第17話 ネガの自宅訪問

阿久津に綺麗な右カウンターを決められた、冠は約10分ほど気を失っていたが、目を覚ましてからはこちらを視線だけで殺すつもりなのか、到底女性がしていい顔ではない程の、殺意に満ちた悪鬼螺旋の様な表情になっていた。


今回のラジオは、大まかな流れは決まっていたが、ラジオの名前などの細かい所は、当日に決めるという事が決まり、阿久津達はラジオ開始の2時間ほど前には集合をかけられていたのだが……


「ネガの奴来ないな……」

「ええそうね、連絡してみたけど既読すらつかないわね」


そう、阿久津の同期でもあるガチコミュ障のネガが、時間になってもスタジオにやって来ないのだ。

運営も、これには少し焦っており、個人チャンネルでの遅刻はまだ許容できていたが、これは公式チャンネルでの放送だ。遅れるわけにはいかない。

そんな訳で、今スタジオは阿久津と冠を除いて大慌てである。


それから30分が経ち、今現在そろそろ本当にやばそうになって来た。

今までは、スタッフの数人が慌てていただけで済んでいたのだが、少し事が大きくなりまさかの美咲までもが、ネガに対して連絡を入れ始める様になっていた。

そんな様子を見て、そろそろ手伝ってやるかと思い至り、阿久津は静かに手を上げた。


「俺ネガの住所知ってるんで、もしよかったら迎えに行きましょうか?」

「どうして、ゲロ男の貴様がネガちゃんの住所を知っているんだ?」

「ゲロ男とは侵害だな、この虫女。俺が同期になった記念に、アイツらに好きな物を買ってやったんだ、その時に普通にアイツらから住所を聞いたから、知っているだけだ」

「ふんっ、ゲロ男の割には殊勝な行いをするじゃない」

「そりゃどうも、って事なんで俺ちょっと行ってきますは」


スタッフの人達にもお願いしますと言われ、阿久津はネガの家へと向かう為にスタジオを後にした。


ネガから教えてもらった住所をもとに、電車に乗って移動する事10分、ネガの家は事務所から近い事もあり、15分ほどで目的地に着く事ができた。

ネガの住んでいる家は、ロビーと玄関の2つに鍵がかけてある、そこそこいい所のマンションだった。

住所に書かれた部屋番号を入力すると、通話が繋がった。


「おい、ネガ今すぐここを開けろ!」


阿久津がそう言うと通話は、ブツリと音を立てて一方的に切られた。

再度部屋番号を入力すると、またしても通話は繋がるが、カメラに阿久津の顔が映った瞬間に、通話が切られる。


どうしたものかと、阿久津が思案していると、そこにちょうど良く配達員が通りかかった。その配達員から、帽子を奪い取り再度部屋番号を入力する。

今度は先程奪った帽子を深く被り、向こうから顔が見えない様にしながら、声を変えて話しかける。


「あっ、すいませーんお届け物でーす」


少し馬鹿っぽく阿久津がそう言うと、通話越しの相手は相当の馬鹿なのだろう、何の疑いもかける事なく、その扉を開いた。

配達員に帽子を投げ返し、阿久津はネガが住んでいる10階へとエレベーターを使って向かった。


部屋の前まで着くと、今度はチャイムに付いているカメラに限界まで近づき、そのほとんどを体で覆い顔が見えない様にしながら、先程同様に馬鹿っぽい声で話すと、その扉は開かれた。


扉から出て来たのは、身長は見たところ130程で、ダボダボなTシャツを着込んだ、その小さな体の一部が不釣り合いにな美少女、俗に言うロリ巨乳と言割れる体型をしている少女が、何の警戒もなしに出てきた。


