001 勇者召喚SIDE-B

「魔力の高まり、検知しました!」


「なに? ついに来たか。第1級非常態勢だ!

勇者召喚警報を出せ!」


「はっ! 第1級非常態勢発令。

勇者召喚警報を各部署に出します」


 俺の名はクリストハルト・フォン・ヒルシュフェルト。

王宮特別監視団団長を拝命している。

王宮特別監視団とは、この世界に落ちて来る異世界転移者を確保、監視することを任務とする騎士団だ。


「対象を追えるか?」


 この異世界転移者、圧倒的なスキルを得てこの地に来るものだから、正しく導かないと、世界に仇名す存在となる。

その異世界転移者を保護し、サポートするのが俺たちの役目だった。


「捕まえました!

王城地下、召喚の間に誘導します」


 団員が魔力を操作して、王城の地下に設置された魔法陣に対象者を誘導する。


「まったく、この自然現象にも困ったものだ」


「接触部隊、舞台に上がりました」


「よし、相手の出方を監視する。

いつでも処分出来るように待機だ」


 異世界転移者は全員が善人の勇者ではない。

中には凶悪な犯罪者が混じっていることがある。

そのような者が、この世界で暴れ、秩序を乱すなどということが散々起きた。

その対処が、この異世界召喚したという芝居だった。

そこで様子を見た結果、全力を以って処分することも辞さない。


「男性、推定年齢20代です」


「外見チェッククリア」


 どうやら見た目は凶悪犯ではないようだ。

人は見た目ではないのだが、一目でヤバイと解かるやつはいるものだ。


「プランBに移行。

王女役を出せ!」


「ようこそおいでくださいました、勇者様。

私、エーベルヴァイン王国第一王女、シャルロッテ・フォン・エーベルヴァインと申します」


 対象に王女役が接触する。

本物の王女を危険に晒すなど出来はしないからな。

もし、外観に反して異常な精神を持った犯罪者だったら、この女性隊員女優の命は無いかもしれない。

それだけ危険な任務だった。


 王女役が相手を刺激しないように笑顔で接する。

金髪縦ロール、瞳は碧眼、超美少女。

異世界転移者がイメージする王女の姿そのもののはずだ。


 王女役がニコニコと対象を見つめる。

想定外に、対象の反応が鈍い。


「えーと、大丈夫ですか?」


 痺れを切らして、王女役が訊ねる。

彼女も躊躇っている様子だ。


「いや、つい考え事をね。

これは勇者召喚ということで良いんだよね?」


 これは話が早い。

勇者召喚を知っているならば、この後の対処方法を狭めることが出来る。

勇者召喚定番コースにご案内だ。


『プランB2に移行』


「はい。ご理解が早くて助かりますわ。

勇者様には、そのお力で魔王を倒していただきたいのです」


「待って。俺は無理やり召喚されて戸惑っているんだ。

それに急に魔王討伐と言われても、平和な世界から来た俺には無理だ」


 なるほど、このタイプか。

用心深く、戦いを嫌い、魔王との戦いに消極的。

暴れるタイプでないのは確定したな。

だが、このタイプ、隙を見て逃げることがある。


『プランB2-03に移行』


 俺の声が王女役に伝わる。

ちなみにプランB2-01は、奴隷の腕輪を渡して管理下に移行だ。

プランB2-02は、煽てて乗せてコントロールする。


「仰るとおりですわ。

無理やり呼んだこと、謝罪いたしますわ。

私共が出来る充分な補償と支援をお約束します。

力をつけるための訓練にも時間をかけるつもりです。

実力不足の間は無理に魔王討伐へと行かせることもいたしません。

勇者様をサポートする要員も揃え、万全の体制を整えましょう。

どうか我がエーベルヴァイン王国をお救いください」


 これで暫くは対象が逃げる事はないはずだ。

訓練にどう向き合うか、チート能力は何なのか?

そこを見極め、魔王討伐に送り込もう。

どうせ彼らには、帰る術は無いのだ。

この世界に馴染み、その唯一の力で役に立ってもらおうではないか。

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