第22話 虫ゲロ障(仮)無人島編その2

冠達から一足先に別れた監督は、少し出っぱったゴツゴツとしている岩場にやってきていた。

そこで釣りを始めようとした時、監督は釣り竿はあるのにどこにもその餌がない事に気づいた。


自分が取り忘れたのかと思い、カメラマンに確認すると、そのカメラマンは自分の上司がこれを聞けば、どうなるかを考え少しかわいそうな目をしながら、顔を横に振った。


それを聞いた監督は、一人でハハハと乾いた笑いをこぼしながら、そうかそうかとぶつぶつと呟き始めた。


それから5分ほど経った時、監督の脳内にアクトそっくりな人物が現れて、監督に今の状況を打破するための知恵を与えた。


そのアクト似の人物が指差した先には、岩場をカサカサと歩くフナムシが大量にいた。


普段の監督ならそいつらを絶対に触らないが、今の監督は特別仕様(アクトによる洗脳中)なので、側から見ると、虚空に向かっていきなり頭を下げたと思うと、フナムシを掴み出しそれを釣り針に刺すと言う、意味のわからない行動をし始めた。


それを撮影していた、監督の部下は今までどんな仕事もそつなくこなす、かっこよかった先輩が自分の目の前で壊れていく様を見て、自然とその瞳から涙が溢れ始めた。


そしてなんとこの男、実は趣味が魚釣りで、休日にはよく釣り仲間と海釣りに行くので、普通に釣りがうまい為、クロダイやベラなのどの魚を何匹か釣り、更には岩場でカニやフジツボなどの、魚以外の食材を確保すると言う、MVPを上げてもいいほどの結果をさらっと出していた。



場面は海から山の中に変わり、アクトは水を探しに山の奥深くの方へと入っていた。

その最中に食べられる山菜などを見つけると、それを自分のポケットに入れ、食べられるかわからないものは、一度口に入れその大概が毒のためその場で吐き捨てる。

その様子を見ていたカメラマンが不思議そうに、アクトに先程から何をしているのかと聞くと、アクトはさも当たり前の様に毒味と言い、今まで吐いていたものが毒だと知ったカメラマンは、アクトに訳のわからない様なものを口に含まないでくださいと言ったが、アクトはそれを了承しながらまたしても木のみを口に含み、それを吐き出した。


アクトはどんどんと山の奥に進み、道という道のない獣道や、木を伝って3メートルほどの崖を登ったりもしながら進んだ結果、普通にカメラマンはついてくる事はできず、そのカメラマンから俺の代わりにコイツをお前に託すぜ!と、言われてそのカメラマンが持っていた手持ちカメラを受け取り、それを自分で回しながら山の奥深くへと進む、沿岸部の方は地面も乾いており、植物もそこまででもなかったが、今現在アクトのいる場所は無人島のほぼ中腹あたりで、周りを見渡してみるとものすごく自然豊かで、地面を触ってみると少し湿っていた。


「ようやく見つけた」


そう言いながらアクトは、より地面が湿っている方へと移動していくと、そこには少し大きな岩があり、そこからはちょろちょろと湧水が流れていた。


その湧き水が流れてくるところに、持ってきた鍋を置く。


鍋に水が溜まるまでの暇な時間で、動画用にここらで1番高い木に登り、島全体をその託されたカメラで写した。


そんな事をしていると、鍋に水がある程度溜まったので、中の水がこぼれない様に鍋に蓋をして、さらにはそこらで見つけたムチで鍋と蓋が離れない様に、ガッチリと補強して水を一旦どこかに置くために、アクトは途中でリタイアしたカメラマンを広いながら、山を一旦後にした。