「やぁ、初めましてだなネガ。体調は大丈夫かい?」


阿久津はネガを見下しながら、そう言うと阿久津の正体が誰だか分かったのか、ネガは勢いよく部屋の扉を閉めた。


「チッ!閉めやがったな。おいゴラさっさと開けろ!」


阿久津は、扉を全力でドンドンと叩く。

そして叩かれるたび、扉の直ぐ側からヒッという可愛らしい声が聞こえる。


「さっさと開けろ!」


いくら扉を叩いても出てこないので、無駄だとは思いながらも、阿久津は扉のノブに手を置き、ノブを回し自分の方へと引き寄せた。

するとなんと言う事か、急のあまりネガは扉の鍵を閉め忘れたのだ。

扉が開きそうになってようやく、ネガも扉の鍵を閉め忘れたことに気づき、扉が開かない様に力を入れる。だが男と女、それも阿久津は身長が180もあり、尚且つ普通に体も鍛えているため、そんじょそこらの人間どもより、身体能力が高いのに対してネガは、身長130あるかないか程で、さらにはインドアなせいで体力も無く、そんな人物が阿久津に力で勝てるかというと、当然そんな事はなく。

無情にもドアは阿久津の手によって開かれ、ついでにノブにしがみついたままの、ネガまで一緒に引っ張り出された。


「よう、さっきぶりだな」

「ハ…ハヒ………」


手を扉のノブに乗せたまま、地べたに座り込むネガを阿久津が片手で、米を担ぐ様にネガを担いだ。


「ア…ヒャー!」


持ち上げられたネガはいきなりの事に、一瞬驚きながらもすぐさま自分の格好を客観視して、恥ずかしくなったのか、手で阿久津の背中を叩きながら、全身を使って暴れ回った。


「おい、暴れるな!運びづらいだろ」

「ャ…ャァー!!」


流石に鬱陶しかったのか、阿久津は家に戻らない様に扉を閉めてから、扉を塞ぐように立ち、その場にネガを怪我をしない様にそっと降ろした。


「さっきから暴れて何がしたいんだ?ネガお前自分の立場分かってんるのか?お前遅刻してるんだぞ?そして俺はそんなお前を迎えにきてやったんだぞ?どうせ寝坊して、急いで向かおうとした所で怒られるのが怖くなって、行けなくなったんだろ?」

「ウッ」


図星だったのか、ネガは少し照れながらモジモジし始めた。


「今ならギリギリ怒られないラインだから、俺はお前のためを思って急いでるんだぞ?そのお前がそれを拒んでどうする?なんなら今から俺だけ事務所に戻って、1人で行かせたろか?」


