための措置だ。
対象の持つ本当の最上位スキルは、人を増長させ、この世界に破壊を齎す危険がある。
彼を王国のために働かせるためには、封印すべきスキルだったのだ。
スキルは本人の成長により新たに取得することもある。
もし対象が信用のおける人物であれば、おいおい解放する可能性もある。
そうなってくれれば良いのだが……。
まだ、対象が逃げるのではないかと、俺は経験から疑っていた。
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