山を出るとそこには大量とはいかないが、それなりの量の魚を釣り上げた監督の姿があった。


「よう監督!結構釣れてんなぁ」

「はい、おかげさまで。それでそちらの水も確保できたんですか?」

「おかげさま?それはまぁいいか、それで水だったな」


そう言うとアクトは手に持っていた鍋の蓋を取り、並々入った水を監督に見せた。

それを見た監督は少し驚きながらも、この水を持ってきたのが、頭のおかしい事で有名なアクトなので少し不安になり、それをアクトに確認した。


「アクトさん、一応念のため聞いときますが、これって飲める水なんですか?」

「まぁ、天然の湧水だから多分飲めると思うけど、その前にはちゃんと煮沸するから、そんな気にしなくてもいいぞ」


それを聞いた監督は驚いた


「ここに湧き水なんてあったんですか!」

「いや探せば案外どこでもあるだろ。まぁ、水が表面に出てないことの方が多いから、今回は手が汚れずに済んでラッキーだったな」


そんな事を言いながらケラケラと笑うアクトを見て監督は、思っていたよりもアクトのサバイバル知識が高そうな事を知り、今回の無人島生活がもしかしたら、いつもの仕事をするだけの毎日より楽になるのでは?と一瞬考えたが、その考えは夕食の時に一瞬で消え失せた。


その後は、アクトと監督で島の周りを少し探索しながら、冠達がうまく拠点を作れているかの賭けをしたりと、普通に無人島生活を楽しんでいた。


そして日が沈み、アクト達が冠達の作った拠点に行き、各々が今日行った成果の発表をして、その後はみんなで晩御飯を作る事になった。


その際監督が、アクトのサバイバル知識がすごい事を冠達に話し、それならサバイバル料理などもできるのでは?と言う話になったところ


「おう、もちろん作れるぞ。なんなら今日の食事は俺が担当してやってもいいぞ?」

「ほうゲロ男は料理ができるのか、まぁ日頃から自分のことを完璧な存在だとか言っているのだから、それぐらい出来てもおかしくはないな」

「ワ…私は!リョウリ出来なかったので、デできる人がいて良かったです」

「私も、魚を捌いたりは出来るのですが、そこから先はどうも苦手らしくて、ですので料理ができる人がいてくれてよかったです」


という訳で、晩御飯はアクトの当番となった。

その際冠と監督は明日からの行動などを話し合い、ネガは少しでもアクトを手伝おうと思い、アクトの近くにいたのだが、あまりにいきなりの事だったので、呆気に取られて止めるのが少し遅れた。


サバイバル料理という事で、アクトはまず適当に周りから枯れ木などを取ってきて、そこに着火剤を使い火をつける。

そしてそこに監督が海で取ってきた、海の幸達を全て落とす。

更には今まで拾ってきた、きのみや山菜などを岩ですり潰し、それを監督と島を見て回っていた時に見つけた器に流し込む。


そして、そこまでやった時にようやく動き出したネガが、アクトに全体重をかけたタックルをする事で、無理矢理止める事に成功した。


「うおっと、急にどうしたんだネガ?そんなに腹減ってたのか?もうすぐ出来上がるからちょっと待っとけ」

「え?」


ネガは正直何が?と言いたかったが、それよりも自分の目の前で起こった不可思議な出来事によって、ネガの頭の許容量は突破し、それを脳が処理するためにその場で直立不動になった。


いきなりアクトが火の中に自分の手を突っ込み、そこで丸焼き(全く火が通ってない)にされている魚に、先程作っていたよくわからないエキスを流し込み、他の食材も火の中から取り出し、それらを適当に大きくて平たい岩に盛り付けて、アクト作のサバイバル料理が完成した。


生魚と謎の木のみと山菜のエキスを触った手で、まだ脳の処理をしているネガを抱えて、作戦会議中の二人の元へと向かった。


「おい、二人とももう飯できたぞ」

「あら、そうなの?意外と早いわね」

「そうだねなんだか体感、5分も経ってない感じがするよ、これも無人島で時間感覚が狂ったせいなのかな?」


そんな事を話しながら、アクトは二人を本日の晩御飯が乗せられ岩まで連れてきた。

そしてそれを見た二人は、お互いの顔を見合わせて、顔を引き攣らせた。

更にはよくよく嗅いでみると、そのどう見ても生焼けの、なんの調理もされていない魚から少しの酸味が感じ取れた。


「なぁ、ゲロ男これは一体なんだ?もしかして私達にも、お前の様にゲロを吐かせようとしているのか?」

「は?そんな訳ないだろ?お前食べ物で遊ぶなって教わらなかったのか?」

「そうか、そうか……そうか」


本当に今日の晩御飯が、この食べても体に害がないのかよくわからない、食べ物と言ってもいいのかわからない、物体Xになった事を察し、冠はただただ静かに落ち込み、監督があの時自分がアクトを推薦しなければと後悔していた。