少し脅す様に阿久津がそう言うと、ネガは急いで阿久津の元へ向かい、親指と人差し指で阿久津の服を掴み、うるうるとした目で阿久津を下から覗き込んだ。


「そんな泣きそうな顔で見んでも、んな事やらねぇよ。だから分かったならもう暴れんなよ」


阿久津は再度ネガを持ち上げ、そしてまたしてもネガは暴れ始めた。


「だから、さっきから何なんだよ!」

「……キガエ」

「あ"?なんだって聞こえねぇぞ?」


阿久津はその場でしゃがみ込み、ネガの高さに合わせて耳を傾けた。


「この服だと恥ずかしいから着替えたい」

「あーそうなのか?普通にその服で出てきたから、それが外用の服だと思ってたわ」


それならそうと早く言えよと、少し文句を垂らしながら、阿久津はネガを掴んで家の中へと入った。

家に入ると阿久津は、抱えられた状態のネガに自分の部屋まで案内してもらい、そのままネガの許可もなしに堂々と女子の部屋に入った。


中に入ってみるとそこは女子の部屋というよりかはオタクの部屋で、床には少しゴミも散らかっていた。

そんなことは気にせず阿久津はドンドンと部屋の奥へと行き、ネガの体と比べると少し大きめのベッドにネガを放り投げた。


「ウギャ」


投げられた衝撃でネガは潰されたカエルの様な声を出した。


「チョッ…ちょっといきなり投げないでください」

「あーハイハイ」


ネガの言葉を適当に聞き流しながら、阿久津は両手でネガのダボダボTシャツを掴んだ。


「ハヘ?」


ネガがアホそうな言葉を発した瞬間、阿久津はネガのTシャツを掴んだままその手を勢いよく上に上げた。

ネガのその小さな体に似つかわしくない、豊満な二つの果実はTシャツを脱がされた衝撃で、勢いよく上下に揺れた。


「ヘ?…………ギにゃああァァァァー!!!!!」


顔をりんごの様に真っ赤にしながら、その小さな手では隠しきれない豊満な胸を、どうにか片腕で隠そうとしながら、阿久津が天高く掲げている今まで自分が身に纏っていた、Tシャツを阿久津の手から取り戻そうと、パンツ一丁姿で片手をできるだけ高く上げながら、阿久津の周りを飛び跳ねる。


そんなことはお構いなしに、阿久津はネガのTシャツを手に持ったまま、部屋中のタンスなどを開けていった。


その中にはもちろん可愛らしいパンツに、胸のサイズのせいかあまり可愛らしさのないブラなどもあった。そこから適当にブラとパンツを取り出し、それを今なお自分の周りを半裸で飛び跳ねている同期の顔面目掛けて投げつけた。


下着を投げつけられたネガは、先程以上に顔を真っ赤にしながら急いでブラをつけ始めたが、余りの焦りのせいか手汗もダラダラと出てきて、上手くつけられずにいた。


ネガが、ブラをつけるのに苦戦している中またしても阿久津が部屋の中を散策していると、タンスの中に違和感があり、適当にそこをいじっているとタンスの底が抜け、その中からは体力の薄い本それもR18のものが大量に出てきた。


確かネガの奴はまだ17だったはずだが、これは大丈夫なのか?

そんなことを思いながら、エロ本の山を軽く見渡しているとそれはそこにあった。

我が妹小雪のvtuber体であるリリィのエロ本だ。


ようやくブラがつけ終わったネガは、先ほどの胸丸出しの時よりは少し落ち着きを取り戻していた。その瞬間、阿久津が先ほど見つけた本を勢いよくネガの目の前で地面に叩きつけ、ネガを指差しそのままその指を地面へと下ろした。


そして何かを察したのか、ネガの顔は赤から青に変わり、先ほどとは全く違う感じの汗を全身から流し始め、下着姿のままその場で静かに正座をし始めた。


「なぁネガ、俺とお前は同期だよな」

「ハヒ」

「だから俺はお前と同期という事で、特別にお前がまだ18になってないくせに、エロ本を買ってることは許してやろう」

「ハヒ」

「なぁネガ少し例え話をしよう。もしお前の前に犯罪を犯した友人に優しくしてくれる友人がいて、その癖にその犯罪クソ野郎が、その友人の妹を夜のオカズにしてたらお前はどう思う?」

「ア…アノ……コレはですね」


そう言うネガの顔は青を通り越して白色になってきており、視線も左右上下と目線が泳ぎまくっていた。


「どうしたネガ?そんなにキョドって?俺は例え話をしただけだぞ?それでお前はその犯罪者のことをどう思うんだ?」

「サ…」

「さ?」

「最低なクソ野郎だと…思います。」

「そうか、ネガはそう思うんだな。」


そう言うと阿久津は立ち上がりネガの横まで行き、その場でゆっくりとしゃがみ込み、ネガの耳元で「俺もこう思うよ」と呟き、見つけていた着替えをネガに放り投げて、ネガの部屋を出た。


それから数分後、すごく居心地悪そうなネガがきちんと着替えて部屋を出てきた。

また移動の為に阿久津がネガを担ぐが、今度は一切なんの抵抗もなく持ち上げられた。


「それじゃあもう準備は大丈夫だな?」


阿久津がネガにそう聞くと、ネガは取れてしまうのでは?と思うほどの超高速で首を縦に振った。


そして、ネガを担いだまた移動まま阿久津が、ネガの家を出るとそこには警察官が2人立っていた。


ーーあとがきーー


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