第16話 虫女こと冠先輩
最近阿久津が色々とやらかすせいで、よく泣く羽目になるマネージャーが意を決して阿久津に、今度また変なことをするときは私に言ってくださいと、言ったところ、無理矢理阿久津に連れられて一緒に、バンジージャンプ配信をする事になった。
その結果、帰る時にはマネージャーは完全に恐怖で腰が抜けており、帰りはおぶって帰ることになった。
結構バンジージャンプ会場と事務所は離れていたせいで、マネージャーをずっと背負っていた阿久津は、疲労困憊の状態で家へと帰宅した。
「あ"〜疲れた」
「お疲れですね、お兄様」
「まさか、マネージャーが腰を抜かして歩けなくなるとは、誰も思わんだろ」
「ふふふ、それもそうですね」
2人で話をしながら、小雪がつくってくれたビーフシチューを2人で一緒に食べていると、小雪のスマホがなった。
「あっ、もう結果が出たようですね」
「結果?なんか応募とかしてたのか?」
「お兄様お忘れですか?UPライブ公式番組のメンバーを決める、リスナー投票がありましたよね。今その結果が発表された所です」
「あーアレね」
そんなんあったっけ?
「それって何人だっけ?」
「確か3人だったはずですよ」
「そうか……小雪的には今回の結果、どうなると思う?」
そう聞かれた小雪は少し考えた後に、自分の考えを話し始めた。
「流石に全員は分かりませんが、多分ですが1人は、冠先輩だと思います」
「冠先輩って確か、あの虫を食べ始めたあのイカれ女だろ?そいつってそんなに人気あったのか?」
「ええ、あの人登録者が250万人も居て、UPライブ無いで一番人気ありますからね」
「……250万か」
初配信から約1ヶ月半の今現在、俺の登録者数は同期の中でぶっちぎりで多く、その数は俺たちの一つ前にデビューした、リリィ達にも迫る勢いで50万人も居る。
それでも最近は初配信ブーストが終わり、伸びが止まりはじめた、だからこそ、その憎っくき食虫女の250万人という数字の凄さがわかる。
「それは、何というか凄いな」
「はい、ですので1人は冠先輩で間違いないと思います」
「なら後1人が誰かだな……」
「はい、出来れば私もお兄様と公式の番組をやりたいのですが、流石に私の実力ではダメなのは分かっていますので、少し悔しいです」
「まぁだが、これ以上考えた所でもう1人が誰なのか見当も付かないから、答えを見るとするか」
「それもそうですね」
そう言うと小雪は、自分のスマホを操作して投票の結果を探した。
「あっ、ありました」
「それで結果は?」
「やはり一位は冠先輩でしたね」
「流石は250万人だな」
「そして次がお兄様ですね」
「妥当だな。だが次投票があれば、俺が一位になるのは明白であろう」
「もちろんです!次があれば皆がお兄様の素晴らしさを知り、全ての票がお兄様に行く事、間違い無いでしょう。」
「当然だな。それで、後のもう1人は結局誰だったんだ?」
「えーっと……あっ!お兄様の同期の方ですね」
同期?どっちだ?清楚で売ってる方か?それともコミュ障の方か?
「お名前は、ネガさんと言うらしいですね」
なるほどコミュ障の方だったか
「だが、意外だな。どうしてネガの奴が選ばれたんだ?」
「えっとですね、少し待ってくださいね」
小雪はスマホの画面を上下に動かす。
「理由は、お兄様と冠先輩の間に、ガチコミュ障を入れたら面白そうっていうのが、ほとんどですね」
「なるほどそう言う理由で選ばれたのか……」
思えば同期と話すのはこの企画が初めてだな。
「そう言えばこの公式番組ってのは、何をやるか決まってるのか?」
「確かラジオをやるって話だったと思いますよ」
「ラジオか……まぁ余裕だろ。」
◯
という訳でラジオ撮影当日、UPライブの事務所内にある、スタジオの一室に向かった。
そこはよく見るラジオ番組をやる部屋のような形になっていた。
集合時間の30分前についたせいか、まだ阿久津以外の人は誰1人としていなかった。
誰か他の人が来るまでの暇つぶしの為に、スタジオの天井にへばり付いた。
そんな意味のないことをやっていると、自分と同い年ぐらいの女性が、スタジオ内に入って来て周りを見渡していた。
「なーんだ私が1番なのね、普通は新人が先輩より早くついているものじゃないのかしら」
「それは偏見だぞ、その考えのまま生きていくと今後の人生で苦労するぞ」
そう言いながら、阿久津はその女性の後ろに着地した。
いきなり自分と同じ歳の男が、天井から現れた事に驚き、その女性は大きく尻もちをついた。
「やぁ、初めましてその様子だと、アンタが頭のおかしい250万人食虫女の冠先輩とやらだな?俺は期待の大新人様のアクトだ。この名前をよーく覚えていることだな」
阿久津がいつもの様にカッコつけながらそう言うと、尻餅をついた冠が阿久津の顔をまじまじと見ると、全身をワナワナと振るわせ立ち上がる。
「そうか貴様がアクトか……」
「ああ、その通りだ」
「では、アクトよ貴様に一つ質問をする。お前この顔に何か見覚えはないか?」
冠はそう言いながら自分の顔を指した。
「うーむ……」
そう言われた阿久津は一応考えるそぶりを見せているが、その実マジで何にも1ミリも、ピンと来てなかった。
どれだけ考えようとも、思い出せそうにも無かったので、阿久津は考えることを早々に諦めた。
「さっぱりだな。俺には全くもって見当がつかない、何故見知らぬ俺がお前のことを知っていると勘違いをしたのか知らないが、流石に自信過剰過ぎないか?もう少しその辺自重したほうがいいと思うぞ?それとも何だ?もしして、俺たちは一度どこかで会った事があったのか?それならすまないが、俺は覚える気のない奴のことは、全く覚えないタチなんで、君との出会いは大変薄味で、つまらなかったものなんだろうな」
そう言われた冠は、歯をぎりぎりと鳴らし、顔には無数の青筋を浮かび上がらせていた。
「私との出会いは、貴様にとってはいちいち記憶する必要もないことだっただと?ふざけるな!ふざけるな、ふざけるな!ふざけるな!!!」
冠は、はしたなくも大股で地団駄を踏み始めた。
「どうした?どうした?急に暴れ始めて?アレか?やはり虫を食い始める女は頭がおかしいのか?」
「ここまで私をコケにしたのは貴様が初めてだぞ?」
「?」
「よろしい!ならばこの拳で貴様の体に思い出させてやる!」
それと同時に冠は、前回の事から密かにシャドウボクシングをしており、そのせいか前よりも少しほんの僅かだが、きっと多分、おそらくmaybe早くなった右ストレートを、阿久津へと放った。
そしていきなりの事だったので、阿久津はその拳を少し体を逸らしてかわし、プロボクサーのアイク直伝の右カウンターを食らわしてしまった。
「あっ!」
その瞬間阿久津の脳には、つい先日の大食いの女性にゲロを吐き、更には着替えを覗き、殴りかかって来たのを華麗にかわした後、今回同様に右カウンターを決めて全裸で気絶させたのを思い出した。
「思い出した。お前あの時の」
阿久津がそう声をかけようとしたが、前回は羞恥心で顔を真っ赤にして、今回は怒りで顔を真っ赤にして気を失っていた。
「えーっと、すまんかったな」
気を失っていると冠対して、手を合わせて謝っておいた。
ーーあとがきーー
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