「ほらみんな早く食べようぜ!お前らが食いたいって言ったから、この俺が腕によりをかけて作ってやったんだ。しっかり味わって食えよ」


そう言ってみんなの前に出されたのは、謎のエキスを口内から無理矢理突っ込まれた、なんの下処理もされていない生焼けの魚と、なんの味付けもなしの、ほぼそのまんまなカニやフジツボなどだった。


「あれ?みんな食べないのか?」


料理が出されてから約3分、まだ誰もその料理には手をつけていなかった。


「そう言うと君は食べないのかい?」

「それもそうだね」


どうしても食べたくない冠と監督は、一口本人に食べさせて、これが人の食べるものではない事を、知ってもらおうとしたのだが。


「いや、それが昼間水汲みに行った帰りに、俺について来てたカメラマンと、途中に見つけたきのみ爆食いしたせいで、今結構腹一杯なんだよな。知ってるか?きのみって結構後で腹に来るんだぜ」


それを聞いた冠と監督は、その例のカメラマンの方を、何故止めなかったと言う視線を送りながら睨み、自分が睨まれている事に気づいたそのカメラマンは、そっと二人から目線を外した。


3人がそんなどうでもいい茶番をやっていると、アクトは先程からネガが一切話してない事に気づいた。


「あれ?どうしたんだネガ」


アクトが、ネガに声をかけても一切反応はなく、ネガのほっぺたをこねくり回しても、一切反応しなかった。


「もしかしてネガの奴寝たのか?」


そう実はそのまさかなのである。

元々全くと言っていいほど外に出ないネガが今日は、無人島に来ては拠点の場所探しのために歩き回り、更には拠点を作るために必要な、自分以上もの大きさのある枝などを運ぶなどして、体力を徹底的に使い、そして先程の光景を見た事によって、ネガは自分の脳内で超高速思考をした結果、その答えを算出する前に完全に体力を使い切った事により、気絶しそのままそれは睡眠へとシフトチェンジし、今に至ったのである。


「まぁ、そろそろ子供が寝る時間だし仕方ないか、じゃあ俺はネガを連れて行くから、これは二人で全部食べといてくれよ」


アクトはそう言うとネガをいつも通り担ぎ、冠達が作った拠点内にある、落ち葉などを使った睡眠スペースに寝かし込み、気持ちよさそうに眠るネガを見たアクトもだんだんと眠気が強くなっていき、そのままネガの隣に寝転び目を瞑った。


そしてそんなほのぼの空間とは打って変わって、アクト特製の料理が並べられた岩の前にいる二人はというと、その料理達を押し付け合っていた。


「そう言えばこれは、監督さんが釣ってきたものでしたよね?なら監督さんが食べるのが、この子達のためにもなるでしょう」

「いえいえそれより冠さんは、拠点作りという重労働を行なった訳ですから、それはもうお腹が空いている事でしょうから、私の事は気にせずお食べください」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいやいや」


そんな押しつけあっていた二人だったが、この光景動画に乗る事になっているため、食材を無駄にすると大バッシングがくる事を知っている二人には、これを残すと言う選択肢はなく、覚悟を決めた二人はいただきます!と大声で叫び、その物体Xに大きな口で齧り付き、次の瞬間二人はゲロでは無く泡を噴き出してその場で昏倒した。


※残ったものは責任を持ってスタッフ一同で、美味しくいただきました。


ーーあとがきーー


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